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日暮れ前には泉水のある広場で
今日は一日、街を見て回ったが、どこも結局同じだな、とフィルは思っていた。ただ、この街はさすがに王都らしく、貴族、つまり金持ちが多い。だが、その分、貧富の差が大きく、取り締まりもきつい。
金持ちはいつまでも金持ちだが、貧乏人はいつまでたっても貧乏だ。パン一つ買えなくて、小さな子どもが怖い思いをしながら走り抜け、やっと一つ手に入れる。逃げきれなければ役人に引き渡され、死ぬより辛い思いをするかもしれない。もし成功しても、盗んだパンを一人で食べられればいいほうだ。
(あの子に、弟や妹はいるのだろうか)
フィルが物思いに
と、フィルのすぐ近く、泉水の縁の
フードのついた黒く
(
フィルが一瞬で値をはじき出す。
(この男、どうやら吟遊詩人だ。商売道具を失くせば明日から食い
「母ちゃんが病気なの」
雑踏の中の少女の声が、不意にフィルの耳に飛び込んだ。
「今日は昨日より少し給金が良かった。お屋敷でメイドをしていたころに食べた桃っていう果物を、もう一度だけでも食べたい、って母ちゃんが。どうにかならない?」
年の頃なら十を少し過ぎたくらいか。母親が病気だなんて手口はよくあるが、どうもそんなわけではなさそうだ。売り子の女が気の毒そうな顔で、薬はまだあるか、と少女に聞いている。顔見知りなのだろう。
「これだけあ……パン……して」
周囲に人が増え、売り子の声は途切れ途切れにしか聞こえなくなった。少女にパンを買って帰れと言っているのだろう。売り子の女が少女の頭を撫でて、慰めている。
あたりが薄暗くなり始め、そろそろ日没か、とフィルが思うころ、マントの男が立ち上がった。おもむろにマントを脱ぐと、サッと裏返し、また羽織る。フードはかぶっていない。
(コイツ……)
男を見て、フィルが唸る。
マントの裏側は朝陽のように燃える赤で、それだけでも目立つのに、真っ直ぐなブロンドを腰まで伸ばしている。フードで見えなかった顔は彫像のように美しい。
(まるで、
と、フィルは思った。
ブロンドの髪は朝日、マントはそれを取り巻く朝焼け。それをイメージして、男はあのマントを着ているのかもしれない。そうだ、裏だか表だか判らないが、濃い青だった。それは夜の空だ、そうフィルは感じた。
行き交う人たちが思わず男に見入っている。
(吟遊詩人で男娼?)
そう思うが、そうではない、ともフィルは思う。
(男娼の
男は竪琴を手にすると、弦を弾き始めた。
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