第20話 三嶋和泉1-9
ダンジョン単独サバイバル生活がはじまって、丁度一ヶ月。様々なことが順調で、基本メインが兎肉であること以外は、サバイバルとしては充実した内容だった。特に畑は間引き菜からはじまり、成長の早い野菜が収穫できはじめた。五月に入ってさらに種を蒔き、毎日の成長と収穫を楽しむことが日々の彩りだ。
狩りの方も順調で、クエストに従って実験のようなことをしては報酬を得た。入手した野菜やよくわからない草をばら撒き観察、好物や苦手な物を発見して、罠餌や忌避剤の研究を進めて図鑑を少しずつ埋めた。『罠』スキルの熟練度も上がったのか、成果は右肩上がり。お粗末な木製の罠を破られ、縄を引きちぎられながら、本命の金属製の檻とワイヤーで捕獲からトドメを繰り返していた。
「そうか……丁度一ヶ月か」
数字で理解していたが、改めてもう一ヶ月かと考え深く呟く和泉。その視線の先の草むらの中には皿状の窪みがあった。ふかふかと草が集められたそこには、小さな毛玉が4つ。
「(初日組が無事に産まれてしまった)」
相手は生まれたての命。しかし、小さいながら魔素そのもののような生き物には嫌悪感を抱く。身動きもほとんど取れないそれの前に膝をついて、ポーチから準備していた小瓶を取り出す。
「状況的に仕方ないとはいえ、毒の調合は法律云々を考えると本当に悩ましいんだよ」
毒と薬は紙一重。サバイバル中であるし、ダンジョンから出た際、それがだめでも報告書的なものはしっかり上げると一人言い訳しながら、子兎にとっての毒を投与する。判定はすぐに下った。
《“♪”条件が達成されました。『魔物図鑑』が更新されます》
「お」
《『魔物図鑑』『ダンジョンうさぎ』の項目が規定値に達しました》
《『ダンジョンうさぎ』の『魔物札』が解放されました》
「……ほーん?」
モンスターカードとはなんぞや。和泉は首を傾げつつ、手早く残り三匹全ての討伐を終える。気になりながら作業してもよろしくないだろうと、一度『箱庭』の内部へと帰還。メニューで『魔物図鑑』を呼び出せば、そのページはほとんど埋まっていた。
『ダンジョンうさぎ』
戦闘:逃亡 討伐報酬:毛皮・肉
生息地形:森林他未解放
雌雄の比較や生態等も詳しく書かれているが、まだ討伐数が足りない。進化の欄も未解放の?が並ぶ。
「モンスターカードは何処」
《『魔物札』を表示します》
うさぎのイラストに『ダンジョンうさぎ』と書かれたカードの画面が開かれる。『召喚』という文字が青く光っていて、その下のバーはEPの表示。
「これで召喚して『箱庭』の中で魔物牧場をやれと。……魔物相手に、安全面は?」
《『箱庭』内部に置いてオーナーは無敵状態です》
「逃したりは」
《内部の存在はオーナーの所有物として扱われ、回収及び移動が可能です》
相手が生物でもお構いなし。人が相手だったり、他者の持ち物だと勝手が違うらしいが、自分で召喚した魔物であれば当然所有物。外での召喚も可能、連れ出しもできるが、命令するようなスキルがないので戦力にすることはできない。できて無差別テロ。
「カード所持数らしき項目があるってことは、別口でカードを手に入れたりできるわけだ……『クエスト』みたいに『魔物札』って単独スキルがありそう」
今から『召喚』すると畑を食い荒らされる。その対策にと調べれば、飼育施設のページに『うさぎ小屋』を発見。一番最初の(小)では繁殖不可能と記載されていた。ただの柵で区画を区切って放し飼いもありだろう。
「よし、後回し。ダンジョンに野生がいるからEP消費してわざわざ呼ぶ理由なし」
もう一度ダンジョンに戻ろうと決めて、メニュー画面を確認しながら一つ一つ閉じて……
「……ん?」
不意に気になったのは『ダンジョンうさぎ』に対抗するための道具類の一覧の点滅。?の新しい項目に触れれば所謂魔法薬のページへと飛んでいた。
「これは……来た??」
材料は、ある。そう確認して、和泉は午後の予定を確定させる。素早くダンジョンに仕掛けた罠を全て確認し、『箱庭』内部に戻れば、『調合台』へと張り付いた。
1週間後
茶色い毛皮の海があった。もふもふとした生き物が、みっちりと足元を埋め尽くす。押し合い圧し合い、狂ったように和泉の目の前の地面、正しくはそこに落ちて煙を上げる物質へと殺到していた。
《“♪”『ダンジョンうさぎ』のドロップ品質が落ちる可能性があります》
「……!!意識を飛ばしてる場合じゃない!!けど、どうしよう……手元狂って全部ぶちまけた……」
《酩酊状態の間に捕獲しトドメを指しましょう。運が良ければ回収可能です》
『ダンジョンうさぎ』の掃討カウントダウンに入って最高まで上がっていたテンションが落ち着く。未だにどこからか集まり続ける兎達の処分に追われることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます