第18話 地上組、スキル取得
ダンジョンが発生する場所は、完全にランダム。世界にダンジョンが発生してから約1年後に見事、整備された自衛隊の駐屯地のグラウンドそのど真ん中に発生した日には珍ニュースとして日本中を沸かせたものだった。
「なんか……ちっさい」
その大きさは二階建ての一軒家に匹敵する。それは決して小さくないのだが、最初の一言目はそれだった。
「最大見た後だとそうなるよな。今わかってるだけで43でしたっけ」
「はい。お二人は問題なさそうですね」
テンション高くダンジョンを見ていた美里は、案内の言葉にハッとして振り向く。最後尾に少し顔色の悪い彰子がいた。
「大丈夫!?」
「ちょっと気持ち悪いくらいだから大丈夫よ」
最前列から最後尾で手を繋ぐ兄夫婦の隣に移動。そうして彰子の手を握れば、ほんの少しホッとした様子を見せた。
「急ぎましょう」
その言葉ですぐにダンジョンに触れる。侵入の意思を問われて入ると念じれば一瞬でダンジョンの中。木々もまばらな森の中、踏み固められた場所にいた。
「基本的に入ってすぐ襲われる事はありません。エントランススペースは安全ですが、ここの空きが後続に影響しますので長居しないようにお願いします」
万が一に備えて出ましょうと促されていつ襲われてもおかしくない空間へと足を踏み出す。そうしていると、早々に隊員たちが魔物を釣りに駆け足していく。
「三嶋彰子さん、こちらのナイフを」
「!はい」
躊躇する時間はなし。すぐに複数頭を釣りながら戻ってきた姿に、両脇を固められた状態で彰子が前に出る。姿は普通のアカギツネ類、ただ濁った赤い目と目にするだけで感じられる不快感があった。
「……不思議」
「どうした?」
「や……なんか……」
その姿を見て背筋を伸ばし緊張する男二人の間で美里が少し首を傾げる。兄の問いに答える前に、彰子が押さえつけられた『ダンジョンきつね』の首にナイフを突き立てた。
「え……身体能力強化系なのかな?」
「とりあえず下がりましょう!次来ます!」
「あ!はいっぅ!?」
「彰子!?」
スキルを手に入れた彰子が戸惑いの中、早く戻らねばと足に力を入れた瞬間だった。踏み込みが強くなり、バランスが崩れた体を慌てた隊員が掴み止める。
「いっ!」
「すみません!えっと」
「彰子さんは力を完全に抜いていてください!運べ!」
「は!」
きょとんとした彰子はそのまま担がれて、駆け足で運ばれる。
「『空歩』って……私空歩けるようになった?」
「え、何それ。一覧になかった奴!義姉さんレア引いたね!!」
「--……あー……珍しいの引くのは仕様だ!!」
と、担がれているのを囲んで賑やかになりそうだったところに、和樹の声が響く。とっとと〆たらしい。
「天秤ブーストかかってるな。『反転』だと」
「海外で伝聞が残ってるやつじゃん!本当に存在したんだ!」
「お前は保護者を失ってるから一番やばいかもな。行け」
「らじゃー!お願いします!」
そのやりとりに隊員たちの方が動揺する。だが、この国で、そして特にこの県では最も有名な特殊体質、その中でも影響力が大きい特異点に指定されている存在だ。すぐにその体質の内容を思い浮かべられる。
「特異点の中でも、和泉のって影響範囲が大きい上にわからないから」
「まだ影響が残っててよかったですね。和泉が管理してないと影響力なくなるでしょう?」
「名義だけだとだめなのはわかってるものね」
「ちょっ!わっ、すみません!」
「思い切りが足りないぞ!可哀想に、無駄に苦しませて」
「ごめんって!ば?」
話している間、止めに手間取って2回3回と刺した美里が目を丸くする。目だけでなく、ぽかんと口まで開いた。
「……こんなスキル、あったら有名だし、覚えてるんですけど?」
「とりあえずこっちおいで、美里ちゃん。気持ちはわかるけど」
「あ゛」
困惑する横で即座に駆け寄ってほぼ自分で押さえつけて綺麗に仕留めた男が汚い声を上げる。それに、全員の視線が、青褪めた男、響の方へと集まった。
「ちが……俺が一番凡庸なの引くと思って」
だからサクッとやったのに。そうぼやいてから、ゆっくりと挙手した。
「出たら、レッドな……肉食獣?」
その渇いた申告にその場が静まり返る。真っ先に理解したのは、ずっと黙って監督を行っていた男。即座に張られた声に反射的に四人の隊員が響を囲み、一人が外へ駆け出した。唖然とする三嶋家三人もそれぞれ促されて即座にダンジョンの外へ。
「特別室へどうぞ」
そして、深刻な顔で揃って隔離処分となった。
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