第24話 三嶋和泉1-10
『ダンジョンうさぎ』の『
〈“♪”行動により、スキル『地図』を獲得しました〉
〈獲得したスキルはスキル『箱庭』に統合されました〉
《『箱庭』外部で『地図』を利用可能となりました》
その間に新しいスキルを幾つか手に入れた。『箱庭』の外では音声と本当に最低限のステータスメニューしか使えなかったところに『地図』機能の解放。本来ならば熟練度を上げなければ解放されない一定距離の自動マッピングに、メモ機能やピン付け等が最初から可能という親切に喜んだ。『箱庭』は内部でなければ音声案内以外殆ど機能しない。その代わり、和泉自身が対応するスキルを手に入れれば外部でもスキルが使えるようになり、さらにそこに『箱庭』の補助が受けられるようになる形だった。
それはもう、テンションも上がるだろう。休憩もそこそこに回復薬をお茶に『誘引剤』の作成と研究に没頭した。促されるままに、『調合』周辺の設備を容赦なく拡張し、スキルレベルもとんとん拍子で上がって行った。
『究極の誘引剤(ダンジョンうさぎ)』
魔物を誘き寄せる薬。
ダンジョンうさぎのことを知り尽くした者が作り出した対ダンジョンうさぎ究極の誘引剤。効果範囲内の対象者には決して抗えない誘惑の薬。
ダンジョンうさぎに近しいうさぎ種にも効果を発するだろう。
品質:普通
使用方法:点火
効果:ダンジョンうさぎ(極大)
そして手に入れた兵器がこれだった。EPも少々消費して、『魔物札』獲得から1週間で作り上げた魔法薬。最高に上がったテンションで、餌に混ぜるのではなく火をつけて焚く茶色く四角い薬を手にした。そして、使おうとしたその時、そもそも普段から力も弱く信頼に欠ける和泉の手から火のついた兵器が零れ落ちたのだ。慌ててしゃがみ拾い上げようとして、失敗。上がった煙に一目散に飛んできた『ダンジョンうさぎ』にどつかれて、誘引剤はあっという間に出来上がった茶色の毛皮の海に消えた。
初動で大変なうっかりをやらかしはしたが、どうにか火がついた誘引剤に元々予定した檻を被せて、とにかく群がる獲物を狩った。生きた魔物がそばにいるとはいえ、見える範囲の集まってくる兎たちは明らかな戦闘不能状態。そのお陰かストレージが使えるという幸運がなければ、ドロップした肉と毛皮はどうなっていたことだろう。
〈“♪”行動により、スキル『屠殺』を獲得しました〉
途中でそんな声も聞いた。煙に誘われ発生源に群がり、幾らかすれば酩酊してひっくり返る。そんな哀れな獲物を無心で〆る。それはただの作業だった。
〈“♪”行動により、スキル『罠』が『罠師』へと進化しました〉
折角新スキルで上がった処理能力。しかし、どうしてか集まってくる兎が絶えない。そう思えば、元々持っていたスキルが成長した。
「お前か」
《スキルによって罠の効果及び範囲が引き上げられています》
相乗効果で、まさに入れ食い。さらに無心で抵抗も碌にできない魔物の息の根を止めていく。
《“♪”『ダンジョンうさぎ』を100匹討伐しました》
《『魔物図鑑』『ダンジョンうさぎ』の項目が完成しました》
《スキルに反映します》
突然、和泉の視界の情報量が増えた。正確には、右下に配置されたミニマップの中。赤い点が増えていた。
「ちょっ、気になる!『箱庭』さん!!説明を!!想像はつくけど!!」
《『ダンジョンうさぎ』の研究が完全に終了し、スキル『地図』の範囲内において『ダンジョンうさぎ』の所在がわかるようになりました》
そういうことだった。捜索や索敵に向いたスキルが得られればさらに便利になると重ねられる。
「何か探したり警戒したり……は、いつもしてるけどね」
《続けていれば獲得可能です》
それからも怒涛だった。緊急事態に昂った精神状態で2時間の作業を行なった和泉はへなへなと木の幹にもたれかかって座り込む。集まってきていた赤い点は地図上に一つもなくなっていた。
《“!”至急帰還と回復薬の服用を提案します》
声は響く。辛うじて帰還の意思を示せば景色が変わる。けれど、そこまで。回復薬を飲まないまま、和泉の意識は沈み込んだ。
「……たしかに何匹も〆たけど、100越えるのが早すぎたと思う。そこのところどうだろう……」
次に彼女が目覚めて、最初に口にしたのはそれだった。冷たい石造りの玄関。硬い場所で寝てガチガチとなり、強張りどころか痺れも酷い。最悪な気分だと思いながら回復薬をポーチから取り出す。その手も震えていた。
《想定より体調悪化が急激でした。行動指標を変更します》
「あー……気が抜けたら意識が飛ぶなんて割とよくあるから。動いてる間はいいんだけどね……」
