第三章 大商国ブルム
第一話 財政危機
エルザ達が一緒に住むようになって早いものでもう1ヶ月が経った。
彼女達とは今も良好な関係を続けている。互いに料理のお裾分けをしたり一緒に食事を食べたり近く川や山に遊びに行ったりと楽しくお付き合いしている。
特にエルザは彼女達と会う時毎回と言っていいほど顔を合わせている。そして周りのエルフ達は何故か俺とエルザを二人っきりにさせようとしてくる。
あんな美人と二人っきりとか照れるからやめて欲しいのだが……。
まあそんな感じでこの一ヶ月は平和で充実した生活を送っていた。
しかし一つだけ問題があった。
「金が、ない」
よく晴れた日の昼下がり。
少し遅めの昼食を俺はロバートとクリスととっている最中俺はそう発言した。
この二人は俺が気を許せる友人のような存在だ。エイルやエルフ達は俺を過大評価しがちだしスライム達にいたっては俺を神聖視してるレベルだ。
その点彼らはフラットな目で俺を見てくれる。肩の力を抜いて話せる友人がいるのは助かる。
「金ならギガマンティスを討伐した時に貰ったじゃないっすか。もう無くなったんすか?」
ロバートがサンドイッチを頬張りながら不思議そうに尋ねる。
「ああ、あの時の金のほとんどは教会の修繕費にあてちまったんだ。それにあの時以来冒険者の仕事はしてないから減る一方だったんだ」
「そういえば教会もだいぶ綺麗になってたっすね。エイルっちも喜んでたっす」
あの時のエイルの喜びっぷりったらすごかった。
正直想像以上にお金がかかってしまったがあの喜びようを見たから後悔はしていない。
しかしそれでも金欠問題はどうにかしなければいけない。
そういないと日々増えていくスライム達の住めるところがなくなってしまう。
「だったら冒険者業をまたやればいいじゃない。あんたならまたすぐに稼げるんじゃないの?」
クリスはコーヒーを飲みながらそう提案してくる。
短期滞在のはずだった彼女だがいつの間にかすっかりこの村に住み着いている。スライム専門家の彼女がいるのは俺からしても助っている。
「それもいいんだがどうやら今王国の記者たちがギガマンティスの一件を嗅ぎつけて俺のことを探してるみたいなんだ。だからほとぼりが冷めるまで冒険者組合から国に入らないよう言われてんだ」
「へえ、あんたも有名になったもんね」
そう言って「くくく」とクリスは意地が悪そうに笑う。くそう。からかいやがって。
しかしどうしたもんか。王国に行けないのに金を稼ぐ方法なんてあるのだろうか。
村人相手に商売しても得られる金額には限りがあるからなあ。
「私に一つ、いい考えがあるわ」
俺が考え込んでいるとクリスがキラリと
「なんだその考えってのは?」
「簡単よ、冒険者業じゃなくて商売をすればいいのよ!」
「商売? 一体何を売るって言うんだ」
俺の作ってるものといったら畑で採れる野菜くらいだ。
それも人様に売れるほどの量はない。それに他の村人達が作ってる物とかぶるためそんなに売れはしないだろう。
「ふふふ、実は前から考えていた計画があったのよ! 付いて来なさい!」
そう言ってクリスはスタスタと歩き出す。どうやら付いていくしかなさそうだ。俺は残った弁当をかきこみクリスの後を追う。
「ちょ、ちょっと待つっすよ! 俺も行くっす!」
◇
俺たちがやって来たのはスライムがたくさん住んでいる区画だった。
今やスライムの数は約3000人。しかも人化できる高位のスライムも100人を越している。
最初はそこらへんで適当に暮らしていたのだがここまで増えてはそうはいかない。この区画には俺の私財を費やして作られたスライム用の家がいくつか建っているのだ。
スライム達にはカプセルホテルの形の部屋が好評だった。ガラス張りの円柱型の部屋にスライムがみっちり詰まってるのは中々シュールだ。しかもそれが建物の中にずらっと並んでいる、シュールを通り越して怖いと言う意見もあるが彼らが満足ならそれでいいのだ。
天井はガラス張りになっており日中は室内で日光浴も出来るという点も好評だ。
