第十七話 進化
「んん……朝か……」
教会の私室。
木のベッドに薄い布団が敷かれただけの簡素な寝床だが不思議と王国の宿屋よりも落ち着いて寝れる。おかげで体の疲れも良く取れた。
昨日はスライム達に囲まれて大変だったな。引き剥がすのにかなり手間取ったぜ。
「ふあーあ、まだ眠いなあ。もう少し寝てもバチは当たらないだろ」
俺は自分にそう言い聞かせ華麗に二度寝を決め込もうとする。
しかし仰向けからうつ伏せになり枕に顔をうずめた瞬間、何か違和感を感じる。
「ん? この枕こんなにスベスベしてたか?」
枕の肌触りが良すぎる。
もっとゴワゴワしていたはずなのに俺の顔は何やらスベスベして気持ちいいものに押し当てられている感触だ。それに何だかほんのり甘いいい匂いがする。
一体これはどういう事だ。
「ふふ、くすぐったいですよ
「え?」
唐突に上から降り注ぐ声。
俺はおそるおそる枕から顔を離し起き上がり声の主を確認する。
「おはようございます。良く寝れましたか?」
そこにいたのは面識のない美女。
青い綺麗なロングヘアーにモデルのようなすらりとしながら引き締まった肢体を持ちながら、そのお胸はとても立派な大きさだ。
顔はクールビューティな感じで切れ長の目と長いまつ毛が特徴的だ。
そんな彼女が、俺のベッドの上で正座をしていた。
つまり俺は彼女に膝枕をされながら寝ていたことになる。しかも彼女の今の服装は裸にYシャツという格好。
つまり彼女は……。
「ち、痴女だああああっっ!!!」
「えぇっ!!」
俺はみっともない声を上げながらベッドから転げ落ち痴女から逃げ出す!
怖え! 本当にいるんだな痴女って!
とにかく部屋を出ればスライム達がいるはずだ! 助けてもらおう!
俺はもつれる足を奮い立たせドアを開き助けを求める。
「みんな! 俺の部屋に見知らぬ痴女が!」
「ん? なんかあったのか旦那?」
俺のことを旦那と呼ぶのはただ一人、レッドスライムの紅蓮だけだ。
頼りになるやつがいてくれて助かったぜ。
「紅蓮! いてくれてよかっ……た……?」
俺の声が疑問形になるのも当然。紅蓮の声がした方を見てみるとこれまた見知らぬ赤髪の男がいたからだ。背丈はそれほど大きくないが引き締まった体をしており強うそうだ。怖い。
「お、お前はだれだ!?」
「あーそうか。この姿じゃ驚かれるのも無理はねえか。仕方ねえ」
赤髪の男はそう言うと、なんと体をどろりと溶かしぐにょぐにょと体を変形させ赤色のスライムになってしまう。
「ほれ、おまえもかわれよ」
赤色のスライムが俺の後ろから出てきた痴女にそう声をかけると、彼女はしぶしぶ「仕方ないですね……」と呟き青色のスライムへ姿を変える。
「おさわがせしてすいません
ぺこり、と謝る氷雨。
……言いたいことはたくさんあるが一つだけ叫ばせてほしい。
「はああああああぁぁぁっ!!!??」
◇
教会の居住スペースにはみんなでご飯を食べれるリビングのようなスペースがある。
そして今そこにある大きなテーブルに8人の人物が座っていた。
一人は俺。そしてその両隣にエイルとクリスが座っている。
そして俺たち3人に向かい合うように5人の人型になったカラーズが座っている。
「それで、いったいこれはどういうことだ?」
「いやあ俺もよく分からないんだけど朝起きたらこんな姿になってったんですよ」
俺の問いに人型なった紅蓮が答える。
今だに彼らがスライムだとは信じられない。見た目は完全に人間だし全員揃って美男美女だ。俺の両隣のエイルとクリスも美少女(一人は成人済みだが)だし俺の場違い感がすごいな……。
「進化、と考えるのが妥当でしょうね」
そう声を上げたのはクリスだ。
「進化?」
「ええ。魔物は成長すると進化するものがいるのは知っているわね?」
「ああ。多少はな」
魔物図鑑に書いてあったが魔物には上位種というものがあり、戦闘で経験値を重ねることでそれに「進化」する現象があるらしい。
俺が最初に戦った「グランドウルフ」も進化することで「ハイウルフ」になり、戦闘能力が飛躍的に上がるらしい。
