第2話 この世界について少し
災厄の五十年。
ありとあらゆる自然災害が地球全体を立て続けに襲った約五十年の間、人々はただ生き残ることに必死となった。決して避けられない自然の力の前に、一時期七十億人を突破して増え続けていた世界人国は少なくとも三分の一を失ったといわれる。
少なくとも、三分の一。
日本もその例に漏れなかった。主に地震と津波、噴火で大打撃を受け、その関係で様々な問題が起きた。同時期に世界中で問題が起きていて、全て日本のみでなんとかしなければならなくなったのが最も大きな試練だった。
深刻となったのは食料や資源の不足。輸入しようにも他国にも売る余力はなく、そもそも船や飛行機を出す負担が大きく、各国海空のどの港も深刻な状態で機能は停止、時が経つごとに連絡すら途絶えていった。
豊かな時代から、未曾有の資源不足による危機。地震が頻発し火山が噴火する中、それでも人間は生き残った。
環境に適応し、世代を重ねる毎に強く。
「世界はいつだって我々の想像を遥かに凌駕する。想定された災厄が、想定以上に大きく立て続けに起こり続けた。それを乗り越えてきた我々は、さらなる想定外を想像し、どのような困難も乗り越えられるように備えなければなりません」
地震や津波、噴火……そんなものは日本では当たり前だ。どれだけの規模があろうとも、起こるとわかっている災害だ。備え、乗り越えて当然である。さらに想像できないような何か。
明日、巨大隕石が降ってくる。
或いは、地球外生命体が飛来する。
或いは、世界をゾンビが闊歩する。
或いは、ダンジョンが出現する。
「荒唐無稽な作り話、結構です。歴史上では幾らだって、想像を絶するような災害を予言した者、不可能を可能とした者がいる。貴方の想像できることは起こり得るかもしれないもの。夢のあるものも恐ろしいものも、学びとして娯楽としていきましょう」
漸く、少し落ち着いてきた情勢。一人の若い議員がそう言った。彼が後に“預言者”“一級フラグ建築士”“まさかの特大フラグ回収”などと言われることになるなど、誰も予想はしていなかった。発言した本人でさえ、本当にそれが起きるとは思っていなかった。
「……ああ、問題ない。有言実行……更なる災害に備えて常に準備はしてきたさ。お陰様で日本はなんとか回ってる……」
「総理、あと5分で次の会議です」
「……しかし、禿げそうだ。なぜ私はサボテン一つまともに育てられんのだ!っ、サボサボ14世、お前さえ生き残ってくれたなら私は……!田舎に土地を借りて農家さんに私はなるぞ!!」
「お気を確かに。体質なんですから、何世だろうと早晩お亡くなりになられます。回線を」
日本に生まれた最年少総理大臣は、まさかの自分の任期中に迎えた未曾有の世界変革を思いため息を吐いた。その瞬間、鳴り響いた警報に最早考える間も無く傍のスーツケースに抱き着く。
彼の平穏はまだ遠い。
警報が日本中に鳴り響く。
「《ダンジョン地震速報です。ダンジョンの発生に警戒してください。繰り返します》」
大きな揺れは活断層によるものではない。摩訶不思議な空間が出来上がるときに“魔素”が発する振動だ。かつてないほどの大きな揺れの後、とある県で一つの報告が叫ばれた。
「特異点『天秤』の位置情報消失!」
「……!通報確認しました」
ひゅっと画面に向かっていた職員が一人、息を呑んで震える声を上げた。
「特異点『天秤』の自宅周辺、消失。ダンジョンの入り口確認。……階層999」
ダンジョンが発生した。そして、その階層が世界最大とされたものを大きく上回っていた。
「反転中、生存者1/1。……自宅に『天秤』の存在を地震5分前に確認。巻き込まれた一名は『天秤』だと思われます」
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