しかし人化できる高位のスライムはこの住居を使いたがらない。
人化出来るスライムはなるべく人と同じ生活をしたがる傾向にあるからだ。
そんな彼らを無理やりカプセル住居に押し込むような真似はできない。今は村人の家に一緒に住まわせてもらったり、空き家を使わせてもらっているが限界が来るのは近いだろう。
やはり金は必要だ。
「で? ここで何をするんだ?」
「まあ見てなさいよ」
そう言ってクリスは何人かのスライムを連れてくる。
「まずはこの子にしましょうか」
クリスが持ち上げたのは綺麗な群青色をしたスライムだ。
てっぺんにまるで魚のようなヒレが生えているのが特徴的だ。
「なんすかこのスライムは? 初めて見たっす」
「この子は
「へーそうなんすか」
海に住んでることからほとんど人目につくことがないためロバートが知らないのも無理はないだろう。クリスもこの村に来てから初めて見たらしい。存在は知っていたらしく船に乗って探しに出たこともあるらしいが海中を結構な速度で泳げるシースライムを見つけることはできなかったみたいだ。
「それでそのスライムがどうしたんだ?」
「ふふふ、見て驚きなさい!」
クリスはそう言うと持ち上げたシースライムを両手でぶにっと挟むように押す。
するとシースライムの口からだばーと水が出てくるではないか。一体何がしたいんだ?
「さあスライムちゃん! アレをだして!」
クリスがそう言うとシースライムはぺっとクリスの手に小さな白い塊を吐き出す。
なんだこれは?
俺がそれを見ていると、クリスがそれを投げてくるのでキャッチする。
それは白い粉がぎゅっと丸められた物だった。いったいなんの粉だろうか?
「これは……塩、っすか?」
覗き込んできたロバートがクリスにそう尋ねるとクリスはにやっと笑う。どうやら正解のようだ。
「その通りよ、それよりロバート。その塩を見て何か気づかない?」
「気づく? キクチさんちょっと失礼するっす」
ロバートは俺の手から塩を取り、ジロジロと手慣れた手つきで確認する。
そういえばこいつは立派な商人だったな。食材の目利きはお手の物ってわけだ。
「こ、この塩は……!」
すると塩を眺めていたロバートの表情が変わる。
「どうした? 何かわかったのか?」
「この塩、俺っちでも見たことがないくらい高純度っす! こんなに不純物のない塩王国でも滅多に手に入らないっすよ!」
俺にはわからないがどうやらその塩は高品質のようだ。
それにしてもなんでシースライムからそんな物が出てくるんだ?
「私はこの村に来てからスライムの不思議な力を調べ続けて来たわ」
俺が不思議に思っているとクリスが待ってましたとばかりに説明を始める。
「その中で一つわかったことがあるわ。それはスライムの持つ分解能力と結合能力よ」
「分解と結合?」
「ええ、スライムは体内にいれた物質を分解したり、逆に結合させる能力がわかったの。そしてスライムの種族によってはすごい精密に分解と結合ができる相性のいい物があることがわかったの」
そこまで説明されて俺はようやくクリスの言いたいことがわかった。
「なるほど、シースライムと塩がその関係ってわけか」
「その通りよ。シースライムに海水を飲ませれば人間が作るよりも遥かに高品質の塩と水に分けることができるわ」
スライムが体内に物をため込めることは知っていたがそんなことまで出来るとはな。
しかし問題はこれが商品になるかどうかだ。
「ロバート、この塩は売れるのか?」
「あ、当たり前っすよ! こんな高品質な塩、貴族が知ったら取り合いになるっす!」
ロバートは興奮した様子でそう語る。この様子なら売るのはロバートに任せて良さそうだな。
「ちなみにこれはまだ一例よ。スライムの数だけ色々な物の分離と結合が出来るわ」
となると他にも有益なことが色々できそうだな。
今からわくわくしてきたぜ!
《NEW!!》
魔法適性:水
・
・水属性半減
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます