第7話 ホビットメイドとエルフホビット


 明日、俺についての会議を行うので今日はこの部屋に泊まって欲しい、そう言われて案内されたのは、なかなかに立派な部屋だった。


 床には赤い絨毯が敷かれているし、椅子は硬い木製ではなく、キチンとしたソファだ。


 テーブルやチェストなどの調度品もデザインが凝っているし、高級品なのだろう、と容易に想像できた。


 使用人ようの半地下室ではなく、ちゃんと客室を用意してくれる当たり、俺を丁重に扱うつもりなんだと思う。


 そうやって部屋の様子を調べていると、ドアがノックされて、メイド姿の少女がふたり、部屋に入ってくる。


 ひとりは小柄で、栗色の髪をした、童顔で可愛らしい感じの女の子だった。


 もうひとりは背が高く、金髪で胸の大きな美人さんだ。


 人種によって寿命や成長と老化のスピードは異なるが、ふたりとも人間なら十代半ばくらいに見える。


 小柄な少女が、可愛い仕草でぺこりと頭を下げてくる。


「はじめまして、このお屋敷で働いている、ホビットのハロウィーです」


 続けて、長身の少女が、たおやかな物腰で頭を傾ける。


「私はエルフのノエルです。ナオタカ様がお世話を仰せつかりました。何かご用があれば、なんなりと」


 ホビットとエルフ。俺と同じで、亜人の一種だ。


 ホビットは小柄で栗毛、細身で、少し尖った耳と童顔が特徴的な人種だ。剣術と農作業が得意で、人間よりもやや魔法に長けている。


 対するエルフは背が高く金髪、スタイルも良く、長くて尖った耳と美しい顔立ちが特徴的な人種だ。弓術と木材加工が得意で、人間よりも魔法に長けている奴が多い。


 その特徴から、ホビットは農業奴隷、いわゆる農奴にされることが多く、エルフはその美貌から接客用の使用人に使われることが多い。ただ、長い耳を嫌がる人間は背が高いことを利用して、掃除婦として使うらしい。


「お前らってここで雇われているの?」


 雇われている、を強調して、そう訪ねてみた。サフラン王国は、奴隷制を禁止はしていない。問題は、王家自身が亜人を奴隷として使っているかだ。


 すると、ホビットのハロウィーと、エルフのノエルは当り前のように応える。


「はい、普段は洗濯仕事を任されているのですが」

「私はエルフですので、お掃除を。至らない点があったら申し訳ありません」


 どうやら奴隷ではないらしい。


 雇われている、という問いを否定しない以上、賃金は貰っているのだろう。


「あの、ナオタカ様!」


 目を輝かせたハロウィーが、一歩歩み寄る。


「ひとりでカーディナル軍を撃退したという話は本当ですか!」

「ハロウィー、ナオタカさんに失礼ですよ」

「でも気になるんだもん。ノエルだってさっき驚いていたじゃない」


 ハロウィーに指摘されると、ノエルは恥ずかしそうにうつむいた。


「それは、そうだけど」


 そんなふたりに、俺は気にせず軽い感じで答える。


「気にすんなよ。それにその話は本当だ。俺は鬼族だから、人間の兵が何人束になっても勝てるわけねえだろ? 装備もいいしな」


 俺が収納空間魔法を展開。なかに右腕を突っ込んで、十文字槍を引き抜いた。


 でも、俺が十文字槍の解説をする前に、ノエルとハロウィーは目を丸くして固まってしまう。


「あの、ナオタカ様……それは……」

「収納……空間魔法って、使える人いたの……?」


 数多くいる亜人のなかでも、鬼族を除けばもっとも魔法を得意とするエルフとホビットの少女は、信じられないものを見る目で、唖然としていた。


「ん? おう。これくらい鬼族ならみんな使えたぞ。じゃないと人間から逃げ回って長旅なんてできねぇよ」


 逃げ回る、という言葉でノエルとハロウィーの顔色が変わる。けどあえて無視して、俺は十文字槍の説明をする。


「こいつは御神木を日緋色金でメッキを施した柄に、金剛と青生生魂の合金を鍛えた穂先を持つ槍だ。鬼族に伝わる宝物だ。鬼族の刀匠が作ったもんだが、普通の伝説の武具よりよっぽど高性能だ」


「ヒヒイロノカネ……ですか?」

「コンゴウに、アポイタカラって何ですか?」



 首を傾げるノエルとハロウィーに、俺も首を傾げる。


「あれ? エルフとホビットも知らないなんて、思ったよりマイナーなんだな。そうだな、とりあえず全部オリハルコンやミスリル、アダマントと同じ伝説上の金属だよ。市場の流通量はゼロ。俺ら鬼族のあいだに連綿と受け継がれてきた希少金属だ」


 俺の説明を聞いて、ハロウィーとノエルの尖った耳が、ピーンと立った。


「伝説の金属!?」

「ど、どうしてそのようなものをお持ちなのですか……?」

「どうしてって、俺は鬼族最後の生き残りだからな。死んだ仲間たちの遺産を受け継ぐのが俺しかいなかったんだよ」


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ニワトリが飛べないのは才能でも努力でもなく環境のせいだ! 無能な少年と師匠の出会いが、一人の英雄を誕生させる──。

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