新たな住処
あれからイッチ達は何度かやって来て、約束通り穴を掘ってくれた
獲物も何度か仕留める事が出来て、村に持って帰ってイッチ達はめでたく村の戦士………にはならなかった
理由は、戦士となれば村を出て周囲の脅威を追い払ったり、新たな土地に行って種の繁栄を任されるようになるからだ
そうなってしまえばイッチ達はもう簡単には獲物を獲ることが出来ない
何故なら彼等は穴さえ掘れば、獲物を獲れると思っているから
獲物を獲るための穴は、周囲の状況、その時の環境、その時の光の位置、風の向き、木々や森の様子、などなど、たくさんの条件が合わさって初めてそこに絶対獲物が来ると信じて穴を掘っている
前に僕が掘っていた場所も、あそこが一番変化が少なくて、完成させないままに木に傷を五回つけてようやく獲物を獲る時を待った
だから彼等は僕抜きで穴は掘れないし、人間と協力して獲物を獲っていると知られれば、今度は彼等が周りのゴブリン達から変な目で見られてしまうだろう
それともう一つ理由がある
それは火の存在だろうか。この燃える光はゴブリン達の間では悪魔的な存在
全てを燃やし尽くすその光をゴブリン達は恐れている
だけどそんな火を僕は平気で使い、更に食べる物を燃やし尽くす事無く、逆に美味しい物へと変化させている
そしてそんな物を食べていたら彼等はもう前のようには戻れない。それはカー兄と母さんで分かっている事だ
獲物を獲っては僕の住処の前で肉をたくさん食べ、残った物は村に持ち帰り皆には拾ったと言う
彼等はそんな事を繰り返し、僕に協力してると言う事を村に秘密にしながら自分達の欲求を満たしている
予想外だったのはミッシュの存在だろうか?
最初、僕のご飯を堂々と食い散らかした彼は、今ではお肉を焼く存在へと変化している
何が彼をそうさせたのか?ミッシュは僕の焼いてる姿をじっと見つめ、いつしか自ら焼くようになった
初めは焼けていない所があったりして僕が焼くのより美味しくなかったりしたけど、今では僕が焼くのと同じ……もしくはそれ以上に美味しく焼いたりしている………まぁいいんだけどね………
それとまだまだゴブリン達に認められてない奴隷である人間の僕だけど、彼等の間でだけは少し認められたようで、獲った獲物を分けてくれたりして前よりは食べ物がいっぱい食べれている
それで食べ物の心配が少なくなった事で僕は次のやりたい事をやる事にする
それは僕の住処だ。
ゴブリン達の住処を直してはいるが、奴隷としての役目が終わった後に食べ物を摂りに森に入っていると、どうしても自分の住処は後回しになってしまう
だから僕は自分の住処を壊れにくい物に変化させたいのだ
先ずは穴を三個掘る。大きさは僕くらいの大きさの木が僕のお腹ぐらいまで入る大きさ。高さは僕が二つ分。
それを、寝床にしていた木からイッチが持っていた槍で二つ分の所に一つ
そこから横を向いてまたまた槍二つ分の所で一つ
そして更に横を向いて同じように槍二つ分の所に一つ、穴を掘る
ちなみにイッチ達が獲物を獲りに行っている間、ミッシュが暇になったのか僕の手伝いをしてくれている
そしたら穴に、僕と同じくらいの大きさで僕よりも高い木を挿し込んでその穴を埋める
これで寝床の木と同じように、木が四つ立った事になる
次に、立てた木と木に届くような高さの木を、地面から少し高い所で横向きに止める
止めるのは森にある植物から採れるツタ。これは僕の葉っぱで出来た身を隠す物にも使っている物で、とても頑丈だから木と木を繋ぐことにも使える
そして四つ、木と木に地面から少し高い所に横向きに繋いだ木の上に今度は青い木を並べる
この木は他の木に比べると軽いのに頑丈で、なのに切ったその青い木を縦に切ろうとすると、真っ直ぐ裂ける特徴がある
これを僕は半分にして並べていく
そうすれば………よし!これで寝床が地面から高い所に出来た。そのお陰で雨の時に寝床が濡れなくなる
でもまだ終わりじゃない。僕は次に先程立てた三つの木の上にも、下と同じように木と木を横向きの木を使って繋いでいく
そしてまた同じように青い木を半分にした物を並べる
下の時との違いはこの上に更に葉っぱのついた木の枝をいっぱい乗せることだろうか
実は木を立てた時に、寝床の木と最初の一つ目の木より、三つ目と四つ目の木は少し低い物を使っている
そうする事で、雨の水が低い方に流れていくのだ
最後に立っている四つの木にツタを繋げていく
回るようにしてツタを何個も繋げて、そこにも葉っぱのついた木の枝をぶら下げていく
住処に入る所だけ少し隙間を開ければ………
完成だ!これで今からまた寒くなる前に、冷たい雨と風から体を守る事が出来る
「……おぉ、人間の考えることはすごいなぁ」
手伝ってくれたミッシュも驚く出来上がりだ
「僕は君たちより体が弱いからね。その為にはこれくらい必要さ」
「そうなのか……いいなぁ……」
これで奴隷なんだから寄越せと言わない所が、僕とミッシュの人間とゴブリンと言う種族を無視した、良い関係を保てている証拠かもしれない
「おい人間!お前良い物作ったじゃないか!へへへ、寄越せよそれ」
そうそう、僕は奴隷だからこの村のゴブリン達にこうな風に言われるのが当たり前なんだよね
……………………嫌になるねほんと……
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