この前戦った「ギガマンティス」も小型のカマキリ魔物「ベビーマンティス」が何回も進化を重ねた姿だ。つまり弱い魔物も進化をすることであんなヤバイ奴になるほどの可能性を進化は持っているってことだ。
「進化をすると人型に変化出来るようになる魔物もいるわ。と言ってもこの成長スピードは異常すぎる。この子達はついこの前まで戦闘を経験したことがないというのに」
真剣な顔で悩み込むクリス。
しかし俺は彼らの成長スピードに心当たりがあった。
「多分これが原因だ」
俺はそう言って部屋の棚から紙を一枚もってくる。
それは俺が帰ってきてから新しく作った
エイルの努力のおかげで俺の「スライムマスター」の事を更に詳しく分析できるようになっていたのだ。そのおかげで新しく発見したスキルがあった。
「ここを読んでくれ」
俺が指差したところ、そこにはこう書かれていた。
・経験値超増加
・経験値共有(
「経験値……共有!? なにそれそんな
その欄を見たクリスは声を荒げる。
どうやら二つとも珍しいスキルだったようだ。
「共有ってことはスライムさんの誰かが手に入れた経験値をキクチさんや他のスライムも貰えるって事でしょうか?」
「それだけじゃなくキクチの手に入れた経験値もスライム達に共有されるのでしょうね。恐ろしい特殊能力ね……」
ということはギガマンティスとの戦いで手に入れた経験値は俺の
そのせいでこいつらは急速に成長して進化したってわけだ。
「難しい話は終わったか旦那?」
レッドスライムの紅蓮は細マッチョのイケメンになっている。
赤い髪に赤い瞳がかっこいい。主人公みたいな奴だ。
「状況把握は大事ですよ紅蓮。情報を制するものものこそ戦いを制するんです」
眼鏡をキラリと光らせ紅蓮をたしなめるインテリ風イケメンのこの男はグリーンスライムの
その落ち着いた佇まいからは高い知性を感じさせる。
「あたしもむずかしー話はよくわかんねえ、もっと面白い話しようぜ!」
机に足を乗っけて行儀悪く言うのはイエロースライムの雷子だ。
紅蓮ほどではないが彼女も引き締まった見事な体をしている。スポーティーで健康的な感じの明るそうな子だ。
腰まで伸びたポニーテールが尻尾のようにぴょんぴょん跳ねて可愛い。
「こら、はしたないですよ雷子。女の子なんですから大人しくしなさい」
雷子を注意したのは豊満な胸と桃色の髪が特徴的なピンクスライムの
ボーイッシュな雷子とは対照的にはんなりとした雰囲気で強い母性を感じる。
「うう、私はいつまで正座をしていればいいのでしょう」
桃の隣で半べそをかいているのはブルースライムの氷雨。
今は俺の寝床に侵入した罰として椅子の上に正座させられている。可哀想に。
「ところで進化したのは5人だけなのか?」
「いえ、どうやら他にも何人かのスライムが進化しているのを確認しました。どうやらキクチ様の『経験値共有』で得られる経験値には個体により差があるようですね。傾向から考えるにキクチ様と関わりの深いスライムほどたくさんの経験値をいただけるようです」
「お、おお。そうなのか」
俺の質問に緑が高速で返事をくれる。
しかも俺の聞いてないことまで詳細に。なんて仕事のできる奴なんだ、部下に欲しいタイプだ。
「ほ、他にも進化したスライムが!? 早く会って観察しなきゃ!!」
進化したスライムと聞いて平静を装っていたクリスが豹変し声を荒げて教会を飛び出していく。
「ふふ、また賑やかになりそうですね」
「俺はもう少し静かな生活でもいいけどな」
俺はそう言いながらもこの生活に不思議な居心地の良さを感じるのだった。
《UPDATE!!》
魔法適性:ナシ
・
・人化
魔法適性:火
・
・火属性無効
・人化
魔法適性:氷
・
・氷属性無効
・人化
魔法適性:植物
・
・植物属性無効
・人化
魔法適性:雷
・
・雷属性無効
・人化
魔法適性:回復
・
・魔属性無効
・人化
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