策略

さて、僕は穴の中からイノシシの肉を持って這い出る

本当は全部持っていきたいけれど、今は足の一本だけで精一杯だ


村に帰るとさっそく火を起こす

いつもは奴隷の作業とちょくちょく殴られて、その度に[肉体強化]を使うから体の力が残らなくなるけど今日だけは別だ

その為にやることをやってきたんだから


なるべく真っ直ぐの平たい木に、棒みたいな木を両手で持って棒を回しながら平たい木に擦り付ける

ひたすらそれを繰り返してるとだんだんと煙が立ち上がってくる

その瞬間を見て僕はまた一瞬だけ[肉体強化]を使って棒を更に早く回して火の子供を作る


そしてそれを木の皮を剥いたやつにうつして息を吹きかけると…………

ボッと火が燃え移り火の子供が一気に成長して大きくなる

あとはそれを太めの木の枝にも移して完成だ


火を作ったらさっき獲ったイノシシの肉を切り分けて木の枝に刺す

そして肉に直接火が当たらないように調整しながら、肉を回してしっかりと焼いていく

……………そろそろかな…………


…………よし!待ちに待ったお肉だ!さぁ食べよ……………

「おい、人間!」

久しぶりのお肉を食べようとした時に、いつもなら用もなければ話しかけて来る事なんかないゴブリン達が三体、僕の目の前に立って話しかけてきた

「それは何処から盗んだんだ?それに燃える光なんかも持ちやがってどういうつもりだ?それは全てを燃やす悪魔なんだぞ⁉」


焼いたお肉の匂いにつられてやって来ただろう三体のゴブリンは、ギロリと僕を睨みつけてこのお肉を何処から盗んだかと疑いをかける

「……………お肉ならまだあるよ?」

今この瞬間、僕には頭にいろんな道が見えた気がした

ここだ。ここを上手く生き延びた時、僕は僕のやりたい事が出来る。そう思うなにかが頭をガツンと殴った





「ここだよ」

「………すげぇ……」

「……本当だ……」

「…………ウソだろ………」

お肉は一旦置いといて僕は再び、あのイノシシのいる穴へとやって来た

暗くなれば分からなかったけど、あれからそんなに経ってなかったからか、まだ他の獣に食べられている訳じゃなかった


「この穴は僕が作ったやつで、下にいるのがさっき僕が倒したイノシシだよ。でも力がないから足の一本しか持って帰れなかったのさ」

「…………おい人間!お前は俺達の村の奴隷なんだからこのイノシシも俺達の物だ」

「…そ、そうだな!分かったか人間!これは俺達の物だ」

「………文句はねぇよな?…」

「………………もちろんだよ。僕は奴隷だからね!これは全部君たちにあげるよ」


僕はまるで母さんに褒められた時のような顔で目の前のゴブリン達に獲物をあげる

「よし、早く持って帰ろうぜ!これを仕留めたとなったら俺達も戦士の仲間入りだぜ」

「そ、そうだな!へへへ」

「おい人間!お前はこの事もちろん黙ってるよな?」

「……………もちろん。僕は奴隷だからね、君たちが黙ってろって言うなら話す事なんかしないさ」




やはりゴブリン達の力は強く、三体のゴブリンはイノシシを穴から引き上げて持っていく

…………あの穴はもう使えないかな

この森の生き物達は一度使った穴にはもう落ちる事はない

多分、獲物の血の匂いとかを感じとってるんだと思う

僕は穴に残った短い槍を集め、土を戻す。掘るときよりも早く終わるその作業をすばやくこなした後、楽しげにイノシシを持っていくゴブリン達の後を追いかけるのだった




村に着くと僕の寝床の前に一体のゴブリンがいた。そのゴブリンはもそもそ何かをしてると思ったら僕達の気配に気付いて振り返る

「……………」

「……………」

「ん?どうした人間?止まるな」

後ろを着いてきたゴブリン達が足を止めた僕に声をかける

だが今はそれどころではない………


「……これ凄く美味いな!人間!お前が作ったのか?」

僕が合間を見つけて今日まで頑張ってきた苦労は、全て食べられた後だったようだ

……………悲しいが仕方がない…………

………こいつも……巻き込んでやる!


僕はイノシシを運ぶゴブリン達に振り返り言う

「どうだい君たち?彼もこう言ってる美味しいイノシシ肉の食べ方、教えようか?」

三体のゴブリン達のゴクリと言う喉からの音が僕の耳に届いた


「さぁ出来たよ?どうぞ食べてみて」

僕はあれから同じように、切り分けた肉を木の枝に刺して、未だ燃えていたが弱くなっていた火に更に木の枝を入れて燃える力を取り戻したあと、肉を刺した枝を回しながら焼いていった


じゅわ~っと言う音と共に周囲に溢れる肉の焼ける匂いにゴブリン達はよだれを垂らしながら大人しく待ち、そして……

「「「「うめぇーーー!!!!」」」」

………お前はさっきも食べてただろ!

ゴブリン達四体は出来上がったお肉を次々に口に入れていく

「うまい!うまい!こんなの、初めて食べた!」

「ふが、ふが、ふふぁい、ふふぁい!」

「⁉これは⁉なんと!凄い!凄いぞ⁉」

「か〜!やっぱうめぇや〜!」


僕は次々と食べて無くなるイノシシ肉を、どんどん焼いていく

フフフフフ………いっぱい食べろ……そうすれば僕の考えが出来るようになる時は近い………

僕は腹を空かせた自身の体をなんとか抑え込み、未だ食べ続けるゴブリン達の為に更に肉を焼いていくのだった





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