成長
やはりゴブリンと言う種族の成長は早い物らしい
私はあの日、村に襲撃を受けた時から一人で逃げた
仲間を殺した人間達が怖かったのもあるけど、理由はもう一つある
それが今は目の前で四つん這いになりもぞもぞと動く人間の子供
私は一体どうしてしまったのか、あろうことか仲間を殺した仇である人間の子供を殺せなかった
そして何故かそのままこうして育ててしまっている
そんな私を見たら同じ種族のゴブリン達はどう思うだろうか?
私は女性だから殺されないかも知れないけれど、この子は直ぐに殺されるだろう
それと同時に人間と一緒にいるこの子も……
「かぁちゃんはらへったー」
木の棒片手に今まで走り回っていたのかドロドロの姿でやってきた少し前に産まれた私の二人目の息子。ラジが産まれて直ぐにお腹に宿った新しい命
父親は多分二番目に強かったダマラだと思う
名前はカース。この子はやはり一月程で産まれた後十日程で立ち上がり、今では背丈も私を超えている
そんなカースを見るとやはり不思議に思うのがこの目の前をもぞもぞと動く、か弱い生物
この人間の子供は既にカースが走り回っているのに対し、未だこうして自力で立つことすら出来ない
「こいつまだたてねえの?なんだよこのいきもの?」
「……こら、あまりそう言ってはいけませんよ。彼は人間と言う種族の子供です。不思議に思うかも知れないけれど人間と言う種族の子供はこのような物なのです」
特に知らないけれど今はこうして言うほかならない
「ふーん。いまだにきのみもかじれねぇくせによくいきていけるよな」
………そう、この子は未だに私の乳で育っている
カースはもう自由に木の実を食べたりしてると言うのに
……………本当はこんな筈じゃなかった。謎の感情から一時的に殺さずにいたけれど、殺すタイミングも死ぬタイミングもいくつもあった
今でこそ私の乳を喜んで飲んではいるものの、最初は種族間の違いからか飲んでも吐き戻し、まるで毒物でも食べたかのようにみるみると衰弱していった
……………私は、そんな人間の子供を見て……少し、ホッとした……
自分が自分じゃないみたいに人間の子供を殺せない今の私にとって、生きる為に仕方がない事をして、結果死んでしまうのならば、それは仕方がない事だから
だから、このまま乳を飲ませて死んでしまったとしても……それは仕方がない事………
そう自分に言い聞かせて人間の子供に乳を飲ませ続けた
…………………結果、人間の子供は死にそうな状況から一転、環境を克服したとでも言うのかみるみると元気になっていった
…………………………不思議だった………死にそうになって……勝手に死ねば余計な重荷を背負わずに村に帰れると言うのに………生き延びた人間の子供を見て…………何故かホッとしている自分もいる……
分からない…………私が何故このような感情に振り回されているのか………分からない………
人間の子供は本当に手間が掛かる
「もう乳は出ないよ、生きたいならこれ食べな」
第二の息子が大きくなってもうしばらく経つ。私はもう乳が出なくなり、私の乳で生きてきた人間の子供は生きる為には乳以外の物を食べていかなければいけない
だというのに噛む力が弱いのか、柔らかい木の実ですらこの人間の子供は食べる事が出来ない
仕方がないから木の実を石で砕いたものをすり潰して人間の子供の口に放り込む
すると人間の子供は一瞬びっくりして吐きそうになっていたが、お腹が空いていたのかモグモグと食べ始めた
なんともまぁか弱い種族なのだろうか……
と思うと同時に脳裏にあの襲撃してきた人間達がよぎる
「くっ…………」
今でも思い出すだけで体が震える
こんなか弱い種族の生物が、あんなにも強い生物へと成長する事に強い恐怖を感じてしまう
「母さんどうしたの?」
体を震わせる私を見てカースが心配してくれる
まだこの子は目の前のか弱い生物が、あんなにも強い生物に成長する事を知らない
……………このまま育ててしまっていいものか?災いをもたらす前に早く処分してしまった方がいいんじゃないか?
……………私は既に何度目になるかも分からない思考を再度頭を振ることで掻き消すと、自分で食べる物すら採れない、か弱い生物の為に木の実を採りに住処としている岩陰の洞穴から出ていくのだった
か弱い生物がやっと立てるようになった。
今ではカースの後をトテトテと着いていき、見よう見まねで何かをしようとしている
「かっちゃ、あむ!」
……………未だに自分で食べ物の用意すら出来ないこの生物に、私は既に諦めの境地で今日も生きる為の糧を与える
「こえ、しゅき!うーま、うーま」
赤い木の実が気に入っているようで、人間の子供はこれが好きだとこればかり欲しがる
少しは丈夫になったのか、その赤い木の実をそのままあげてもモグモグと食べる人間の子供
一方でカースはもう木の実では誤魔化せないくらいに糧を欲している
本当は村の仲間達が狩りの仕方などを教えて獲物を捕れるようになるんだろうけど、今のこの現状は謂わば逃亡生活みたいなものだから誰かに頼ると言うことは出来ない
かと言って私が教える事も難しいし、何よりこれまで目の前の小さな生き物から目を離す事が出来なかった為に生活は困窮を極めていた
雨風を凌ぐ為のこの岩陰にある洞穴も、大きくなったカースと、徐々に大きくなってきた人間の子供とでは手狭な感じがしてきている
そろそろ違う場所へ移動しなければならないかも知れない
そんな事を考えながら今日も目の前の小さな生き物の世話をする
「かっちゃ!しゅき!」
…………………人間のくせにゴブリンの言葉を覚えるなんて、なんて生意気な子供なんだろうね
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