第19話 地上組、隔離室
落ち着いて、冷静に行動してくださいと言われながら、車に乗せられて恐らくは基地の奥。さらに柵で囲われた建物へと辿り着いて案内された教室(仮)。一応机と教卓で体裁を整えられたその部屋でスキルの報告と公開設定をと言われたままにタブレットを手にする。
「『空歩』もイエローだろ?」
「少しレクチャー受けたら帰れるみたい」
未登録だと情報料をかなり見込めるわと彰子が呟く。それを聞きながら、スキル名を打ち込んだ画面が見事に赤文字注意になるのに響は項垂れた。『〇〇の魂』シリーズは一発レッド。しかも、その中でも食性が肉食だった場合は完全に制御ができるまで隔離。
なぜそうなるのかは、前例が教えてくれる。
「(『獣の魂(牛)』……ドイツでの初発見。アフリカからの難民。暴れて草を食べる。食べて、寝る。壁に穴を開ける破壊力……)」
これは情報が少ない。海外の情報がほとんど入ってこないからだ。けれど、人間がその辺に生えている草を食べ始めたらダメだろう。スキルによって、その動物の食性を得られたとしても。
「宣言しておく!俺は!」
「「「?」」」
「生肉は食わない!せめて、レアで!!」
「--ああ、人間のものと動物のもの、どっちも食べられるんだったか……雀さんは生の穀物も虫も普通に食べるらしいぞ」
我儘めという空気になったが、それは違う。
「妻と幼い娘を連れてダンジョンサバイバルした猛者と一緒にしないでほしい!俺だってそんなサバイバル中なら覚悟も決まる!けどまずはレアぐらいから慣らしてもらいたい!」
『鳥の魂』の保持者。身長180体重90台という貴重な大柄厳つい系男性の顔写真。それと並べられる明らかに女性の手のひらの上の雀が同一人物だなんて!!初期にダンジョンに落ちて一年ほどで出てきた彼は現在進化によって体毛が黒めの隠密雀になっていて、攻撃は人間状態かその小さな体を弾丸にぶち抜くか……
今のところ世間に公表された情報しか見られないが、スキルの確認が通ったら同じシリーズの同士には情報全開放の上に友達申請自動になっていた。
「兄貴と呼ばせていただこう。雀サイズで体当たりする度胸がすげぇ……」
「ところで、結局響さんは何になるの?」
「狼」
答えた瞬間ポカンとされた。
「犬か猫なら犬なのは納得?……肉食でも普通に猛獣が来るとは思わなかったわ」
「種族に縛りとかないの?日本の狼って何百年も前に絶滅してるでしょう?見たことないのが来るなんて思わなかった」
「動物はランダムで関係ないのかもな。三例じゃわからないか。ニホンオオカミなら絶滅種ありでそれはそれで夢がある」
「ロマン枠……恐竜!!」
それは夢がある。進化があることは雀さんの報告でわかっているため、何からでもロマンは追えるだろうが……やはり、恐竜からのドラゴンは早そうだ。
「進化……!狼ならフェンリル?」
「犬系ならオルトロスとかケルベロスもあるわ」
「……頭が増えたら思考はどうなるんだ?」
「……ちょっとわくわくしたけど、実際俺が狼に変身してさらに進化はちょっと想像がつかないというか……怖くない?」
本能のまま暴れるのも怖い。そう考えて気づく。そんな恐怖は先輩に相談すればいいのだ。そのための友達許可。
「あ。正式にチーム画面あるんだな。仲間と能力情報共有設定……全部公開でいいか」
「え、どこ?」
「ああ、事務員でも共有できるのね。一族の情報画面に似てる」
少し探せば同じものを見つけて、同じように公開にする。三嶋和樹の名前の隣に『反転』とあって、それをタップすれば情報画面が出る。最初期のダンジョン発生に巻き込まれ終盤まで活躍したが、脱出の前に亡くなってしまった。仲間の証言では敵を転がしたり、重いものを軽くしたりしたそうだ。
「響は赤字な上に隔離期間中って出るんだな」
「え、どこ?どこなの?」
非戦闘員枠に名前の出ていた三嶋彰子の隣に『空歩』と出る。すぐに画面が更新され、イエロー表示になった。恐らくは先ほどの報告がされたのだろうと見れば、取得直後のことがそのまま報告されていた。自衛隊の監督があったため早かったのだろう。
「おお、ここか。では、満を持して!ていや!!」
「「「……は?」」」
響の騒ぎで聞いていなかったと全員が気づく。そして、数秒後に更新された画面に全員が目を丸くした。
