新たな変化

あれから僕は、起きたら先ず捨て物拾いを終わらせて、光が真上に来るまでデークくんの住処作りを見守る

「あ、そこもう少し下だよデークくん」

「何ぃ⁉くそ、こうか?」

「そうそう!」


今ではデークくんも慣れてきたもので、前よりもずっと早く、住処を作る事が出来るようになっていた

光が真上を過ぎたら僕は奴隷として最後の作業、武器の手入れをしていく


これは前よりたくさん作業出来る

何故なら食べ物はイッチ達が分けてくれるから、その分を作業することが出来る

でも僕はこの作業に何か、胸の辺りがモヤモヤする感じを覚えている

何かこう…もっと上手く出来るようなのに…出来ないみたいな……なんだか……うーん、気持ちが悪い!


そんな生活を繰り返してたある時、僕は村長に呼ばれた

「お前、自分の寝床を良い物にしたらしいな」

く、村長に言われてしまっては仕方がない。差し出すしかないのか……

「ここにお前の寝床より大きな物を作れ。頑丈にして広くしろ」

どうやら僕の住処はあげなくてもいいみたいだ

僕は村長が指示した大きさを見て、それに掛かる明日の量を考える


「村長。それだけの大きさになると、明日が十回。くらい掛かります…………」

「………………」

怖い怖い怖い怖い……

村長何も言わないけれど殺気が漏れてる……

僕は下を向き、何も言わずに村長の殺気に耐えていると


「村からいくらか連れて行け。あのお前と仲のいい住処作りの変わり者ゴブリンもな。期限は三日だ」

期限……それまでにって事かな…?三日てのは多分明日が三つの事だろうか?

こうして僕は、ゴブリン達と協力して大きな住処を作る事になった


村長のいきなりの命令に僕は不思議に思いながらも、言われた事を只々やっていく。僕は奴隷だからね!




