第4話 三嶋和泉0-2

『スキル』魔素を動力に発動する力。

見合った行動を行う事で魔素を通しスキルに応じた力を発する。使い込むことによって成長し、条件を満たせば上位スキルに進化・派生する。

得られる能力は個人の素質と経歴・経験によって異なり、成長速度・成長限界がある。


獲得方法(地球での確認順)

①ダンジョン生成に巻き込まれる。

②スキル未所持状態で魔物を初討伐。

③スキルを所持している状態で経験を積む。

④アイテムによる取得。

未発見

⑤スキル未所持状態で成人し、それを報告する。

⑥継承・授与等。

①②⑤、④の一部はランダム取得。


「ほらぁ……」


一つ目から知らない知識に和泉は半笑いでぼやいた。まさか、ダンジョンに入る危険を侵さず、希少なアイテムを手に入れなくてもスキルが取得できるなんて。世界的に行われている2番を利用した“予防接種”はこれが知れ渡れば即廃止だろう。


「5番の詳細」

《“♪”成人年齢は所属国によって異なります》


①所属国の成人判定及び、スキルシステム上の満15歳を満たした者。

②一定量の魔素に触れていること

③肉体及び精神の成熟

④所属している国、宗教等にそれを報告する。


この2番については、普通に生きていれば15歳頃に満たせるらしい。但し、魔素が生じて間もないこの世界ではダンジョン誕生から15年経たねばならないということになる。積極的に魔素に触れることで短縮は可能。

3番は“魔人”の発生を抑えるための制限。肉体的精神的に未熟な場合取得ができない。未成年のスキル取得は巻き込まれた場合のみで威力も抑えられる。それについては世界的に有名な情報だった。


「チャイルドロックは本物と。報告方法」

《オーナーの所属国日本における条件を表示します》


成人年齢……15歳(※)

報告方法……多(一覧)


「……なんで15歳?」


憲法で成人年齢は18歳のはずだ。


《相当する儀式が複数存在します》


成人式、立志式、元服等。並ぶそれらに納得した。成人式は盛大にやるが、立志式や元服というのも細々とはいえ続いている。


「歴史が関わる?」

《はい。現行の憲法に準じますが、様々な影響が存在します》

「これ、日本ややこしい……?というか、国の認識はどうなって……いや、まずは、まずはスキルの問題」

《日本国は簡単な席を設けるだけで報告の体裁を満たします》

「……ほー?」


国への報告は、戸籍があるためするまでもない。その日さえくれば一発だ。さらに多神教、八百万の神の考えによりそれを補強。


《人が多く行き交う場には魔素から変換された無害なエネルギーが集まります》

「それを使ってか」

《祠、地蔵、神棚等、エネルギーを集めて蓄える場が国内に多数存在。思想により、土地・地形にも影響が漂っています》


だから、自宅でちょっとした祝い程度でも条件を満たすことができればスキルの開花が可能。


《但し、規模や信仰の度合いによって、ランダム取得できるスキルの割合が変化します》

「小さな神社より大きな神社?」

《一度も利用していない大規模施設より、通い慣れた小規模施設である方が良いでしょう。但し、大規模施設での取得であればスキル取得時点で相応の初期エネルギーの取得が期待できます》


初期起動がなんだと聞いたことを思い出す。


《生成に巻き込まれた場合、多量の魔素に触れるため、多くは初期起動に必要な動力を満たします》


但し、希少なスキルや上位スキルの場合は満たせないことがある。巻き込まれたダンジョンの規模及び落下階層の深度も関わるようだ。


「君は重そうだね?」

《現存するスキル全種中最大規模です》

「最大を満たす条件は?」

《最大級ダンジョンの生成に巻き込まれ、最深部まで落下。共に巻き込まれた財産、人数、オーナー個人の素質等の条件が重なり、ぎりぎり起動条件を満たしました》


正直な話、起動はしたが現在燃料不足で色々精一杯らしい。最高のパフォーマンスには程遠い。


「基礎知識の欠如した状態だと疑問が多過ぎて手がつかない」

《基礎知識『魔素』『ダンジョン』を表示しますか》

「やってしまえー」



『魔素』

許容量を超えると毒であるが、簡単に無害化できる夢のエネルギー。魔素のまま存在する場合、自然と増幅する。


《魔素は呼吸するだけで消費されます》

《許容範囲を超えると侵食が起こり動植物の魔物化等様々な問題が生じます》


『ダンジョン』

魔素の濃い場所に発生する異空間。

生命体を呼び寄せ、様々な方法で魔素を消費させる。


「魔素が濃い場所?接続が難しいくらい魔素が少ないのに?」

《魔素が元々存在した世界での基礎知識です》


魔素が存在した世界。そう聞いて考えた。夢のエネルギー……人間の性。


「スキル……魔素を消費させる……ダンジョンは浄化システムか?」

《“♪” はい》


機嫌良くポーンと鳴るが、此方は冗談ではなかった。既にダンジョンの破壊を禁止して資源を得続けようとした結果……或いは、手が回らずに“氾濫”が起こって大問題になっていたが。