三嶋美里『魔女』
「……『魔法使い』でも『魔術師』でもなく?」
「職業スキル、か……海外だと魔女狩りとかあるって聞くし危ないんじゃないか?」
「あ……それは怖い。けど、戦いも生産もできそうでよくない?運動はそんなに得意じゃないから魔法はありがたいし」
「ファンタジーだな!」
ど定番に響はテンションを上げる。その瞬間だった。
「「「!?」」」
全員の視線が突き刺さる。最初は狼に変身するやつが言うなというような目だったのに、なぜか全員が愕然とした目をしている。どうしたのかと首を傾げた響の肩に横からポンと手が置かれた。
「赤木さん。一度深呼吸をしましょう」
「え??」
「吸って」
よくわからない。だが、とても静かな命令にわからないまま響は大きく息を吸う。吐けと言われれば吐いて、吸って、また吐く。するとある時ほっとしたような空気が満ちた。
「体調に変化は?」
「な」
ないと言う自分の言葉を、妙な音が遮った。文字にするならば
ぐぎゅるるるるる……
「……腹が、へり」
ぎゅるるるるる、ぎゅる
自覚して自己申告する間にも遮るように鳴る。それには流石に何かやばいということに気づいて血の気が引いた。
「赤木くん」
「!」
咄嗟にどこかに通信を入れる廊下側、三嶋家で一番早く動いたのは彰子だった。荷物の中から何かケースを取り出す。携帯用の非常食だと理解する前に和樹が豪快にそれを破り開けて響の口に押し込んだ。
「今後、このシリーズを会得した人にはまず食事を出す方向で調整します」
抵抗なく押し込まれた響はただひたすらもぐもぐする。ぺろんと食べ終わって手持ちの水を飲んだ響は、自分の異変に愕然とした。
「……ちょっと食ったら、さらに腹むぐっ!!」
「まだ後三つあるから黙って食べてろ。狼に暴れられたら洒落にならん」
「動物は警戒心が強いから、慣れた人間がそばにいた方がいいって書いてあるけど……私、よく知らないけど大丈夫?ご家族に連絡する?」
「仲間って意識がちゃんとあることを祈るしかないんじゃないかしら。私たちでダメだったらご両親を呼ぶしかないから、万が一のために呼び出しがあるかもって連絡だけはしておくね。家族には?」
「……光の早さで広まりそうだから、いまは家族にも非公開」
両親にのみと頷いて彰子がタブレットを操作する。その対応の迅速さに響は感心した。流石は秘書系、なんて思う間に廊下からいい匂い。
「……ちょっ、さっきの狐より怖いよ!?かーくん!」
「完全に餓えたオーラが……飯ちゃんと食べてきたのか?」
「食費、かなりかかるのかしら」
最早、響は何も考えていられなかった。目の前に急遽運ばれてきたパン類に食いつく。なんだか物足りないなと食べ続けていれば焼きたてのお肉がやってきて……
「ダンジョン産の肉がいい。なんだろ。本気でエネルギー足りてないってことがわかった」
やばいことになったなと響は頭を抱えて告げる。食事中の記憶が怪しい。既に暴走の兆候が出ているのではと恐ろしくなる。一生懸命背中を撫でてくる三嶋兄妹。少し離れて恐らくは両親と電話をしている彰子の様子に、まずは自分の食い扶持を稼がねばと机に突っ伏した。
「あと、また美里ちゃんの話題を遮った」
「え、そんなのいいから元気だそ。お腹空いたら我慢しないで言ってね」
『魔女』は心配そうに背を撫でる。
「あと机汚れてるし、お皿も危ないし綺麗にしたほうがい」
彼女が笑った瞬間、しゅわりと光る。綺麗になった皿と机。全員がそれを二度見して……
「え、怖っ。誰?」
「明らかにお前だよ」
「『魔女』でなんで机と皿が綺麗になるんだ?」
「きっと、魔法はなんでもありなのよ」
「……『生活魔法』というものは存在しますよ。掃除や片付け、火種や飲料水を出したり……魔力消費との兼ね合いで、検証は進んでいません。魔導具の方が便利ですしね。それより、皆さん」
食事が済んだのなら今すぐに検証を行いましょう。突発的に、無自覚にスキルを使うことは呉々もないように。今一度改めて意識するようにと言われて全員しっかりと頷いた。
時刻は10時前。しっかり本日二食目を食べた一行は、すぐさま検診と体力測定を受けることになった。
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