第15話 三嶋和泉1-7

和泉が今まで使ってきた罠は、自然と縄を利用した簡単なものだった。うさぎとはいえ魔物である敵に対して、様々な罠を多数仕掛けて狩猟効率を上げたい。


「……鉄は偉大」


しかし、簡単ではない。がしょんがしょんと音を立てる現代日本製の罠とその中で暴れる獲物を見て思う。午後を目一杯使って作り上げる木製の罠は完成度が低く、数をこなせないため薬のように経験値が貯まらない。硬い木を板や棒にするところから大変で、扱いにくく効果の低い木製や石製の道具に無駄に体力と精神力を削られる。『箱庭』の力を全力で利用するにしても、大変過ぎた。一度は最高のものを自分の手でと思えばさらに。


時間がかかるのは必然。そもそもの予定通り、クエスト報酬やらEPでの取得やらで時間を稼ぐことになるのだが……そうなると容量消費しても日本産を取り出した方がお得であった。


「ワイヤーとかバネとか素晴らしい。が、耐久値を考えると今からでも自家生産……『鍛治』か。施設に技術」

《木工系の生産技術の向上に努めましょう》


そこかららしい。さらにいえば、材料をダンジョン内で見つけて安定供給できなければ困る。その手の資源も中々揃ってはいるが、やはり調達手段が大切だ。


「お?……あ!ふはははは!ワイヤーは切れないだろう!そうだろう!」


探索を進めなければと思いながら次の罠に辿り着けば、ワイヤーに後ろ右脚をとられた『ダンジョンうさぎ』が必死に逃げようとしている姿に思わず笑う。酷い姿だろうが、6日目にして見慣れて来ても、魔物を前にした時のこの言葉にし難い嫌悪感は薄れない。魔素という毒は本能にストレートに危険を感じさせてくるため、収穫の多さに対する喜びとあわせてどうしてもテンションが上がってしまう。


《“♪”『ダンジョンうさぎ』を合計5匹討伐しました。『魔物図鑑』が更新されました》

「討伐数で内容更新ね」


弱点や好物を頼みますと思いながら、ドロップした毛皮を仕舞う。罠に仕込むうさぎ用の餌の改良をしていきたい。餌のレシピが調合で出ているもあって、魔法薬のような劇的な効果を持つ餌にとても期待していた。


「効率を上げたいからなぁ」


うさぎは地球でも繁殖力が強い。しかも、『ダンジョンうさぎ』は魔物。日本が開示する情報によれば、妊娠期間は長くて30日ほどで一度に4から6匹の子どもを年5回は産み、子は同じ期間で大人になる。繁殖力は兎に角凄まじく、大体のダンジョンで討伐規制などなしでも全滅することは滅多にないらしい。それほどの繁殖力。それを上回って、この層を掃討したい。それくらいできなければ、この先長くやっていけないだろう。


「(……そう、視界の隅でいままさに……仲良くやってるペアがいるんだから……)」


それ、産む前に捕まえてやるからな雌。『箱庭』さんは産む前、産む直前の巣の襲撃及び生まれたてで動けない子うさぎ強襲を推奨しているからな、覚悟しておけと和泉は静かに笑みを浮かべる。遠距離攻撃手段があれば叩き込んでやったのにと次の場所へ行けば、また収穫。


「(天秤もしっかり働いてるし、大丈夫)」


今は我慢の時。次の階層に何がいるかどれだけ気になろうとも、今は確実にうさぎを狩る。そうして力をつけるのだ。次が有用な家畜系魔物だった場合、それに釣られてしまいかねない自分がいる。『箱庭』に確認を促されてもいないのだから、今後のためにもまずは『ダンジョンうさぎ』を完全攻略するのだ。


「飽きるほどうさぎ肉を食べるんだ」


ついでに毛皮で工作もする。毛皮を鞣すなんてやったことがないが、何事も経験というか自分でやるしかないのだ。まずは小さなうさぎで慣れて、スキル上げをしておかなければ……羊や牛などの大物の加工で息詰まるのが見えている。



考えながら全ての罠の確認と再設置を終えて帰還。作り置きを食べて昼寝。起きたら、今夜の食事の準備を先にやっておく。


材料はうさぎ。


「ゲームとか漫画のせいか、丸焼きからみたいな気持ちになるね」

《丸焼きは技術が必要です》

「ですよね」


まずはと先に納品を行う。納品してみればEPと野菜の詰め合わせ。なぜ、野菜の詰め合わせと驚きつつ、まな板の上に一羽分のうさぎを置く。


「……毛皮を剥がなくて良いから楽だよね、うん」


手を合わせてから、指示に従って解体していく。鳥の解体と魚を捌く程度はやったことがあるが、獣系は初めて触る。


「ハサミがほしい……見るからに品質が悪くなっていく……料理系クエストでいつの間にか手に入れてた一番品質の低いナイフが……」


解体の腕は下の上と言ったところか。ぼろぼろ、ぼろぼろと肉のカスが落ちる。骨と一緒にスープにして贅沢に食べよう。


「あ……まて、骨や皮って膠の材料では?」

《まずは料理と毛皮を使った工作を優先しましょう》


余すことなく、使ってやるからな。まずは味わい尽くしてから、諸々に使う。一階層のうさぎを狩り尽くしてもまだ足りないに違いない。


「めざせ、魔物牧場」

《『ダンジョンうさぎ』の討伐を進めましょう》


そうすれば魔物牧場が本当にできるらしい。聞き方を変えると開示できないという情報もある程度答えが得られる。謀られているだとか、そういうことを感じる心などはないらしいスキル『箱庭』に、和泉はほんの少し寂しく思いながらソテーと汁物を完成させて、工作へと移った。

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