それこそ、ぷつんと糸が切れるように動けなくなる。というか、テンションだけで限界を超えて活動しているのだ。だからなるべく落ち着いて行動するように心掛けているが、今回のようなハプニングが起きたり、やらなければならないことができると失敗しやすい。それもこれも、やろうと思えば一応できてしまう体のせいだ。完全にできないのであれば、当人も周囲もわかりやすくて助かるのだが。
考えながらずりずりとたどり着いたベッドに這い上がって息を吐く。無理をした体が熱を持ち、強い痛みを訴える。
「……履歴は。……なるほど……大人はまだしも、子どもにはあの誘引剤が強すぎて毒」
効果が及ぶ範囲の巣にいた生まれて間もない子うさぎ達はそれが原因で次々と倒れていたらしい。『ダンジョンうさぎ』の討伐数は141と表示されていて驚くが、雌のお腹にいる状態でも、外で生存可能になっている個体がカウントされているらしい。
このまままた寝てしまおう。材料を集めて痛み止めくらいは作らなければと考えていた和泉は、不意に見えてしまった文字に閉じかけていた目を見開いた。
「……中毒?」
自分で研究する意思がなくとも、クエストに従うだけで優秀なスキルが研究を進めてくれる。進めてくれるというより、情報を開示してくれる。今回の事件で被験が足りたのか、とんでもない報告が上がっていた。
『堕兎魔草(ダンジョンうさぎ)』
ダンジョンうさぎが摂取すると強烈な中毒症状を引き起こす魔草。近付かなければ症状が出ることはないが、一度でも触れたことのある個体は次にその魔力を僅かでも感じた時その誘惑に抗うことができなくなる。
食べれば食べるほど蓄積されるが、成体が致死量に至るまでには相当量が必要となる。魔力的な問題である為、人間には全く問題なく、むしろその肉の味は向上する。あまりに多量に摂取すると魔力の吸収が遅れる為、体内のその魔力に惑わされて近くの個体にも影響を及ぼすとか、繁殖ができなくなるとあり……さらには、少量の摂取をした親が産んだ子にも影響が蓄積される。
「……この草の方が何百倍も希少……」
希少なのにクエストが実験用の雑草類に混ぜて寄越した。雑草だからか売却不可の譲渡・栽培も不可だったそれ。しかし、まだ材料は残っているし、高くはあるがEPで交換もできる。名前がついてもそのままだった。
「こっちの草の方が謎」
しかし、本当によくありそうな細い真っ直ぐな草だ。それが、兎を狂わせる魔力を持つのだという。
《元々雑草です。特殊な環境によって特別な魔力を帯びています》
「!……なるほど……!」
環境さえあればその雑草を撒けば容易に増やせる。となれば納得だ。しかし、その環境が希少なので滅多なことでは手に入らない。
「魔力の問題なら、他の魔物にもそれぞれ弱点になる魔草シリーズがありそうだね」
これは本当にありがたいことだ。ファンタジーなお薬で楽に掃討できるのだから。
《基本的に禁止薬物に指定されます》
「……禁止薬物」
理由は簡単。魔物を集めることが危険であり、他の冒険者に迷惑がかかるから。基本的に一般には許可されずダンジョンを破壊する時に使用される。ダンジョンの破壊の為には、ダンジョンのすべての層の魔物を掃討し、ダンジョンコアを露出させなければならないからだ。それであれば繁殖を抑制でき、呼び寄せられるこの薬は最大の効果を発揮する。
《現在、オーナーが使用することに法的問題はありません》
そうでしょうよとしか思えない。息をついて枕に改めて頭を預ける。驚きが過ぎ去って、再び酷い疲労がのしかかってきていた。これだけ“暴れて”しまえば、1週間は寝込むことになるのがいつものパターンだ。
《第一層の個体数は激減。一ヶ月以内に後二度同じように行動すればフロアの掃討は可能でしょう》
それはいいことだ。この薬についてしっかり記録に纏めよう。伝えることができれば、すぐに取り扱いに関しての規律が作られるだろう。
「すくなくとも、いっしゅーかん」
大人しく過ごし、動けるようなら家の中のことをすると宣言する。素材も沢山集まった。それの利用も考えていかなければ。そう訴えれば予定を作成すると『箱庭』が答えた。けれど、それよりもまずは体調を回復しなければならないと真面目に注意を促す声を聞き続けた。最後のお休みの声に頭の中だけでお休みと応えて。
《新たな設定を完了》
《常時、一定以上の活動を抑制》
《長期的かつ安定した生活を優先します》
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