ゴブリンの王

ロコロコキック

出会い

鬱蒼と生い茂る森の中で一人の女性が泣きながら謝る

一つの大木のうろに向かい、何度も何度も謝りながらゆっくりと後退る女性

そして女性は目を瞑り振り返ると、勢いよく元来た道を走っていく

「おぎゃぁおぎゃぁ」

大木のうろには一人の人間の赤ん坊が、冷たい地面に驚いたのか泣きじゃくっていた





「ロウ!行ったよ!」

「任せろ!」

「地に足ついてろ[アースバインド]」

「ナイスだテツロー![エアスラッシュ]」

深い深い森の中で三名の男女が一つの生物の首を刎ねる

彼等は所謂冒険者と呼ばれる者達であり、今目の前で首を切り飛ばされた生物はゴブリンと呼ばれる生き物

彼等は生きる為にゴブリン…所謂魔物と区分される生物達を殺し、魔物達もまた、生きる為に、死なない為に時には人間達とぶつかる事もある


「討ち漏らしはこれで全部?」

「………だな、スキルにも反応が無い」

「んじゃもう帰ろうぜー、腹減っちまった。早くアリスの作った飯が食いてぇよ」

三名は人間達の作った通称ギルドと呼ばれる機関から依頼を受けて仕事をこなす

そして今回の依頼は街から程近くの森に住むゴブリンの討伐。詳細にはゴブリンが十匹程集まった村のような物が形成されつつあるので、大きくなる前に排除するのが目的


《ギギャ!》

「キャッ⁉」

「アリス⁉この!吹き飛べ[エア・ガン]」

「大丈夫かアリス⁉くそ、傷が酷い。彼の者に癒しを[ライトヒール]」

突如として頭上から現れた一体のゴブリンに深手を負う女性

吹き飛ばされたゴブリンは再度人間達に向かってくる

《ギギャー!!》

その様相は、人間達の感性からいくととても醜い物で、必死に何処から入手したのかも分からない短剣を振り回す姿は、味方の女性が傷付いた分もあるのだろう、とても醜悪で下劣で下種風情がと目の前の生き物を生き物とも思えないような感情が沸き起こる

「くらいやがれ![フレアスラッシュ]!」

《ギギャー………》


剣を持っていた男性がゴブリンに向けて剣を振るうと、斬られたゴブリンは傷口から発火し、その身を炎に包まれて生きたまま焼かれ死んでいく


彼等が使う力を、皆は魔法と呼び、また先程気配を探った力等をスキルと呼んだ

そしてそんなスキルを掻い潜ったゴブリンもまた気配を探らせないスキルを持っていた

そんな魔法やスキルを生き物達が使えるような世界で、今日もまた、人間達と魔物達の戦いは続く

これがこの世界の在り方であり、これがこの世界の生き物達の日常


生きるか死ぬか

食うか食われるか

生き物達は同じ種族達で結託し、今日も終わらない戦いに身を投じていく


そしてその冒険者達から少し離れた所にある大木のうろで人間の赤ん坊がお腹が空いたと叫びをあげる

だがここは人間達は滅多に来ることのない深い、深い森の中。

叫びを聞いた生き物はつられて大木のうろを覗く

人間の赤ん坊がおぎゃおぎゃと泣いているのを見つめるのは、人間の感性で言うならば汚い格好で汚い肌。顔は醜く、臭い体臭を放つ醜悪な存在

所謂ゴブリンと呼ばれる生き物が赤ん坊を見つめていた


もし仮に、この時赤ん坊を見つけた存在が違う者だとしたら………

今も尚動き続ける世界にたら、ればはないとしたとしても………











私達はこの世界で言う所の魔物という区分になるらしい

それは先祖代々親から子に伝わる口伝のような物で、なら何故そんな事をいちいち伝える必要があるかと言えば、森のはずれに人間と言う私達に近い種族の生き物達がいて、彼等は私達魔物と区分される者達を狩って生活しているらしい


