第ニ夜 タプン、タプン

 タプン、タプン。まだ心臓の鼓動すら知らないのだ。

 タプン、タプン。まだしっぽのおもかげすらあるのだと言うではないか。おまけに見た目は宇宙人。

 タプン、タプン。誰かと誰かの愛の結晶と呼ばれるか、はたまた憎しみの矛先か。それともみだらふしだら淫欲模様か。

 タプン、タプン。それとも精神を吹き込まれたあわれなただの肉塊と呼ぶべきか、誰も答えを知っていない。

 タプン、タプン。一人では生きることすら困難な、自分の姿にあわれを感じて身体を丸める。

 タプン、タプン。いつ産まれるやと喜ぶ言葉に、腹ただしくて蹴破りたい。だからお前は動くのだ。

 タプン、タプン。陽の光の暖かさなど、感じることもできないその部屋で、お前は恨みを込めて動くのだ。

 タプン、タプン。それでも皆産まれるときにはけろりと憎しみを忘れているのである。そうして、悲しみだけが残って泣くのである。

 タプン、タプン。タプン、タプン。分かる、分かるぞ、その気持ち。産まれてきたことにゼツボウして泣いているのだろう。私も、私もそうだった。

 タプン、タプン。だから、その悲しみ聞く前に。私が呪文をかけてやろう。きっときっと素晴らしい、お前の人生になるだろう。

 タプン、タプン。タプン、タプン。揺れろや揺れろ、命のゆりかごで。ゆるりゆらゆらグッスリ眠れ。


「何をしていらっしゃるんですか? 先生」


「うん? ああ、ちょっとした診察みたいなものです。お気になさらず」

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