第8話 仲間の遺品 伝説の金属
俺はあっけらかんと言ったつもりだが、ノエルはあやうく聞き逃しそうなほど小さな声でぽつりと、
「仲間の……」
と漏らした。
「言ったろ。鬼族最後の生き残りって。お前らも聞いたことくらいはあるだろ? 有名な神話だと、俺ら鬼族は元々、地獄の王ハデスに仕える存在。だから、鬼族は不吉な地獄の使者だって討伐対象だ。長年人間たちに追い回されて、とうとう俺以外はみぃーんな討ち取られちまったよ」
ノエルとハロウィーの表情に影が差すのに気づいて、俺は慌てて手を振った。
「おいおい勘違いするなよ。俺は復讐なんてする気はねぇよ。だって人間は大陸中に何億人もいるんだぜ? 人間を皆殺しにしようと思ったら、毎日一〇〇人ずつ殺したって一万年以上かかっちまうぜ」
俺の軽口と笑顔に、ノエルとハロウィーは表情を和らげてくれるので、続けてこう言った。
「ただ、鬼族が滅びる原因になった非暴力不服従の精神だけは捨てるぜ。俺は鬼族の戦闘力を存分に活かして、この戦国乱世で出世しまくってやるんだ」
「「出世、ですか?」」
俺が握り拳を作って見せると、ノエルとハロウィーは不思議そうにまばたきをする。
「おう。戦場で手柄を立てまくって、爵位と領地を貰って、いずれは貴族になる。俺は鬼族初の、いや、もしかすると亜人初の貴族になりたいんだ!」
ホビットのハロウィーは、尖った耳を硬くして、あわあわと手を振った。
「そそ、それは無理ですよナオタカ様。亜人でも手柄を立てれば、亜人部隊の小隊長くらいには取り立てて貰えるかもしれないけど」
ハロウィーと一緒に、エルフのノエルも長い耳を硬くして取り乱す。
「あ、亜人が貴族になんて、トカゲがドラゴンになるより無理ですよ」
「無理だと言ってやらなきゃ、何もできないぜ」
ハッキリとそう宣言する俺に、ハロウィーとノエルは押し黙る。
「それに、本当に可能性がゼロってわけでもないぞ。大陸の歴史をヒモ解けば、戦国乱世の時代には平民上がりの貴族が生まれるのが常だからな」
「「え?」」
ノエルとハロウィーのは、意外そうにきょとんとする。
「戦国乱世の時代はどこの国も命がかかっているからな。実力主義で、力あれば出自に関係なく兵士や上級兵士、貴族に取り立てることが多くなる。いまいる貴族たちだって、遡れば大昔の戦乱で手柄を立てて、爵位をもらったわけだしな」
そこまで言ってから、俺はため息交じりに肩をすくめてみせる。
「つっても、人間は歴史から学ばないから、戦乱の時代が終わったらまたすぐに身分社会に戻っちまう。一代で版図を広げた、歴史上の征服王たちはみんな、出自に関係ない人材登用を徹底した連中ばかりなのにな。才能と出自は関係ないってことに、まだ人間は気づいていないんだから、おめでたいよな」
だからよ。と言って、俺はノエルとハロウィーに歯を見せて笑う。
「鬼族の俺でも、人間の誰よりも手柄を立てて、俺が国になくてはならない人材になれば、きっと貴族になれる。俺はそう信じているぜ」
俺の話を聞いていたノエルとハロウィーは、わずかに染めた頬に手を当てて、吐息を漏らす。
「ナオタカ様は、凄いのですね……なんだか、まるで別世界の話を聞いているようです」
「でも夢物語じゃなくて、ナオタカ様だったら本当にやっちゃうかもしれないね♪」
「かもじゃなくて絶対なるんだよ。何せ貴族になってガンガン金稼いで毎日可愛い女の子を可愛がりながら美味しい物を食べて暮らすのが俺の夢だからな」
「うわぁ……欲深い……」
最初に比べると、だいぶくだけた反応をするようになったハロウィー。それに比べてノエルは『そんなこと言ったら失礼ですよ』とか言いながら、ハロウィーの袖を引っ張る。
「それはそうと、だ」
十文字槍を収納空間へ放り込むと、俺は部屋のソファに腰を深く下ろす。
「俺の処遇に関する会議は明日なんだろう? じゃあ今日は俺の話相手になってくれ。とりあえずこの国の状況を知っている限り教えてほしい」
対面側のソファを手で指して、俺はふたりに座るよう促した。
すると、ふたりはすぐには座らず、部屋に備え付けの紅茶セットへ向かった。
ホビットのハロウィーは茶葉の用意をして、ノエルは火炎魔法を使い、左手の平に中火の炎を生み出してポットの底を熱しはじめる。
俺も火を起こすときは火炎魔法を使うけど、メイドが魔法を使えると便利だなぁ、と思う。もしも俺が貴族になったら、炎とか水とか、仕事に役立ちそうな魔法が使える人材をメイドにしよう。
なんて、取らぬ狸の皮算用をはじめてしまう俺だった。
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