まぁ私は見たこともないから彼等がどんな生き物なのかも知らないし実際興味もない

ただ、彼等は突如として私達魔物を襲いにくるのだと言う


その日も、新たな生活拠点を拡げようと数の増えた村から数名が選出され、この地に小さいながらも村を作っていた最中だった

周りを見ればどの子達も屈強な戦士達で、前の村でも強い部類に入る

なら何故そんな屈強な戦士達の中に私みたいな非力な者が混じってるかと言えば、私が女性だからだ

私達の種族は女性が滅多に生まれない。種を増やすには女性の存在は必須だけど数があまりにも少ない為に私みたいな存在は貴重とされてる


だから周りを屈強な戦士で固め、新たな土地で種を増やすのが私の仕事

つい先日もこの村一番の強者、ガジンとの子供が生まれたばかり

お腹の中に居たのは一月程だけど、生まれてすぐに立ち上がり、十日経った今では誰から貰ったのか短剣片手に遊んでいる


育つのも早いもので背丈はもう私と変わらない

私達ゴブリンは繁殖が早いのも特徴らしい

あ、ゴブリンてのは所謂私達の種族名みたいな物らしく、昔、人間の言葉を理解したゴブリンがいて、彼から私達が人間達からゴブリンと呼ばれていると伝わったらしい

それが広く伝わり、今では私達も皆の事をゴブリンて呼んでる

種族の特徴もその時伝わった


もちろん名前は個別であるよ?便利だから大体はゴブリンって言うけどね


悲劇はそんな時に起きてしまった

《うおおおぉ!》

村を開拓していた私達に何者かが襲撃してきたのだ

彼等を初めて目にしたとき、これが人間なのかと理解した

肌は私達より薄く、背丈は遥かに高いけれど、体の造りはほとんど同じ。何を言っているのか言語が分からない所も、聞いていた話と合致する

その人間達が襲いかかるのと同時、この村一番の強者であるガジンは、人間の持つ剣のたった一振りで首を落とされ呆気なく死んでしまった


私は逃げた、[怖い]そう思った。

いきなり村を襲撃した人間達は仲間を次々と殺していき、立ち向かう者も風の刃でズタズタにされた

私はその光景を茂みに隠れながら見ていた

幸い、私には気配を消す力があったからこのまま隠れていたら逃げ切れると思った


私の子であるラジも私の力を受け継いだのか気配を消して隠れている

私達親子以外は全滅してしまったけれどこのままだったら逃げ切れる………


そう思っていた私だったけど、人間の一人が私の隠れている茂みに近づく

防具からでも分かる膨らみは私と同じ女性だと言うことが分かる

殺られる

そう思った時だった

「皆の仇だー!」

茂みに近づいていた女性の頭上から私の子であるラジが襲い掛かった

ラジは女性を持っていた短剣で突き刺すと、人間の仲間により吹き飛ばされる


止めて、逃げて

私はそう願わずにはいられなかったけどラジは体制を立て直すと再び人間達に立ち向かう

「俺達が何をしたんだよー⁉」

そう叫びながら勇敢にも戦った息子は…………炎に包まれながら

「俺達が……何を……」

そう言いながら息絶えた


私は走った。怖かった。なによりもまず怖かった。いきなりの襲撃、次々とやられていく仲間、そして炎に包まれる息子

人間達に気付かれないように気配を消し、只がむしゃらに森の奥へと逃げた

一体私達が何をしたと言うのか?

話には聞いていたが人間達の目的はなんなのか?

そんな事を考えながら走っていると声が聞こえた


「おぎゃぁおぎゃぁ」

森の中の大きな木の下で何やら声が聞こえる

私は何故か、不思議とその声に引き寄せられていき、そして………


大きな木の下の空洞部分に、布で包まれた人間の子供が泣き声を上げそこにいた


人間の子供を見た時、私は怒りがこみ上げて来た

私の息子が人間に殺されたばかりなのだ、私の頭の中には巨大な怒りと復讐心が渦巻いていた

「おぎゃぁおぎゃぁ」

相変わらず泣き続ける人間の子供

うるさい。泣きたいのはこっちだ

私は人間の子供を木の下の空洞から引っ張り出し頭上に掲げる。そして一気に地面に叩き付け……



「ウキャッキャッ」

……ようとして止めてしまった。何故止めたのか分からない。けれども人間の子供を頭上に掲げたまま、私の目からは大量の涙が溢れて止まらなかった

人間の子供の声は、先程までの大泣きが嘘のように、何が楽しいのか笑い声へと変わっていた










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