次の目標

「………人間の…子供?…」

《ひっ…ゴ、ゴブリン⁉》

動く大きな住処にあった小さな入口から中を見ると、僕と同族だと思う人間の子供が外の奴らと同じように、手が繋がれていて口も何かで塞がれて喋れなくなっていた


外の奴らと違うのは、この子は足も繋がれている事か………なるほど。捕まえたらこうしておけば、生きたままで動きを止められるのか…

不思議と外で見た同族達よりも大きさが僕と近い事もあってなんだかこう……僕がゴブリン達に抱いている気持ちと似てる感覚がある……


「ぐわっ⁉まだ動くのか!?大人しくしろ!」

僕が動く大きな住処の中にいた人間の子供に少しの興味を持っていると、後ろの方でなにやら騒がしくなっていた


見ると、人間の女性が一体、手も口も足も繋がれたままにゴブリンの一体を頭で吹き飛ばしていた

《んんんんー!!んんんんー⁉》

その人間の女性は必死に何かを叫び、体に自由がないにもかかわらずその迫力で他のゴブリン達が近寄れないでいる


「……カース、あ奴は?」

「はい、あの中で一番の手練れで我々もかなり痛めつけられましたが、何とか取り抑えられた者です。武器を失いながらもあの強さと、必死にあの馬車を護っているように見えたので、何か役に立つかと思い捕えました。ただ…見ての通りの凶暴な人間なので子供を産ます事は難しいかと……あの馬車の中の人間と何か関係がありそうなので今は様子を見て、言う事を聞かす材料になればよいかと…」

なるほどなと村長は呟き考えだす……


カー兄……いつの間にあんなにも難しい言葉をいっぱい使うようになったのか……でもそれよりも……あの動く大きな住処は馬車と言うのか?

僕は新たな発見にまた、胸の辺りを激しく動かせながら、このゴブリンの村に人間が六体増えた事にまた新しい考えが、頭をよぎるのだった






僕の生活は変わらない。起きたらまず捨て物を終わらせて、光が真上の所に来るまでデークくんの住処作りを見守る

もうそろそろ僕が見なくても大丈夫なくらいに、デークくんは住処作りが上手くなっているから、この不思議な僕の作業も要らなくなるかもしれない

その次に武器の手入れをしたら、イッチ達が獲ってきた獲物をミッシュが焼いてくれてるのでそれを食べる


そんな変わらない生活に一つだけ変わった事が起きた。それはあの馬車の中で見た人間の子供が僕と同じ、この村の奴隷になった事だろうか?

人間の子供は僕がやる事の一つ一つに《え…何してるの?》と、言葉は分からないけれどいちいち驚いていた


そんな人間の子供は奴隷と言いつつ作業は何もしていない。何かをさせようと捨て物を入れる様子を見せてからその入れる道具を手渡そうとしても……《な、なんで私がゴブリンなんかのゴミとか汚物を捨てなきゃならないのよ⁉》と、相変わらず何を言っているかは分からないけれど、かなり怒っていたのでもう作業はさせてない


でも奴隷とかそんな事の前に、何もしてないのに食べ物にありつける事も無い

《ね、ねぇ…そのお肉頂戴よ……私お腹が空いたのよ…ねぇってば……》

イッチ達と火を囲んで肉を食べていると人間の子供が近寄ってくるが

「お前、何もしてないだろ!この肉はダメだ!」

「そ、そうだ。お前は何もしてない」

「食べ物を食べたければ役目を果たす事だな」

「確かにこの人間は見てても何もしてないな、ならアカンな」

「住処作りはやらせないけどな。他にもやる事はあるだろ?」


ゴブリン達の言う事も当然だと思うし、僕ももちろんそう思う。同族だし、同じ大きさの人間だけど、何もしてない奴に食べさせるのは違う気がする

………だけど……だけど、母さんも前は何もしてない、何も出来ない僕に食べ物を与えてくれていた。だから少しだけ……少しの間だけはこの人間にも食べ物をあげようと思う……


「…僕も、少し前までは母さんから食べ物をもらってたんだ。だから…少しの間だけは食べ物を分けてあげても良いかな……?」

僕は火を囲む皆に自分の考えを言う

「……好きにしたらいいんじゃねえか?」

「お、お前が決めたなら別に…な?」

「…………だけどお前に与える肉の量は変わらん。その何もしてない奴に食べさせるつもりなら、お前の食べる分を分ける事だな」

「そりゃそうだな。よっしゃそれで決まりやな!」

「住処作りはさせないからな」


こうして僕は自分の食べ物を人間の子供にも与える。人間の子供はそれを泣きながら食べたあと、僕の住処で眠る

何かこの人間にも作業をさせないといけないけれど、なにも考えつかない

せめてこの人間が何を考えているかが分かればいいんだけど…………




ちなみにあの馬車に繋がれて来た人間達は、僕とデークくん達で作った大きな住処で繋がれている

一度、様子を見に行ったら中ではゴブリン達の生殖行為が行われていた

人間の女性三体に対して何体ものゴブリンが代わる代わる生殖行為に励んでいた

この村のゴブリン達も更に増える事だろう


人間の男の方は大きな住処の隅の方に繋がれたままでずっと瀕死の状態だ、一度大きく暴れ出した時にゴブリン達にボコボコにされていたからそのせいだろう


そしてあの例の凶暴な女性だけどその女性は大人しくしている

馬車の中で手と足は繋がれているけど口は塞がれていない

多分理由は一度、同じく奴隷となったあの人間の子供を連れて僕とカー兄と村長とで馬車に行った事がある


その時にしたのは、僕が馬車から逃げ出す振りをして、それを村長が捕まえて、僕を刺す振りをするカー兄

そして今度はカー兄が暴れ出すとまた村長が僕を捕まえてまた僕を刺す振りをするカー兄


それらを見せた後に僕は横に居た人間の子供と自分とを指で指す

そして暴れたカー兄を手と足を繋がれた人間の女性とで指を指す

そうすると人間の子供はみるみる顔が青くなり、人間の女性も顔を下に向けて苦い葉っぱを食べた時のような顔をしていたから、村長や僕達が言いたい事は伝わったようだ


つまり、この人間の子供が逃げ出したりしようものなら容赦なく殺すと言う事と、反対にあの凶暴な人間の女性が暴れようものなら、それでもこの人間の子供を殺すと言う事を伝えた

その事が分かった以上、この二体はお互い変な事はしないだろう







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