第十話 新たなる仲間
「キクチ様のご好意によりこの村にお世話になることになりましたエルフのエルザと申します。ふつつか者ですがよろしくお願い致します」
エルザがそう言ってぺこりとお辞儀すると村人達が「おおう……」と感嘆の声を漏らす。
男だけで無く女性もその美貌に圧倒されている。
だけどエルフが住むことに忌避感を持っている人はいなさそうだ。これなら仲良くなるのにそれほど時間はかからないだろう。
「ありがとうな、ムロ
「ふぉふぉふぉ。こちらこそかわゆい
そう言って自慢の長いヒゲをいじるのはタリオ村の村長『ムーランド』、通称『ムロ爺』だ。
ムロ爺は70歳を超えており、体は痩せ細って物忘れも激しいが未だに元気いっぱいでありいまだに畑仕事に精を出している。鍬さばきでは村に敵う者はいないほどだ。
性格は善良であり、俺みたいな怪しい人物やスライム達がこの村に住むことを快く許可してくれた。
今回のエルフの件もムロ爺の助力あってのことだ。
彼女たちの事情を話すとすぐにうごいてくれ、空き家まで用意してくれた。
「静かだったこの村もお前さんが来てから随分と賑やかになったのものじゃ」
「……それは申し訳ない。俺も別に増やしたいわけではないんだがなあ」
こればかりは勝手にそういう流れになってしまうのだから仕方がない。
エルフとスライムと人が共存する村。そんなものが知られたら話題になりそうだな。気をつけなければ
「じゃがわしは今の村も悪くないと思うとる。村人達も前より刺激が増えて楽しそうにしておるからの」
「そう言ってもらえると助かるよ」
この世界に来て二番目に知り合ったのがこのムロ爺だ。
ムロ爺はやることがなく腐りかけていた俺に畑仕事を教えてくれ、さらに他の村人を紹介して俺が村に馴染むよう取り計らってくれた。
おかげで俺はすんなりと村の人たちに受け入れてもらえた。この恩は返しても返しきれないな。
◇
姉さんの様子が変だ。
私ニーファがそう感じたのはここタリオ村に引っ越してすぐのことだった。
「るんるん♪」
明らかに浮かれていることが多い。
あお地獄のような暮らしから解放され気が緩むのはわかる。私だって自分が平和ボケしていってるのを感じるからね。
でも姉さんのそれは度を越している。
洗濯物を干しているだけなのに「るんるん♪」なんて昔は絶対言わなかった。
そもそも姉さんはあまり他人に感情を見せないタイプだ。いくらいいことがあったとしても人目のつくところであんな緩みきった表情は見せなかったはずなのに。
心配になった私は意を決し聞いてみることにした。
一体尊敬する姉に身に何があったのだろうか?
「姉さん」
「あらニーファ。今日もいい天気ね♪」
そう言って姉さんは太陽のように眩しい笑顔を私に向ける。
姉は妹の私から見ても美人だ。もちろんエルフは全員容姿が優れているのは知っているし自覚もある。
しかしそれを考慮しても姉さんはエルフの中でも飛び抜けて美人だ。
まるで本物の金の糸の様にキラキラの髪の毛。小さいながらもぷっくりと膨らみのある唇に丸くてぱっちりした大きな瞳。
妹の贔屓目を除いてもやはり姉は可愛いといえよう。
だからエルフの里でも姉さんはモテた。
里の男達はみんな一回は姉さんに告白をしたことがあるという嘘みたいな逸話があるくらいだ
しかし姉さんはその全てを断った。表向きは『自分はまだ未熟だから恋愛などできない』と言っていたが妹の私の見立てだとそれは間違いだと思う。
姉は恋したことが無かったのだ。
幼少からしっかりした姉だ、無自覚だけど理想が高かったのだと私は思う。
そんな姉だが今のこの浮かれた様子は完全に恋する乙女って感じだ。
となると問題は一つ。もちろんその相手だ。
まあ今考えられる相手は一人しかいなのだけど。
「……いい天気ね姉さん。何か楽しそうだけどいいことでもあったの?」
「うーん別に何かあったわけじゃないんだけど、最近なんだか楽しいの! いったい何でかしらね、里にいた頃はこんな風に心が軽いことなんて無かったのだけど」
姉さんは本当に不思議そうにそう言う。
なんてこった。姉さんは自分が恋してる事に気づいていないみたいだ。
あの完璧超人の姉さんをこんなポンコツにしてしまうとは恋とは恐ろしい……。
「そういえばさっきキクチ様と会ったのですがその時に聞いた話が本当におかしくて……」
そう切り出し姉さんはキクチの話しを緩みきった顔で嬉しそうに話し始める。これは重症だ。
しょうがない。こうなったら私が一肌脱ぐしかない。
キクチを狙うとなると恋のライバルが多い。桃や氷雨達スライムにスライム学者の女性、そして何よりエイルが手強い。彼女を出し抜くのは恋愛素人の姉さんには無理無理だ。
だから私が頑張るしかない! なんとしても姉さんを幸せにしてみせる!
私はひしっ! と姉さんの手をつかみ自分に言い聞かせるように言う。
「任せて姉さん! 必ず姉さんを勝たせてみせるわ!」
「え? あ、ありがとう?」
こうして姉さんの知らないところで私の戦いは静かに幕を開けたのだった。
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