覚悟
「おぉ、ララよ生きていたか」
ゴブリン達の村に着いた時、一体の周りとは体の大きさの違うゴブリンが母さんの元へと歩いてきた
「村長……お久しぶりです………」
村長と呼ばれたそのゴブリンは、今の僕からしたら圧倒的強者の雰囲気を纏っていて、その気配に当てられた僕は自分の体が重くなったかのような気分になっていた
「いろいろ聞きたい事はたくさん有る……それで………?まずどうして人間がここに居るんだ?」
言うなり向けられるその視線に僕の体はガチッと固まる
「………家族だそうだ……」
ジャムダも少し体を固くしながら村長と呼ばれた者に対して答える
「…家族………?」
瞬間、僕の体は天高く打ち上げられていた
気付いた時には僕を見上げる驚いた様子の母さんとカー兄が見えて、僕はそのまま地面に叩きつけられて…………
次に気付いた時には、何やら葉っぱを敷き詰めただけの場所の上に横たわっていた
痛い………
体を起こすと全身に痛みが走り、特に腹の辺りが強烈に痛かった
多分あの時腹を殴られて天高く打ち上げられたんだと、今更ながらに気付いた
「起きたか?」
声を掛けられた方に振り向くと、カー兄が心配そうな顔で僕を見ていた
「うん…」
僕はそう答える事しか出来ずに、僕とカー兄の間に今まで感じた事の無い、お互いにそれ以上何も言えない、不思議な…不思議な空間が出来た
「………………俺は……」
しばらく経った時、そんな不思議な空間をカー兄が打ち破る
「………俺は…いつでもお前の兄貴だ」
「………………」
カー兄はそれだけを言うとそれ以上何も言わずに
その場を去っていった
僕はただ何も言う事が出来ずに、去っていくカー兄の背中を見ているだけだった
「止めて下さい!」
「止めろお前ぇ!」
村に着いた私達だったけど、村長が出てくるなりいきなりあの子が吹き飛ばされた
予想通り最悪の展開になってしまった。村長は過去に人間達の手でその身を斬られ、如何に人間達が恐ろしく、倒さねばならない敵であると常々皆に言っていた
その背中の大きな傷が何よりの証拠
予想外だったのは村長が話しも聞かずにあの子を殴った事でしょうか
幸いにして気絶しただけのようですが、あの子のあの力が無ければ体が破裂していたかも知れません。そんな強力な一撃でした
「お願いです村長!話しを、どうか話しを聞いて下さい!」
「ぐぁ⁉」
私は村長の足にすり寄り地面に這いつくばりながら必死に訴え掛ける
カースはその物言いからジャムダに取り抑えられたけど、今は構ってはいられない
「……………聞こうか?俺の納得する答えをな……」
村長はその他とは圧倒的に違うその肉体から溢れ出す殺気を容赦なく私にぶつけてくる
隣では取り抑えられたカースももちろんの事、取り抑えたジャムダや周りのゴブリン達も全員が恐怖に慄き体を震わせている
……………私も例外ではなく、一番近くから受けるその殺気は立っているのもギリギリ……
だけど私は怖気づいてはいけない
どんな事だって私はしなくてはいけない
何故なら今、あの子の命を守る事が出来るのは私だけなのだから
私は全てを話した
村長が住む村の中心にある岩山の間の住処に場所を移して、カースとジャムダに囲まれながら村長と向かい合って私は話した
村作りの際に人間達に襲われた事から、皆が殺されて私だけ逃げ延びた事を
ジャムダが生きていた事は知らなかったけど、私の息子は勇敢にも人間に立ち向かい、その身を焼かれて死んでしまった事を
そしてその時、逃げている最中に人間の赤ん坊を見つけ、殺意を持ちつつも、あの子を殺す事が出来なかったと言う事を
話しを聞いているカースにはきっと衝撃の連続だっただろう
なにせこの子達には私は何も語らなかったから
「………何故すぐに村に帰ってこなかった?」
「………あの子を連れて来れば、きっとすぐに殺されると思ったから……」
「当たり前だ!人間は殺す!村長の教えじゃねぇか!」
「…………だが今はこの地にまた戻ってきた。例の人間の子供を連れて。…………何故だ?聞けばその人間の子供とそこのお前の息子はジャムダに勝ったんだろう?追い払う事も出来た筈だ」
「………逃げてばかりではこの子達が可哀想だと思っていたから……同じ種族の仲間達と一緒に居れるようにしてあげたくて」
「…あの子は人間だぞ?」
「……………共に長く生きて来ました。あの子はもう、カースと同じ、私の息子です!」
私はこの重い、重い空気の中、時折ぶつけられる殺気に臆する事無く全てを語った
「…………条件がある…」
来た、と思った。村長は長い事生きているゴブリンなだけあって、ただのゴブリンから進化して人間達で言うところのホブゴブリンと言うゴブリンの上位種になっているらしい
当然のように力が強いのももちろんだけど、何より頭がキレるようになっている
だからこそこの村でずっとずっと村長だった
「あの人間の子供を生かす条件だが三つある
一つ、あの人間は我らゴブリンの奴隷だ。殺しはしないが何でも言う事を聞いてもらう
二つ、お前はこれからこの村をより強大にする為たくさんの子を産んでもらう
そして最後に、お前とお前の息子はあの人間との関係を断ち切り、これからはゴブリンとただの人間として生きて行く事。それが俺の出す条件だ」
私はあの子の親であるつもりだ
種族は違えどあの子を育てて、カースと一緒に生きてきた
だけどあの子を死なせない為に関係を断てと言うならば………………大丈夫………私は大丈夫……あの子が生きていけるなら……
「………わかり………ました……」
あの子が目を覚ました時、なんて思うだろうか?裏切られたと思うのかな?売られてしまったと、そう思うのかな?
……それでも、一人でこの森は生きてはいけない……
…………大丈夫……たとえあの子になんと思われたとしても……私はずっと………
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