第8話 謎の騎士との再会

 あたたかい。

 まるで母に抱かれているようなぬくもりを感じて、エリスは目を覚ました。


「気がついたか?」

「あなたは……」


 若い、金髪の男性だった。


 髪と同じ金色の優しい瞳、柔和な表情、だが首から下は白銀の鎧に覆われていて、彼が戦う者であることを示していた。


「体が……」


 あれほどの崩落に巻き込まれたのに、体に痛みは無い。

 エリスは手を何度も握っては開き、体の状態を確かめる。


「貴方が治してくれたのですか?」

「ああ、まだ一か所残ってるけどな」


 そう言って、男性はエリスの額に触れ、その手が淡い光に包まれる。


「か、回復呪文? 貴方は白魔術師なのですか?」

「この格好が白魔術師に見えるか?」


 最初の柔和な印象とは違い、以外とぶっきらぼうな言い方である。

 あれは何かの身間違いだろうか。

 しかし、鎧姿で腰に剣を指し、なおかつ魔法が使えると言う事は……


「貴方も勇者ですか?」


 勇者の武器は剣だが、剣士と違い勇者は攻撃魔法と回復魔法も使える。


 レイド学園では勇者学科は剣士学科と同じ剣術に加えて黒魔術学科と白魔術学科の勉強もするという多忙な学科である。


 かの伝説的な勇者、レイドに至っては剣と魔法と同時に使い、剣に攻撃魔法をまとわせた魔法剣と呼ばれる技を使いこなしたとされている。


 だが男性は背を向け、


「そんな偉いもんじゃねえよ」


 と言って近くの岩に腰を下ろした。


「そういうお前は勇者なのか?」


「はい、レイド学園の勇者学科を卒業しました、エリスと申します、貴方の名前も教えて頂けますか?」

「俺はジューダス、そしてここは河原だ」

「河原?」


 見れば、ジューダスの背後には巨大な川が流れ、自分だ倒れているのは丸い石で敷き詰められた上だった。


 川に落ちて流されているところをジューダスが拾ってくれたといったところか。


「私以外の人は?」

「残念ながら俺は流されるお前を偶然見つけただけだ、他は知らん」


 アルアや他の皆の事を考え表情を曇らせるが、エリスはすぐに弱気な自分を奮い立たせる。


 レイドなら諦めない。

 レイドなら挫けない。

 レイドなら負けない。


 これがエリスの奮い立つ魔法の呪文である。


「すみませんがグレモア盆地への道は解りますか?」

「知らないけど、なんでそんなとこ行きたいんだよ」


「実は私は、今回の大天使召喚作戦に参加する勇者でして、期日までにグレモア盆地へ行き、術者達の身を守らなくてはならないのです。

 それに私の仲間も無事ならグレモア盆地を目指しているはずです」


「大天使、ああ、あんたあの作戦の参加者か、じゃあなんとかなるぞ」

「本当ですか?」

「ああ、だって大天使召喚するなら術者がたくさんいるんだろ、じゃあ魔力が集まってるところに向かえば隊列に会えるだろ」

「魔力を追えるんですか?」


「ああ、本当は霊脈辿るのがてっとりばやいけど地震のせいで今、霊脈乱れているしな、ん? なんか俺変な事言ったか」


 ぽかん、と口を開けたままのエリスは口を閉めて、それでも見開いた目だけは閉められなかった。


「その、大魔法を使っているならともかく、ただ高い魔力を持っている人の魔力を感知するなど……貴方は何モノですか?

 術師でも無いのにそんな事ができるなんて、さぞ名のある方とお見受けしますが」


 しかしジューダスは、いやいや、と手を顔の前で振って否定する。


「お願いだから持ち上げないでくれ、俺はただちょいと器用なだけの男だよ。変な期待させて悪かったな、それより早くグレモア盆地行こう、地震が起きてからもう五時間くらい経っているからな」


 ドラゴン達と戦っていたのは午前だった。

 だが、エリスが空を見上げると太陽は真上を通り過ぎた後である。

 太陽の傾き具合から今は三時過ぎだろう。

 そこでふと思い出す。


「ジューダス殿、失礼ですが昨日、ドラゴンの巣にいませんでしたか?」

「そんな危険な所に行けるわけないだろう」

「そ、そうですか……」


 白銀の鎧に金の髪、そしてその容貌は、今思えば昨日ドラゴンの巣で見かけた男性にそっくりなのだが、やはりあれは身間違いだったのだろうかとエリスは自分の頭を抱えた。


「おい、置いてくぞ」

「ま、待って下さい」


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