第五話 スライムマスターの戦い方
砦の建設は想像よりも順調に進んだ。
まずは緑が完成図を設計し指示を出す。
それに従い紅蓮と雷子や攻撃力の高いスライム達が木を伐採し、氷雨や残りのスライム達がそれを組み立てる。
そして疲れた者は桃が回復してくれているため安心だ。
もちろんエルフ達も手伝ってくれている。
手先が器用なので彼女達の手伝いもすごい役に立った。
その甲斐もあり、日も暮れる頃には村をぐるりと囲む高い木の柵と4つの高台が出来上がった。
オークは夜襲をかけてくることが多いようなので早めに仮眠を取った俺たちは日がくれた頃に目を覚ましオーク達の襲撃に備えた。
「キクチ様、柵で囲われてない場所があるようですがよろしいのですか?」
村の中央でオークの襲来を待つ俺にニーファが聞いてくる。
彼女の言う通り今この村には柵が無い場所が二ヶ所ある。しかしこれは時間が足りなかったのでは無く、理由があって作っていないのだ。
「まあ見ていてくれよ。必ず勝ってみせるから」
俺は自信満々に言い放ちニーファの肩に手を置いた。
オークが来たのはそれから1時間後だった。
◇
オークにはメスがいない。
そのため子孫を増やすには多種族のメスを娶るしか無いのだが、醜悪な見た目をしているオークとつがいになりたがる多種族などほとんどいない。
その為彼らは多種族を襲い無理やり性交をしようとするのだ。
特に今回はオークキングがいる。
優秀なオスの子孫を残すために彼らはいつもより多くの母体を求めているのだ。
その点エルフは母体としては優秀だ。魔力も多く見た目もいい。
ゆえに彼らは逃げるエルフたちを執拗に追っていた。
邪魔なオスのエルフを食い殺し、順調だと思っていたオーク達だったがここに来て一つおかしなことが起きた。
偵察に送った仲間達が帰ってこないのだ。
最初は抜け駆けしてエルフを持ち逃げしたのかと思ったがオークキングを差し置いてそんなことをするオークはいない。彼らは意外にも上下関係に厳しいのだ。
抜け駆けが無いとしたら何かしらのトラブルに巻き込まれた事になる。オーク達は警戒し全戦力でエルフを襲撃する事に決めた。
その数なんと100体以上。
100を超える普通のオークに10体のハイオーク。更にそれらを統率するオークキングが1体とその戦力は小国を落とせるほどだ。
更に全てのオークはオークキングの
今やこの大森林に彼らに太刀打ちできる者はいない。元々大森林南西の荒野で細々と暮らしていた彼らだったが偶然生まれたオークキングの赤子がきっかけで大きな野望を持つようになる。
それは魔大陸への進出。
魔族が統治する魔大陸で活躍し自らの国を立ち上げることは魔族にとって何よりも名誉なことなのだ。
その前準備として彼らはエルフに目をつけた。
優秀な母体がいれば優秀な子供が生まれる。ゆえに彼らはわざわざ大森林に寄り道しエルフを襲ったのだ。
「キング! 奴らノ住処が見えてきマしタ!」
「……そうか。この私が来たからにはもう逃がさんぞエルフども」
そういって二チャリと醜悪な笑みを浮かべるのはオークの最上位種である『オークキング』だ。
黒々とした肌に赤く光る目。分厚い脂肪が乗っていても分かるはち切れそうな筋肉。首や手首には襲った村々から強奪した貴金属や殺した人や亜人の骸骨をジャラジャラとぶらさげている。
まだ生まれて3年ほどしか経ってないというのにその背丈は普通のオークより大きくなっておりもうすぐハイオークをも超す勢いだ。
「さて、どう捕まえてやる……ん?」
オークキングは目標の住処が柵で覆われていることに気づく。
こんなことは今まで無かった。エルフ達にあんな物を作る元気など無かったはず。
誰かがエルフに力を貸しているのか? しかし今更木の柵ごときで我らオークを止められるとでも思っているのだろうか。笑わせる。
オークキングは苛立ちを感じ手下に正面突破するよう命令を出そうとするがその瞬間偵察に行ったオークが報告に来る。
「キング! あの柵ですが正面ト裏手に入口がありまスゼ!」
その報告を聞いたオークキングは少し思案し作戦を立てる。
目的は殲滅ではなく捕獲。ならば……あの手でいくか。
「よし! お前らは二手に分かれ出入り口を塞げ! それから突入だ!」
オークキングの命令に従いオーク達が次々とエルフの元へ駆け出していく。
「ぐふふ……待っておれ我が花嫁達よ……!」
◇
「……てな感じでオーク達は挟撃してくると思う。だから戦力は二ヶ所の門に分けて非戦闘員はここ中央広場で身を潜める」
俺は最終確認としてスライム達に今回の作戦の復習をする。
「まず正門。ここは一番オーク達が来るだろう。だからこっちも最大戦力で迎え撃つ。頼んだぞ紅蓮、雷子」
「了解だ旦那! すぐ終わらせてやるぜ!」
「ああ! あたしに任せな!」
「次に裏門。こっちは正門に比べてあまり来ないだろう。ここは氷雨と桃にお願いする」
「仰せのままに。
「私も微力ながら頑張らせていただきます」
「そしてここ中央広場を作戦司令部とし俺と緑が担当する」
「サポートはお任せください」
「そして他のスライム達も俺につく50人以外はそれぞれカラーズの手伝いを頼むぞ!」
「まかせて!」「うおー!」
「もえてきた!」「ますたー!」
「それではエルフ防衛作戦を開始する!」
俺の号令にスライム達は元気よく「おーーーー!!!!」と返してくれる。
これなら大丈夫そうだな。
見てろよオーク。スライムの力、思い知らせてやるぜ。
こうして俺たちの戦いの火蓋は切って落とされたのだった。
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