「欲張って増やして自滅したとかいうベタなやらかししてないよね」

《詳細は解放されていませんが、ダンジョンは現在魔素排出口として機能しています》

「……ダンジョンは即破壊すべきもの?」

《魔素の増幅量・速度は基本消費を上回ります》


利益が欲しいとダンジョンを残してしまうのも、魔素を消費したいダンジョンとしては戦略だ。しかし、ダンジョンを破壊、完全攻略した場合の恩恵も大きい。日本は最初期から破壊を基本政策にしていたのでまず一安心。外国からの氾濫情報や海からの魔物の出現でわかっていたが、今まで以上にやれるなら即破壊が求められる。

と、ダンジョンの項目の詳細が一つ開く。


『ダンジョンの危険性』

発生:ダンジョン規模に応じた地上の巻き込み。

統合:最大以下のダンジョンが近距離に生じた場合、魔素が引き合い、ダンジョン同士を結ぶ直線上を全て巻き込んで再生成される。

氾濫:内部の魔物が地上に溢れ出す。飽和型・恐慌型等が存在。


「は?統合?初耳ですが?」

《人間が確認していないだけで、既に数件起きています》

「あら……そう」


『魔素の帰化』一定以上の魔素が地上を満たした場合、魔素が地球で精製されるようになります。


絶望である。凄まじく重要な情報なのだが


「外との連絡手段……脱出手段は?」


反応が一瞬ない。


《反転中ダンジョンからの脱出アイテム・スキルは存在しません》

《連絡手段については幾つか方法がありますが、開放されていません》


和泉は思わず片手で目を覆った。どれだけ有用でもこの状況では意味がない。そもそも恐らく大人数の避難所になれるスキルだ。思えば、どこか控えめにお知らせが鳴った。


《スキル『箱庭』は時空間系・非戦闘系スキル等を網羅した、所持者一名のみのスキルです》

《その魔素消費量は膨大》

《侵蝕された幾つもの世界が長い年月をかけてスキルを練り上げ生み出した比較的新しいスキルです》


「うん?」

《『箱庭』の完成により、惑星が完全に汚染されてもスキル内部での生存が可能となりました》

「凄いけど……私一人。避難所なのに」

《解放されたことで他の時空間系スキルへの補助効果が解禁されています。ダンジョン内の空間系アイテム排出率も多少上昇します》

「……つまり、ここで頑張れば貢献できる?」

《はい》


《このスキルは多くの制限があり、ダンジョン発生3年で取得され、剰え即座に起動できるものではありません》

《取得難易度も最高》

《『箱庭』所持者は世界に一人。そして、一人目の取得者が死亡した場合、自立し、新たな所有者は生まれません》

「……ん?」

《この世界に於いて、スキル『箱庭』の所持者は三嶋和泉のみとなり、その死後は他の人間による空間の利用が解放されますが、拡張速度などが格段に落ちます》


全て満たしたった3年で最上級スキルを解放、最大級ダンジョンの最深部に落ちて即発動。


《最大級ダンジョンが生じればそこに魔素が流れ、ダンジョンの発生が鈍化します》

《さらにその最深部に『箱庭』所持者が存在し、常時膨大な魔素を消費するため鈍化は最大値に》

《結果として、現在オーナーは最高の活躍をしておられます》


もしかしなくても慰めてくれたのだろうか?淡々としているが、そう考えて笑ってしまう。力なく倒れた状態で、メニュー画面を見直した。


「基礎知識で打ちのめされた……けど、死ぬまでに出来る限り育てる必要があるみたいだし……脱線終わり。指示出して」

《クエストを表示します》


その瞬間、高らかなファンファーレが鳴り響いた。現れた一覧が凄いことになっていて、和泉は笑顔を硬直させたのだった。


三嶋和泉、26歳。その人生でクリア済みクエストは数百に及んでいた。

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