第3話 三嶋和泉0-1

《スキル『箱庭』の発動要請を確認》

《初期起動に必要な動力……確認》


《周囲の敵対存在の有無を確認中……敵対存在なし》

《『箱庭』を展開します》


淡々と音声が響く。それは1分にも満たない出来事だったが、緊張状態の和泉にとっては異様に長い時間だった。そして、気づけば真っ白な空間にいた。


「な…」


《展開完了。初期設定を行います》

《オーナー情報を収集……完了》


《ダンジョン生成に巻き込まれたことを確認》

《ダンジョンへの接続……完了》

《ダンジョンに取り込まれたオーナー『三嶋 和泉』の財産を復元します》


……怒涛の展開だった。よくわからないまま《復元中……復元中……》と、続く音声を聞く。オーナー情報とダンジョンへの接続とやらはほぼ一瞬で終わったようだが、なかなかに長い復元時間だ。それに、驚きが一周回って落ち着いた和泉は、ダンジョンに取り込まれた自分の財産を思い浮かべてさもありなんと頷いた。


なにせ、彼女は自宅にいたのだ。決して小さくない平家のマイホームに、近くには両親そして祖父母が暮らしていた古い家があった。倉庫にも色々なものが備えられていた。

さらに言えば、先祖代々受け継いだ土地に加えて、なんやかんやと集まってしまった周辺一帯の権利。つまり土地の広さだけでも結構なものだった。


「(何より、1/1……私だけ。巻き込まずに済んでよかった)」


ほんの少し前まで一緒にいた人が難を逃れた。5分弱なら、車は山を下りたところだろう。人が住む方向はその程度、後は深い山林の方をどれだけ巻き込まれたかという話だった。


《復元中……敷地面積の復元が完了》

《……復元中……》

《反映します》

《……復元中……》


復元中と言いながらも、できたところから反映していくようだ。再び半透明の画面が現れる。そこにはバーが複数本表示されていた。全体のバーはまだまだだが、今の間にも複数のバーがそれぞれ伸びている。


《反映が完了しました》


来たと思えば同時に思わず肩が跳ねるようなエラー音が響き渡り、画面に警告マークが躍った。


《“!” スキル容量を超過しています》

《現在のスキル容量に合わせて制限がかかります》

《設定を選択してください》


「えっと……?」


画面の注意書きに目を通す。つまり、和泉の持つ土地が広すぎて、現在のスキルでは限界があるらしい。開放するにはスキル容量とやらを増やさねばならない。持っている土地分は無料で開放できるため、限界まで自動拡張して良いか?という問いかけだ。しかし、スキル容量というのは土地以外にも影響する。それが現在土地面積だけで容量一杯の状態らしい。


「えっと、じゃあ、開放は手動で、復元終了後に手動調整……ゲームかな?」


苦笑する。しかし、凄まじい引きであった。ダンジョン生成に単独で巻き込まれるという特大の不運から、ランダム取得の巻き込まれボーナススキルが安全地帯を確保できる未出のレアスキル。

その上、もしこのスキルを付与された者が出先であれば?手持ちがあればマシ、もしかすれば手ぶらの可能性だってあったろう。三嶋和泉の財産と明言しているのだから、家や土地の名義がスキル保持者のものでなかったらどうだったろう。

考えているうちに次々と警告音が鳴り出した。


「うるさっ」

《設定を調節しますか?》

《はい/いいえ》


迷うことなく《はい》である。気づかないのも問題だが、うるさいのも困る。他に何か設定できるものがあるだろうかと目を走らせる。本当にゲームの設定画面のように色々とあったため、とりあえず通知の回数も一度で済むように調整。今の間にも完了した端からエラーになるあれこれを全て手動確認すると全体設定した。


「……んー?物凄く鈍いのは何かな……これが……ん?地球への接続?」

《“♪”地球への接続が遅れている原因は以上です》


新しい画面が出た。ここがダンジョン内部であるため、物理的な隔たりと距離により接続が難しいこと。同時に、地上に流れ出た魔素の量が少ないせいらしい。それに関連して、財産を全復元しようにも地球の物品が『箱庭』にとって未知であるために手間取っているようだ。


「いつまでかかる?」


《“♪”完了の目処が立ちません》

《復元できる財産がスキル容量を大幅に上回っています》

《初期状態で活動を開始することを推奨します》


問いかけた結果、5秒程おいて提案された。復元を同時進行も重くはなるが可能。情報は収集済みなので必要な時に復元でも構わないようだが、未処理問題を山積みするのは推奨しないようだ。接続についても上限解放?とやらに関わるらしい。


「なら、活動をメインに裏で続行」

《設定しました》

《活動を開始します》


そう言った瞬間、無重力空間のようにふわふわしていた体が自然と直立し、足が地面につく感覚がした。とはいえ、空間が真っ白なのは相変わらずで広さの感覚もない。早々に座り込んで、新しく開いたメニュー画面を見る。


《スキルの説明を開始します》


スキル『箱庭』

異空間を作り出し、自由に出入りすることが可能になる。

EP(エネルギーポイント)を収集、消費することで様々な効果を発揮する。

※敵対者に認識されている場合、このスキルを発動することはできない。

スキルを終了した場合、使用した場所に戻る。ただし、敵性存在が半径3m以内に存在する場合外に出ることはできない。


《動力・EPは魔素を吸収変換したエネルギーです》

《EPは重に以下の条件で取得できます》

①時間経過

②ダンジョン内の敵対存在の討伐

③クエストの達成

④素材等からの変換


「安全地帯に『クエスト』内包スキル……勝ったな」


無理をすると動かなくなる体でダンジョンサバイバルは正直確定死だ。①の時間経過については、外の世界に対して箱庭空間で半減。それもスキルを使用した場所が地上かダンジョンの中か等でも変動するらしい。反転サバイバル中の和泉からすればあまり関係がない。量が欲しければできるだけ外で過ごせということだ。スキルの習熟によって得られるEP量が増えるらしい。


名前からして順当だ。気になるのは③の項目。


実は『クエスト』というスキルは世界的に有名である。某国にてダンジョンから初生還した人が持っていたとされるスキルで、その内容はゲームそのもの。条件を達成して報酬を得られるため、武器や防具、食糧や傷薬、果てはスキルまでを手に入れつつ、順当に強くなっていけるという当たりスキルだった。


《基礎知識の欠如を確認》

「うっ……言い方が心に刺さる」


箱庭からの常識欠如判定である。

ダンジョンが発生してから3年を過ぎた。国同士のやりとりが危うい中、とにかく巻き込まれた者の生存率を上げようと多くの国々がダンジョンの情報を公開していた。それでもまだまだ謎は多い。


《基礎知識を確認しますか?》

開示可能基礎知識『スキル』『魔素』『ダンジョン』


「……もちろんにございます……」


欠如していると言われての教えだ。確認しないわけにはいかない。脱線ではなく正当なチュートリアルである。

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