第二話 生産開始

 その後俺は様々なスライムの持つ分離・結合能力を見せてもらった。


 例えばりょくの進化前である緑色粘体生物グリーンスライムは植物や果物を体内で分解結合することができる。

 その力を使えば果汁を綺麗に抽出したりサトウキビから高品質の砂糖を生み出すこともできる!


 それだけでなく俺が以前集めた「ヒポポ草」を高純度の回復薬にすることもできた。

 試しに使ってみたがその効果は絶大。これは売れる!


 そう確信した俺はすぐにスライム居住区画に生産施設を作ることにした。おかげで俺のお金はすっからかんだがこれは先行投資ってやつだ。惜しんでる暇はない。


 あとは変換が得意でないスライム達に素材の調達をお願いし、変換が得意なスライムに生産施設に入ってもらう。


「最初はかさばらない物がいいと思うっす。塩と砂糖、回復薬も少量で高く売れるんでおすすめっす」


 ロバートのアドバイスをもらった俺はその三点を重点的に集めることにした。

 といってもサトウキビとヒポポ草はそんなに大量に手に入らない。

 とすれば狙いは塩。

 それの元となる海水ならいくらでも手に入るからな。


「というわけで来たぜ海!」


 タリオ村から北上すること約5km。

 そこには一面の海が広がっている。正確には入江なのだがあまりにも広いので海のようだ。

 俺は体内に収納していた80人いるシースライム全員を海に放ち、塩を集めさせる。


 するとシースライムは次々と海水を水と塩に分解し、陸に集め始める。

 ほどなくしてたくさん持って来たタルはすぐに大量の塩で満たされ始める。


「す、すげえ速さだな」


 なんと20個持って来たタルは1時間もかからずに塩で満たされていた。日光で照らされた塩はキラキラ輝き不純物など一切無い。これならいい売り物になりそうだ。

 俺はそれらを保管型粘体生物ストレージスライムに収納し帰り支度を始める。


「今取り過ぎても仕方がない。いったん帰るか」


 こうして初めての塩採取は大成功の内に終わったのだった。







 ◇





「じゃあ行ってくるっすー!」


 そう言ってロバートはいつもより上機嫌に村を出発していった。

 ちなみに取り分は俺が7ロバートが3になっている。材料費もかかってないので5:5でいいのだと言ったのだが商人としての誇りが許さないらしく最終的に7:3になった。


「ふぉふぉふぉ、元気にやっとるようじゃの」


 ロバートを見送り教会に戻っていると村長のムロ爺にばったり出会う。

 どうやら日課の散歩の最中らしい。元気でなによりだ。


「ああ、おかげさまで元気にやってるよ」


「お主が来たことでロバートも以前より明るくなった。お主には感謝しておるよ」


「ロバートが?」


「うむ。両親を早くに亡くし唯一の肉親の兄は村を捨てて出て行ってしまったせいであやつは暗くなってしまった。同年代の友人もおらしの」


 確かにこの村は老人が多い。働き盛りの若者は王国に行ってしまう者が多いかららしい。どうやら異世界も俺のいた世界も同じような問題が起きるんだな。


「じゃがお主が来てからロバートも段々元の明るい正確を取り戻して来ておる。お主のおかげじゃキクチ」


「へっ、俺のおかげじゃないさ。あいつがスゴいだけだよ」


 俺はなんだか照れ臭くてそう言ってしまう。


「じゃがロバートもまだ若い。いつか何か乗り越えられぬ壁にあたるかもしれん。その時はどうか手を貸してやってほしい」


 ロム爺はそう言って俺に頭を下げる。


「おいおいやめてくれよ。俺とあいつはもう友達だ、あいつが困ってんなら誰だってぶっ飛ばしてやるよ!」


 俺はそう言ってロム爺の頭を上げさせサムズアップしてみせるのだった。







 ◇






 ロバートが出発して三日後の昼頃。

 予定通りの日にロバートは帰って来た。


 俺とクリスの二人は村の入り口近くで彼の到着を待っていた。


「ただいまっす! キクチさんクリスさん!!」


「おうおかえり。どうだったよ塩の売り上げは」


 俺がそう聞くとロバートはにやにやしながら馬車を降りて近づいてくる。


「ふっふっふ、見て驚くっす!!」


 ロバートはそう言って大きめの麻袋を取り出し、その中身を俺たちに見せてくる。


「これは……すごいわね……」


 その中身を見たクリスが思わずそう呟く。

 それも無理はないだろう。麻袋のなかには銀貨や銅貨がぎっしりと詰まっていたからだ。しかもよく見れば金貨も何枚か混ざっている。

 まさかここまで上手くいくとは。


「すごいな! 大漁じゃないか!」


「へへん、それだけじゃないっすよ」


 ロバートは得意げにそう言うと懐より一枚の羊皮紙を取り出し見せつけてくる。


「なんだこれは?」


「これは許可証ね。それも商人の国『ブルム』での商売を許可するもの。地方の商人なら喉から手が出るほど欲しい物よ。よく手に入ったわね」


「たまたま来てたブルムの商人がこの塩に目をつけてくれたんすよ! これさえあれば更に販売網を広げられるっす!」


 喜び浮かれるロバート。

 俺にはよくわからないが、どうやらそれほどスゴいことらしいな。


「それでキクチさんに一つお願いしたいことがあるんす。実はブルムには一回も行ったことがないので凄腕の冒険者に護衛をお願いしたいすけど誰かいい人を紹介してもらえないっすか?」


 俺はその言葉でロバートの言いたいことを全て理解した。

 まどろっこしい真似しやがって。


「ははっ、わかった。とびきりの冒険者を紹介してやるよ!」


 そう言って俺はロバートと握手を交わす。

 大商国ブルム、今から行くのが楽しみだ!

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