その為に
さて[住]と[食]が改善されたのであれば最後は[衣]だ。
ふと改めて村の様子を見ると、彼等は何処から持ってきたのか[布]のような物を腰に巻き付け、大事な部分だけを隠すようにしている
あの連れてこられた人間達も鎧と言う防具を脱がせば、下には布で作られた[服]を着ていた
その[服]の耐久性は結構凄い物で、僕がずっと身に着けていた葉っぱで出来たマントのような物は直ぐにボロボロになるのに対し、あの人間の女の子はずっと同じ服を着ているけど、汚れている以外には破れたような箇所も見当たらない
そんな[服]を作ろうと人間の女の子と暴れる大女に聞いて見たところ
「そればっかりはこの村では作れないと思うな」
「作り方は知らないけれどまず[糸]がなきゃ無理ね」
と言われた。人間の男性に聞いてみても反応はあまり良くなかった
そんな人間の男性と大女は意外にも拘束を解かれている
僕が彼等の言葉を理解して、村長と相談した結果そうなった
男性の方はもう痩せ細って、一人の力では多分僕にも勝てないだろうし、大女の方も、人間の女の子との仲が凄まじいのか、絶対に人間の女の子に傷を付けさせないと言う気迫を感じた
だから僕から村長に相談した。まぁ最近は彼女達も僕に協力的になっていたからね
やってもらった事はちゃんと返さないといけないと思うから
ゴブリンなのに人間の僕を育ててくれた母さんや、優しくしてくれるイッチ達の為にもね
それで話を戻すと今の状況では僕の服は作れそうにないので余っている布を少しずつ村の皆からもらった
彼等は村の戦士達がたまに持ってくる人間の死体からこれらを剥ぎ取り生活していたようだ
それが、彼等に作る技術がないのに武器とか布なんかを持っている理由だった
僕は村の皆に少しずつの焼いたお肉と交換で少しずつ彼等から布を分けてもらった
不思議な事に、彼等の視線は最初の時よりも柔らかくなっているような気がした
何故だろうと思っていたら
「お前は人間の癖に頑張るやつだ。お前はいいやつだからイッチ達もお前と仲良くしてるんだろう」
と言われた
毎日毎日村の奴隷としての作業をしている僕に、頑張ってると言われるのもなんだか少しおかしく感じたけれど、僕はなんだかこの村の皆に少し認められたような気がして、妙に嬉しかった
それで僕は村の皆から布を分けてもらって、それらを馬車に積んであった[裁縫具]と呼ばれる物を使い、糸と針で繋げていきなんとかマント状の物にするのに成功した
本当は[服]にしたかったけれど布の量が足りなかったから断念。[裁縫具]にあった[糸]も、布と布とを繋ぎ合わせる分でギリギリだった
僕はその出来たマント状の上からまた緑の葉っぱを縫い付ける
これがないと森の獣達から気配を隠せない上に、この村の仲間じゃない気がするからね
肌の色は違くても僕はゴブリンの仲間でありたいから
出来たマントは今までよりも格段に暖かく、[布]と言う物の凄さを感じさせてくれた
《まぁ、……大事な部分が隠れたならそれでいいわ……》
人間の女の子には顔を赤くしながらそう言われた
どうやら男性としての急所は、見せると恥ずかしい物らしい
だから村の皆も腰にまいて隠していたのかと今更ながらに思った
………てっきり急所を少しでも守る為なのかと…
こうして[衣][食][住]の全てを今までよりも良い物に変えた僕は、意を決して村長の元へと向かう
村長の家は村の中心にある大岩の中にある
だから元々頑丈で、雨風も滅多に入らない
そんな村長の所に行き僕は思い切って声をかける
「母さんに会わせて下さい」
最初村に来た人間の子供を見た時、こいつは直ぐに死ぬだろうと思ったし、俺は目の前の存在が人間と言う事実に怒りが込み上げ、緑の葉っぱを纏って少しでも俺達ゴブリンに見せたいと言うその姿に俺は更に腹が立った
怒りに任せた俺のパンチでも死ななかった人間の子供を、ララとその息子のカースは必死に庇っていた
「…あの子は人間だぞ?」
それでも家族だと言い張るララとカースに俺は条件を出した
人間との関係を経つ事を。二人は少し考えていたようだが、しぶしぶなからも納得していた
………仕方ない。奴等はまだ気付いていないのだ
人間と言う生き物は狡猾で意地汚く、醜悪で悪い奴等なのだ
昔、まだこの場所を見つける前、俺のいた村は今よりもっと人間達の住む場所に程近かった
そんなある時人間達は、俺達の村を強襲した。俺達を殺す為に森を焼き、退路を断ち、剣と魔法を浴びせ村の仲間を殺していった
……それだけならばまだ分からなくもない…俺達が彼等からすると獲物だと言うならばまだ理解も出来よう…
だが、森を焼く必要はあったのか?俺達以外にもたくさんの命が失われた筈だ。それに剣で斬りかかる者も、魔法を放つ者も、………笑っているのは何故だ?
何故笑いながら命を奪える?彼等は俺達を食べる為に殺して居るのか?
いや、少なくとも俺は人間が俺達ゴブリンを食べるなど聞いた事がなかった
俺達が獲物を獲るときはお互いに命懸けだ
当然だ。命を獲る為に、命を獲られるならばそれが自然の掟だ
だが何故彼等は俺達を殺す?
増えたから?繁殖力が強いから?そんな事を言ったらお前達人間達だって………
俺はギリギリの所でその村を抜け出す事に成功した
その時に負った背中の傷と、左足の黒ずんだ火傷の痕は未だに俺を苦しめる
あの時の仲間達の悲鳴が忘れられない
助けてくれと繰り返す声が忘れられない
笑いながら命を刈り取る人間達に対する恐怖が忘れられない
そう、村の連中の大半は人間に会った事がないから分からないのだ。人間と言う生き物の醜さと怖さを………
ララが連れてきた人間の子供はこの村の奴隷となってよく働く
朝から日が暮れる少し前まで必死に村の為に働いている
時折俺が常日頃から口にしている、人間は恐ろしいと言う言葉と、人間は殺せと言う教えがあるからか人間の子供は意味もなくよく殴られている
それは作業の合間だろうが休憩中だろうが関係なく殴っていた
人間は確かに恐ろしい存在ではあるが、生き物としてみるならば我らゴブリンの方が遥かに肉体は強い
なのに人間が強いのにはきっと理由がある
俺はその答えをもしかしたら知ることが出来るかもしれないとの理由で人間の子供をこの村に置いている
……………今も血を吐きながらくたばる寸前のか弱い存在が生きていければの話しだがな………
最近人間の子供の動きが怪しい……と言うよりも村のゴブリン達の数名が、あの人間の子供がいる方によく行っては帰りに獲物を持ってくるようになった
本人達に聞いても拾ったとしか言わないからそれ以上は聞かなかったが、こう毎度毎度拾って帰ってこられると、その獣を仕留めた奴はどんな存在なのだ?と知りたくなってしまう
だってそうだろう?毎度獲物の半分以上を残して森に放置するなんて、そんな獣は今まで聞いた事もないし俺は知らない
しかし彼等が持ってくる獲物は彼等だけでは到底倒せる相手ではないので不思議に思うだけで俺はそれ以上は追求しなかった
グレートボアだろそれ?俺でも勝てんよ……
………あいつは一体何をしている?自分は高みの見物でゴブリンの……あいつはデークだったか?デークに住処作りをさせている
ついに本性を表したな人間め!やはり人間は狡猾で醜悪だ。自分が奴隷と言う事も忘れてゴブリンに作業をさせるとは……
………違うのか?………人間の子供は作業したそうにしてるな………でもそれをデークは許さないと……
だったらもう違う作業をしたら………
あぁ、その場を離れるのも許さないと………
オロオロしている人間の子供と夢中になってなにやら新しい住処を作っているゴブリン……
……………何をしてるんだ彼奴等は………
人間の子供の行動が分かった
奴は奴隷と言う存在でありながら、この村のゴブリン達と仲良くなり、文句も言わずにひたすらに言われた事をする人間の子供に、村のゴブリンは少しずつ人間の子供の存在を認め始めていたようだった
奴が奴隷になってからと言うのも、村は徐々にキレイになっていき、月に一度はあった獣の襲撃も、今ではなくなっている
理由は村中のゴミを奴が一人で捨てて廻っているからだろう
匂いの薄れたこの村には、獣は余程じゃなければ入ってはこない
理由はこの村は森のちょうど開けた場所にあるので、日の光を嫌う森の獣達は、わざわざこの場所にはこないのだ
夜に活動する獣もいるが、大半はマズイゴブリンよりも、美味い相手を狙う
だから人間の子供のお陰で獣達の襲撃がなくなっていたのだ
更には奴は武器の修繕も行う
基本俺達ゴブリンに、武器を作る技術はないから壊れた武器はそのまま捨てるのだが、人間が奴隷になると言う事で真っ先に上がったのが武器の修繕だった
人間ならば出来るだろうと言う簡単な考えだが、奴はそもそも生まれてから人間達の世界を知らないだろうから、出来ないと思っていたが奴は奴なりに必死に武器の修繕をしていた
ゴブリンとは違うその肉体で、血を流しその手を真っ赤に染めながら、奴は泣き言一つ言わずにその作業をずっとこなしていた
だからだろうか?村の連中の人間の子供を見る目が優しい物に変わっていったのは?
だからだろうか?徐々に徐々に、意味もなく殴られる事がなくなっていったのは?
だからだろうか?………あんなにも憎く、常に殺したいとまで思っていた人間と言う存在に、もしかしたら…人間にも悪くない奴等がいるんじゃないかと思ってしまうようになったのは…………
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