三日後、僕はデークくん達と共に大きな住処を完成させる

最初、人間である僕の言う事を聞いてくれなかった手伝いのゴブリン達も、デークくんの拳で黙っていった

デークくんはこの村では強い方なのかもしれない……


そして何故村長がいきなりこんな物を作れと言ったのか理由が分かった

完成させた住処の上から見えたからだ。木で出来た大きな何かとそれに群がるゴブリン、そして手を動けないようにされた僕と同じような見た目の種族


………つまり人間がこの村にやって来た…














「姫様!どうかお逃げ下さい!」

「ヒルダ!ヒルダ!」

「マルス!姫様を頼んだぞ!」

暗い夜空を赤い炎が照らしだし、歴史を感じさせる王宮は至る所が火にかけられている

そんな中、轟々と燃える炎の中を一台の馬車が走り去る

「追え!あそこだ、逃がすな」

その日、ハーレズ王国と呼ばれたその国は、隣国であるイーワル国との争いに敗れてしまう


しかしハーレズ王国の王は、王族の血だけは絶やすことの無い様にと自身の娘である一人の姫をイーワル国の隣国であるターリア王国へと亡命させようとする

しかし王宮にはどこもかしこも敵が溢れかえり、姫の護衛は一人、また一人と死んでいく

「姫様………どうかご無事で……」


姫と呼ばれた者は泣きながら、自分の為にその命を散らしていく者達の名を必死に叫ぶ

「姫様!どうかお静かに!」

「うぅ…うあああぁぁぁ……」

至る所で敵兵に斬られる兵士達、無抵抗を示しているのに殺されていく領民、そして何処かに連れ去られていく女性と子供……

姫と呼ばれた者はその光景を、涙で歪む視界の中で唯、眺める事しかできなかった………




広大なアッゾンの森の端の方にある先端の一角を、囲むようにして存在する三つの国がある。その一角の北にイーワル国、西にハーレズ王国、そして東にターリア王国

三国は三国とも目前を森、後方を海に囲まれた自然豊かな国々

しかして三国は、遥か五百年前から争い続けている


争う必要等無いはずなのに、その土地の覇権を握る為に唯それだけの為に戦い続ける

そして今日、五百年続いた三国の争いは、イーワル国の強襲によりハーレズ王国が滅亡し、イーワル国とターリア王国の二国だけとなった






私をのせた馬車が凄い勢いで街道を横切る

「リーヤ、このまま森を突っ切るぞ!」

「馬鹿か貴様⁉この森を抜けるだと⁉今我々は五人しかいないのだぞ?」

「馬鹿はどっちだ?見てみろ、街道はすでにイーワル国の兵士でいっぱいだ。五人であの中を突破できるものか」

「くっ……」

私をのせた馬車一台にニ人と、それに追随する馬は三頭でそれぞれ一人の護衛を乗せて私をターリア王国へと逃がそうと必死になってくれている


「いたぞ、こっちだ!」

「奴ら、森を抜ける気か?」

「馬鹿か奴ら?この魔獣の巣窟であるアッゾンの森にあの人数で挑む気か?」

イーワル国の追手を振り切る為に、馬車は止まる事無く森の奥深くへと進む




………しばらく経った時だろうか?

「……よし、ここらでいいだろう?」

馬車が止まり、私は小窓から外を覗く

「どうしたのマリア?もう着いたの?」

一緒の馬車に乗っていた護衛のマリアに私は聞いた

「……………」

「マリア?……」

だけど、返ってきたのは今まで見たことも無い様な目付きで私を睨み、腰の剣に手を掛けたマリアの姿だった


マリアの短剣を首に押しあてられながら私は馬車の外に出された

「マリア⁉貴様も裏切る気か⁉」

小さい頃から一番の付き合いである護衛のリーヤが叫ぶ


見ると、リーヤ一人を御者だったダンと、馬で追っていたメアリとシーラが囲んでいる

「ハハッ!馬鹿か?考えてもみろ?今あの姫さんを手土産にイーワル国に渡れば俺達の恩賞はたんまりだぜ?」


そんな……彼等は四人で計画を立てて私をイーワル国へ渡そうとしていたんだ……

「ふざけるな!我らは姫様の護衛だぞ⁉ハーレズ王国への忠誠はどうした⁉」


「ハーハッハッハ。笑わせてくれる」

私に短剣を押しあてながらマリアが言う

「そのハーレズ王国が今やもう無いんだぞ?考え直せ、リーヤ。お前にこの計画を言わなかったのは頭の硬いお前は必ずこの計画に乗ってこないと思ったからだ。だが今の状況なら少しは考えてくれるだろう?」


リーヤが俯き下を向く

私も下を向き涙が溢れる

私が人質とされたから?

首筋の短剣が刺さって痛いから?

違う……痛いのは心……

リーヤが体を震わせる

「ふざけるな貴様ら!それでは死んでいった者達に顔向け出来ないではないか!」

叫ぶ!……リーヤは私と同じ想いをこの絶体絶命の状況で尚叫ぶ


「うおおぉぉぉ!!」

「…っち」

リーヤの剣戟がダンとメアリ、シーラの剣を弾く

当然だ。リーヤは王国で一番の剣士なのだから

「……おい脳筋!それ以上やるなら姫さんの命はないぞ?」

「⁉リーヤ、聞いてはダメ!考えたら分か…グッ……」

私はマリアに布で口を抑えられてそれ以上喋る事が出来なくなる


考えたらすぐに分かる、マリア達は私を生かした状態で敵に渡したいのだから、今私は人質になってはいるけれど殺されるような事はない

だけど……あぁ、リーヤは確かに凄腕の剣士だけど人生の大半をその剣に費やしたからなのか、頭の方が少し残念だ

リーヤは迷わずカランッと音を立てて剣を手放す


「この通りだ。だから姫様に危害は加えないでくれ」

王と同じくらいに私に忠誠を誓っているリーヤの行動に私はこんな時なのに嬉しくなる

だけどリーヤ、私に気を使いさえしなければ、貴方はここにいる人達全員に囲まれても勝てる実力を持っている筈なのに……

もうダメなのかもしれません………

私はこれからどうなってしまうのでしょうか?……

敗戦国の姫……ろくな未来が見えません…

それなら王族としていっその事潔く…


私はもしもの時の為に隠し持っていた短剣を取ろうとして………

《ギャギャ!!》

《グギャ!》

《ギャッギャー!!》

目の前では上から急に降ってきた魔物に倒れる護衛の騎士達


一体何が⁉

《ギャッ!》

背後から魔物の鳴き声が聞こえたと思ったら、私の意識はそこで途絶えてしまいました



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