第13話 三嶋和泉1-5

ダンジョン内に水源を発見した。

水が確保できるならば、畑を稼働させられる。ということで、午後は内部での作業だが……正直体がしんどい。昼寝が終わってもベッドから起き上がる気力が湧かない。普通ならば何もせずに大人しく寝ているしかできないのだが……


「『箱庭』ごろごろしながらできる作業を」

《農作業を開始します》

「ごろごろ……」


整地した畑エリアの画面が表示される。区画を選べばアップになって、その土の部分をなぞれば綺麗に線が引けた。


《ラディッシュの種を蒔きますか?》

「はい」

《土を被せますか?》

「……はい」

《水やりをしますか?》

「やっちゃってー」


それで終わった。体は動かさない。EPの消費もない。なぜか?ストレージから取り出し、所定の場所に物を設置することにEPが使われることがないからだ。体を動かすことなく、それこそゲームのようにぽちぽちするだけで終わってしまう。


《オーナーの手で自らやれば経験値がより多く貯まります》

「箱庭入力でも他のスキルの会得とかに問題ない?」

《問題ありません》


『箱庭』は和泉の力だ。そのため、『箱庭』を通して畑仕事をしても経験値は貯まり、そのうちに栽培系のスキルが和泉自身に身につくことになる。


「素晴らしい」


何度も頷いて、ラディッシュの他にもクエストの存在する……あまりの数存在する4月に種蒔きする野菜類をどんどん、どんどん植えていく。1つの規模は少ないが、数だけは相当ある。今までの人生で和泉が作った、或いは、和泉の所有する土地で栽培されたものが主のようであり、日本の環境で地植えが可能なもののようだ。


《『箱庭』内部には現在特殊な環境設定がありません》

《全ての植物は日数経過で成長します》


受粉の手間は起きるが虫がつくことはない。その受粉の手間もぽちぽちで終わる。寒暖差がないことで、極めるとなると美味しさが頭打ちにもなるが、高品質までは安定して作り出せるらしい。今回四月蒔きのみなのは、内部に季節設定はないものの、成長に必要なEPは現在地……ややこしいが、ダンジョンがある日本の四季に準ずるからだそうだ。同じ空間で冬の野菜と夏の野菜を同時に同じように成長させるのはロスができるらしい。初期設定が問題なだけで、今後動力の問題が解決して季節を再現できるようになれば季節関係なく最高の農業ができるようになるだろう。


「……自分で食べる分だけかな」


大量生産して売り出すとバランスが崩れそうだ。そう考えた和泉を『箱庭』は即座に否定した。


《現状、全ての物資が不足しています》

《いずれ何か一種の物資が飽和するようなことが起きれば問題であり、対策の必要があります》


現在何もかもが足りない商売系のスキル空間内部。何か飽和しても、今は物の品質を削り取っているところを飽和した品物そのものを変換吸収に回せるらしい。物資そのものの変換はマイナスがなくなるまで行われ、プラスにする為に行われることはない。


《『箱庭』から依頼を出すことで飽和している物資の利用を促進したり、生産販売を控えてもらう等ができます。世界に存在するすべての国で使いきれないほど物資が飽和することはまずあり得ません》

「……そういえば、スキルって基本国別に分かれてるよね」

《はい》


つまり国と連携する必要があるのでは?それ一人でやるの??と和泉は遠い目をして首を横に振る。


「手に負えない」

《私物化ができないという制限が大きな権限を産んでいます》

「君は制限とか条件とか多過ぎだからね」


とりあえず、ラディッシュに限らず物は常に不足中。そもそも態々スキルで納品、出荷、販売などせず現実で売り買いできるのだ。サバイバル中の人のために一定量の食品などを商売系スキル持ちの公務員さんはじめとして出品しているはずだが、それだってそう多くない。


そして、現状どれも高い。知らぬうちに品物の品質や経験値にも影響がでているから損も大きい。


「ラディッシュいくら?」

《現在正確な金額を把握できません。施設を設置しますか?》


それもまずは『出荷箱』からと。それでわかるのは幾らで売れたか、である。まだ出荷できるような段階ではないため後回し。


「よし、これで……土の地面が増えたなぁ」


真っ白空間に浮かび上がる畑が現状で一種類ずつが50以上。葉物、根菜のほか、香草に香辛料に果樹の種まで。4月に撒けるものはすへて撒けというスタンスだったが、春に撒く種類が多過ぎる。本来絶対に管理できない数だが、『箱庭』ができるというのだからできるのだ。


《EPを使わずにできる作業が多いので問題ありません》


取り出すだけで済む水やりはもちろんのこと、間引きや摘芯等も仕舞えば終わるのでEPはいらない。勿論、収穫も収納で終わらせられる。支柱などを立てる場合、刺すだけならオート。紐で縛る作業などはこちらでする必要があるのでEPが多少必要らしい。


「有能」

《恐縮です》


管理も簡単だ。農業系のスキルでも感覚的にわかるようになると聞いたが、『箱庭』のサポートは完璧。今少し見るだけでも種の状態に土の状態などが表示されている。横にしれっと成長促進とかいう字もグレーアウトでEP不足を告げている。EPさえあればすぐ実らせられるというのだからチートである。

畑周辺の所謂デコレーションも微々たるものとはいえちゃんと効果を発揮しているらしい。用水路の整備が次の作業としてお勧めされているが、農業用の大きな甕からランクを上げるのはまだ無理だろう。


「……水汲みはほぼ日課にすべきか」


一応、余裕はある。しかし、万が一……そして何より、貯水の先。井戸などに早々に手を出したかった。井戸類の水源はストレージの内部。


「魔道具とかに毎日水が湧き出る水筒とかがあるらしいのに、ここの水源はストレージ……今のところ困らないからいいけど枯渇が怖い」

《“♪”魔素から水を作り出すことは無限に可能ですが、一つの世界が崩壊せずに許容できる水の量は決まっています》

「ん?」

《その為、世界を壊しかねない新たな水が放出された場合、同量の水量が異空間に流れ込みます》


納得した。よく考えれば、地球を循環している水が、魔導具による水の生成で増え続けたならば大変なことになる。そこら辺もスキル……というより魔素はちゃんとしているらしい。ダンジョンの生成や消失で完全に失われる水と新たに生成される水の量はそうして知らぬうちに制御される。


《『箱庭』内部では基本的に異空間内部の水を利用する道具や装置が使用されます》


基本的には水源は和泉の保有資源としての水だ。そこがなくなると、世界の水量を調節している異空間から施設別で上限分水を汲み上げ、それもなくなれば生成するという。


「いまの、その異空間の水量はどうなんだろうね」

《現在把握できません》


現在である。流石はその手のスキルの管理スキル。いずれはわかるとから笑う。とりあえずは水汲みを進め、貯水系施設?を大きくして、井戸に辿り着くのが目標だろう。


「水源は確保できたんだし、ぼちぼち行こう」


池とか川とか。いずれはそんな自然の地形を内部に再現する。そんなことを夢見て、和泉は本日の仕事を終わりとした。夕飯は作り置きを選び、眠るまではあっという間だった。

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