越冬

冬を越えると春と言う季節になるらしい

辺り一面薄っすらとあった雪も解けてなくなり、冬の間に大人しくしていた獣や植物達も活発になる

枯れて落ちた葉っぱに変わり、生き生きとした生命力溢れる緑の草木が森全体を豊かに彩る


きっと、知識と言う物を身に付けたからだろうか?今まではなんてことの無かった森の様子も、冬の間に人間の言葉を覚え、いろんな事を教えて貰った僕の目には今までとは違う、感じた事の無い世界が広がっていた


春の息吹を感じて感動している僕だけど、朝日を少し浴びた後は直ぐに働かなくちゃいけない

僕はこの森の中にあるゴブリンの村の奴隷なのだから


ゴブリンと言うのは人間側からすると醜く、醜悪で汚い生き物らしい

僕からするとそんな事は何も感じないので不思議な感じだ。と言うよりもむしろ僕の仲間達を悪く言われてる事に怒りが沸き起こりそうだ


そんな僕の最近の日常はとにかく物作りに励んでいる

馬車を作る事が最終的な目標だけど、先ずは衣食住である住だ。まずなんと言っても住処が整ってなければはじまらない


でもその住処も、冬の間もひたすらに住処作りをしていたデークくんによってこの村のゴブリン達の住処は全て僕の教えた今までより頑丈な住処へと変わった

村の皆は今までよりも頑丈で、かつ雨風を凌げる住処に喜んでいた

そんなデークくんに感化されたのか、今では弟子のような存在を五人連れている


あ、今まではゴブリン達の事を一体二体で数えていたけど、僕からすれば人間との違いはさほど無い様に思うのでこれからは一人二人と数えていこうと思う


それで話を戻すと、もうこの村のゴブリン達の家が完成したので、今回は僕の家を新しい物にしようと思う

と言うのも、冬の間に彼女達にいろんな事を教えて貰っているときに出てきた[街]と言う所にある家は、凄い物のようで[絵]と言う技術を使って教えてくれた


それに感動した僕は、地面にたくさんの[絵]を書いてゴブリン達に変な目で見られたっけ……

一人だけ真剣な眼差しでこちらを見るゴブリンがいたような気がしたけどあれから見てない気がする………


僕の家を更に広くしたい理由は簡単だ、単に狭いからだ

あの人間の女の子と一緒に寝ているので、僕一人が寝れたら良いと思っていた家は広くせざるを得ない

「こんな感じのはどうだ?」


デークくんはずっと物作りに力を入れていたからか、作る速さも正確さも既に圧倒的になっていた

しかも、僕では考えつかなかった方法や技を次々と編み出している

そんなデークくんと一緒に僕は自分の家を大きく、更に雨風が凌げる物に変えた


今までより二倍に広くなった家に、高さも加えて二階部分もあるようにした

最初、[絵]でこの発想を見た時は目から何かがこぼれ落ちそうな気になったのを、今でも覚えている

そしてそれらを僕はデークくんへと伝えるだけで良かった


ずっと物作りへと力を入れてきたデークくんの物作りの力は、既に僕の……いや、人間のレベルを遥かに上回り、弟子である五人のゴブリン達も、デークくんをよく支えてくれている

だからこそもう、僕の出番はなかった……

……と言うより、あのゴブリン達のパワープレイにはついて行けない……


木材が凄い勢いで適正な大きさに切られて、それらがビュンビュンと空を飛び、その人間の力では持てるのか怪しい資材を屋根の上と言う不安定な場所で片手で掴み取るデークくん達………


これには一緒に考えてくれた人間の男性も口をパクパクさせて驚いていた…

《な………⁉》


驚いた様子と言うのは言葉が分からなくても互いに認識できる物なのか、嬉しく思ったらしいデークくん達の作業速度は更に上がっていたけど………


そしてデークくん達が作業を始めて二日後にはとても立派な家が出来ていた

「我ながら最高の出来だ。今度は俺ん所も作るか」

もうデークくんは一人でどんどんと家を作っていく

この村の家が全てまた新しい物に変わっていくのも時間の問題かもしれない


さて[住]の問題が解決したのなら次は[食]だ。けどそれもそこまで問題じゃない

冬が終わり、春になった森には餌を求める獣達の動きが活発になり、あの例の穴……所謂[落とし穴]の効果も未だ健在で、イッチ達もどんどんと獲物を仕留めてくる


冬の間も変わらずやっていた落とし穴だが、やはり暖かくなって動きが活発になってきた今の方がたくさん獲物が獲れている

そしてイッチ達は既に僕に頼る事なく獲物を仕留めてくるようになっていた

なんでも、穴を掘り続けていたら頭に何か光のような物が走って、[罠師]と言うスキルを手に入れたとか


イッチが[罠師]、ジロが[探知]、サブが[誘導]と言うスキルをそれぞれ会得したらしい

それらのお陰か、彼等の罠を使った狩りは凄い物で、僕がいろんな情報を元にポイントを決めて罠を仕掛けるやり方と違い、彼等は森を探索し、ジロが[探知]で獲物を見つけ、イッチがすばやく近くの罠を仕掛けるポイントを探し穴を掘る。

その間にサブがジロが[探知]した獲物をイッチが仕掛けた罠へと誘導して落とす


いつも一緒だった三人の息のあった連携の効果は凄まじく、彼等は毎日のように獲物を持ってきていた

そして持ってきた獲物は僕の家の前でいつものようにミッシュが調理する

彼は肉を焼くと言うだけの作業をこの冬の間に昇華させたのか、肉の切る厚みを変えたり、食べられる野草や木の実も一緒に焼いてみたり、僕の好きな赤い木の実をすり潰した物を肉に掛けてみたりといろんな事をやっていた


それらはあまり美味しくないものも結構あったけど、今では彼が出すご飯はほとんどが美味しくなっている

………たまに変な物を出す時もあるけど…

そういえばミッシュもデークくんもそれぞれ[料理]と[大工]のスキルを会得したと言っていた


多分そのお陰で今までの作業が格段に上手になったのかもしれない………

いや、違うか。彼等が頑張った結果にスキルが付いてきたのかもしれない


そんな彼等は全て自分達の力で出来るようになった筈なのに、未だにこうして僕の家まで集まり獲物を分けてくれる

デークくんだって僕の家を作ってくれた

彼等は奴隷であるはずの僕にこんなにも優しく接してくれている


ゴブリンと言う生き物が狡猾で汚く、醜悪で意地汚いだって?

僕はそうは思わないな


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