第九話 光ある方へ

 オークキングを倒した俺たちが広場に向かうと、そこには氷雨と桃含む裏門を守っていた者達も集まっていた。


「マスター! ご無事でしたか!?」

「け、怪我はありませんか? あったらすぐに私が治します!」


 俺を発見した氷雨と桃が駆け寄ってきて俺の無事を確認してくる。

 二人とも怪我はなさそうだ、よかったよかった。

 だけど顔は少し疲れているな。ちゃんと労ってやらないと。


「お前達こそお疲れ様。ちゃんとエルフ達を守ってくれたんだな」


 そう言って近づいてきた二人の頭を優しくなでる。氷雨の髪はツヤやかでハリのある感じで桃のはふんわりしてて柔らかい。

 二人とも元がスライムということを忘れてしまいそうだ。


「ふあっ、マスター! 恥ずかしいです! でも嬉しい!」

「ふふっ、ご主人様、気持ちいです♡」


 どうやら喜んでくれているみたいだ。

 はたから見たら美女二人をはべらしているように見えるだろうが俺からしたらスライムをあやしてるようなもんだ。スライムマスターからしたらスライムを喜ばすことぐらい朝飯前だぜ。


「さて、オークも倒したことだしひとまず飯にするか。頼むぞタンク」


 俺は水色で四角いスライムを呼び出す。

 のっそのっそと出てきたタンクはぷうー! と膨らむと体から大量の食料を吐き出す!


「えっ! どうなってるの!?」

「すごーい!食べ物だ!」


 それを見たエルフ達が歓声をあげる。

 みんなしばらくお腹いっぱいご飯を食べていないだろう。しこたま食わしてやるぜ。


「き、キクチ! いつの間にこんな食料を!?」


 驚きながらニーファが近づいてくる。


「ああ、みんな腹減ってると思ってな。後から持ってきてもらったんだ」


「でもどうやって? 伝えに行く時間なんてなかったはずなのに」


「ここだけの話、スライム達は遠距離でも会話する事ができるんだ。それを使って村に残ってるスライムにお願いして持ってきてもらったのさ」


「こことあの村で会話!? そんな事ができるの!? そんなのどんな魔族にもできないわよ!!」


 どうやらこの能力はスライム固有のものらしい。

 よく考えずその力を使わせてもらっているが彼らは何者なんだろうか?


 ちなみにさっきの四角いスライムは『保管型粘体生物ストレージスライムという種類だ。

 戦闘能力こそ低いがたくさんの物を体内に収納する事ができる便利な能力を持っている。俺も常に一人は連れて歩いているから手ぶらに見えて実は色々持っているのだ。


「みんな! 祝勝記念にぱーっと食ってくれ!」


 俺が遠慮して手をつけないエルフ達にそう言うと彼らは目を輝かせ食事に手を伸ばし始める。

 子供達は一心不乱にそのまま食えるものを頬張り始め、大人達は食材を調理し始める。

 見ればスライム達も調理の手伝いをしている。料理上手のエイルの手伝いをしているため料理が出来るスライムも多いのだ。

 うんうん、助け合いはいいことだ。なんと幸せな光景だろうか。


「キクチ様、少しよろしいですか?」


「ん?」


 話しかけたのはエルザだった。

 なにやら神妙な顔をしている。いったいどうしたのだろうか。


「まずは今回の件のお礼を言わせてください。本当にありがとうございました」


 そう言うとエルザは俺に向かって深々と頭を下げる。

 その綺麗な所作から彼女の深い感謝の気持ちが伝わってくる。


「頭を上げてくださいエルザさん。そんなかしこまらなくていいですよ」


「いえ、そうはいきません。この恩はエルフの誇りにかけて必ず返させていきただきます!」


 エルザさんは「ふんす!」と意気込むように言う。


「姉さんは一度決めると猪突猛進なんです、ああなったら止まりませんよ」


「そうなのか……」


 別に礼とかはいらないんだけどな。

 今回のはスライム達との集団戦闘のいい特訓になったし。

 そして何よりエルフと仲良くなれたのは嬉しい。ファンタジー好きとしてはエルフは外せない。ドワーフとかにも会ってみたいな。


「それよりこれから先どうするんだ? アテはあるのか?」


 俺がそう聞くとニーファとエルザさんが同時に肩を落とし落ち込んだ様子で沈黙する。


「……ないのか」


「「はい」」


 エルフは多種族とあまり接触しないと聞いていたからもしやとは思ったが本当にアテがないとは。

 男手無しでこの先どうするつもりなのだろうか。


「正直私たちだけでこの森に住むのは不可能でしょう。人里に行っても人さらいに会う可能性が高いです、エルフは高値で売れますからね。となると魔大陸の何処かの国に行って何か仕事を探すほかないですかね……」


 そう語るエルザの顔は変わらず暗い。

 魔大陸のことは詳しくないがそこで彼女達が出来る仕事はそこまでないんだろう。稼ぐとなったら水商売になってしまうだろう。

 それに見目麗しい彼女達のことだ、魔人の国に行っても男達に狙われるだろう。そんな中子供達を育て、守ると言うのは茨の道だろう。


 ……しょうがないか。

 乗りかかった船だ。ここで見捨てては男がすたるぜ。


「なあ、よかったら俺たちの村に来ないか?」


「「え?」」


「タリオ村ならそんなに外から人は来ないし、村人達もスライムに慣れてるから魔人に対する偏見は少ない。緑も豊かだから狩りも農業も出来るぞ」


「し、しかしそこまでお世話になるわけには」


「別に構いやしないさ、スライム達もあなた達と仲良くなったみたいだし村人達も綺麗な人が増えれば喜ぶだろう」


 俺はエルフと共に楽しそうに料理を作ったり遊んだりする様子を眺めながら答える。

 俺一人じゃ何百人のスライムの面倒を見切れないからな。それを手伝ってくれるならとても助かる。


「し、しかし……」


 見ればエルザさんの目から大きな涙がポロポロ流れ落ちている。


「姉さん……!?」


「ごめんなさい、泣くつもりはなかったのに。でも、こんなに優しくされたのは久しぶりだったから」


 袖で涙をぬぐいながら上ずった声を出すエルザさん。

 気丈な彼女がここまで取り乱すとはそれほど辛い目にあっていたと言うことだろう。

 俺はその様子を見て思わず雷子にしてやったみたいに抱きしめてしまう。


「えっ……!?」

「いいんですよ、頼ってくれて。今まで辛かった分俺たちに甘えてください。知ってるでしょ? 俺たちは強いから大丈夫です!」


「はい……はい……!!」


 エルザさんは子供のように俺に強くしがみつき今までの苦しみを吐き出すように泣きじゃくる。

 スライムをあやしてるみたいだ。気丈に振る舞ってるが彼女もまだ子供というわけだ。


「ニーファもそれでいいか?」


「姉さんいいなぁ……」


 ニーファは俺の質問に答えず上の空といった感じだ。どうしたんだ?


「ニーファ?」


「え!? あ! はい、私もいいと思います!」


 ニーファは慌てたようで俺の質問に答える。姉のこんな姿を見るのが珍しいからだろうか。


 まあなんにせよこれで決まりだ。

 また村が騒がしくなるな。


 俺はまた安息の日々が遠のくのを感じながらも、どこか楽しくなる予感を感じるのだった。





《NEW!!》


保管型粘体生物ストレージスライム 階級ランクD

魔法適性:ナシ

特殊能力スキル

粘液体質スライムボディ『物理半減、体積変化」

・大容量収納

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