第四話 エルフの里
「質素な食事で申し訳ありませんがよろしければ召し上がってください」
そう言って綺麗なブロンド髪のエルフの女性が差し出したのはお世辞にもちゃんとしたとは言えない食事だった。
寄せ集めの木の実に状態の良く無い山菜。そして少し濁った水とおよそエルフの食事とは思えない。
しかしこの食事も今の彼女達には希少なものなのだろう。少し遠くから物欲しげに子供のエルフ達が見ている。
現在俺たちはエルフ達が隠れ住む村に来ており、その中央にあるテーブルに俺とニーファと先ほどのエルフが座っており他のエルフ達は少し離れたところで俺たちを観察している。
彼らの元いた村はオークに滅茶苦茶にされたため彼女達は逃げながら暮らしている。そのため家は雨が辛うじて凌げる程度のものでお世辞にもしっかりしている作りでは無い。
男手がない上に常にオークの影に怯えてるんだ。それもしょうがないことだろう。
そんな中彼らの貴重な食料をいただくわけにもいかない。
「私は今お腹が空いていないので大丈夫です。どうか子供達に食べさせてあげてください」
俺がそう言うと子供達が駆け寄りむしゃむしゃと食べ物をたいらげていく。
いい食べっぷりだ。よほど腹が減っていたのだろう。
「お気を使っていただき申し訳ありません。本当でしたら最大限にもてなさなくてはいけないのですが……」
彼女は長い耳をぺたんと落として申し訳なさそうにする。
そんな彼女もロクに食事を取っていないのだろう。頬が少しこけてしまっている。
「いえいえ気にしないでください」
「いえ、改めて礼を言わせてください。もしあなた方が来なかったら……想像するのもおぞましいことになっていたでしょう」
まあそれはその通りだろう。
あの時俺たちが行かなければ確実に手遅れになっていただろう。
オークの群れを倒した俺たちはエルフ達が今隠れ住んでいる村とも呼べないほど簡素な住み家に案内された。彼女達はこういった家を作りながら逃げていたらしい。
そこで俺を出迎えてくれたのは現在のエルフの一族の長でありニーファの姉、エルザだった。おっとりした性格ながらも毅然とした態度で仲間に指示を出しており指示者としての才覚がうかがい知れる。エルフ達がここまで無事だったのも彼女の功績が多いだろう。
現在俺は木でできた簡素なテーブルをエルザとニーファと共に囲んでいる。
もちろん今後どうするかを話し合うためだ。
「姉さん、これからどうするの? もうオークも倒した事だし村を再建した方がいいんじゃないの?」
エルザの横に座るニーファが尋ねる。
確かに脅威が去った今、ここにいる意味は薄い。
しかし危機が去ったと言うのに依然としてエルザや他のエルフ達の顔は暗い。まだ何か不安な事があるのだろうか。
「ニーファ……助けを呼んできてくれた事は嬉しいわ。本当にありがとう。でも今すぐここを離れて欲しいの」
「な、なぜですか!? せっかくオークを倒したというのに!?」
「早くに逃げたあなたは知らないのですが……オークはあれで全部では無いのです」
「そんな……!?」
その事実を聞いたニーファの顔が驚き青ざめる。
彼女はオークの襲来と同時に助けを呼ぶため仲間と離れた。ゆえにオークの戦力を知らなかったのだ。
「し、しかしオークがいくら来ようと彼らなら倒せると思います!」
「ニーファ、相手はオークだけでないのです。相手にはオークの上位種ハイオーク、更に最上種であるオークキングまでいるのです」
「オ、オークキングですって!? なんでそんな化け物が!?」
俺は魔族図鑑をめくり話に出てきたオークを確認する。
ハイオークは階級A−。身の丈はオークよりもデカく5mもあるらしい。オークを超える怪力と再生力を持つらしい。
そしてオークキングの階級はなんとA+、あのギガマンティスを超える強さって事だ。
ハイオークよりも高い力と再生力を持つ上にオークをパワーアップさせる
「先程倒したのは偵察部隊に過ぎません。奴らの本隊はあれの何倍もの戦力を持っています。いくらあなた方が強くても敵う相手ではないのです」
「そんな……」
辺りに暗い空気が充満する。
周りのエルフ達には涙を流すものも少なくは無い。
「だからニーファ、あなたは子供たちを連れて逃げてください。奴らの狙いは私たち大人のエルフでしょう。子供がいなくても深追いはしないはず」
「何を言ってるんですか姉さん! そんな軽々しく自分を捨てないでくださ……」
言いかけてニーファは気づく。自分の姉が震えていることを。目尻に涙を浮かべていることを。
どれだけ怖いだろうか。自らがここに残るという判断を下すというのが。
確かに彼女の提案は理にかなっている。
流石にここにいる40人近くのエルフ全員を連れて逃げるというのは不可能だ。
かと言って戦っても全員を守り切るのは不可能だろう。
なので逃げるのが一見最善に見えるが……まだ手は残っている。
「少しいいか?」
俺はそう言って立ち上がり周りのエルフ達を見渡す。
この作戦には彼女達の力も必要なのだ。
「なんでしょうか、キクチ様」
「一つだけあるんだ。ここにいる全員が生き残る方法が」
「そんな方法が!? 一体どうすればいいんですか!?」
エルザさんはひしっと俺の腕にすがりつき、今にも泣き出しそうな目で俺を見る。
強がってはいたがやはり無理していたんだな。
「作戦は簡単です。この村を砦にするんです」
「砦に……?」
「ええ。まずこの村をオーク達が簡単に入れないように大きな柵で覆います。そしてエルフの弓術で柵の上から足止めをします。その間に俺たちがオークを倒すという作戦です」
これなら彼女達を守る必要がなくなる上に戦力としても加算できる。我ながらいい作戦だ。
「確かに素敵な作戦ですが、どうやってそんな砦を作るというのですか? 我々にそんな力はありませんよ……?」
そんなことはこの村を見れば一目瞭然だ。
そんな心配をしなくても俺たちには心強い労働力がある。
「安心してください。出てこいみんな!」
俺の呼びかけに応じ、ぽぽぽぽぽん! と次々と色とりどりのスライム達が現れる。
その数は紅蓮達とそらを入れて101。労働力としては十分過ぎるだろう。
「こ、これはいったい……! あなた様はいったい何者なのですか!?」
その光景に驚愕し疑問を投げかけてくるエルザ。
俺はそんな彼女にこう返すのだった。
「俺はスライムマスター菊地。スライム達の友達でありその力を借りる者ですよ」
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