第6話:お城にて:ディアン視点、マテル視点
城に1通の伝書鳩がやってきた。事務官を通さずに直接に王室へと伝書鳩が来るなど珍しい。ディアンは不審に思いながらも手紙を伝書鳩から受け取ることにした。足首についている巻物状の手紙を取り外すとそのまま伝書鳩が飛んで行ってしまった。
怪しい者からの呪符かもしれないと注意を払いながらその手紙を読む。とんでもない内容が書かれてあった。
ディアン殿下
俺の妹に手を出しやがってどういうことだ?妻がいるにもかかわらず不貞を働くなど王位剥奪どころか死刑だぞ?もし、この話を内密にしてほしければ、今すぐリリアンと別れて、法改正せよ。5日以内に法改正がなされなければ、ハラル辺境全軍を持って王国に進撃する。どうするかはお前次第だ。1週間後、リリアンと共に返事を聞きに行く。よく考えて決断しろ。
ハラル 辺境伯ユケル・ティンガハル
まさか俺たちのことを知っている奴がいるなど考えもしなかった。俺は彼女がいるであろう厨房へと慌てて向かった。
休憩中だったのか彼女はみんなとゆっくりとまかない料理を食べていた。
クソっ、男ばかりに囲まれやがって!!
嫉妬からか無意識で舌打ちしてしまった。その音に反応するかのように料理長のザックは俺を確認するとしぶしぶといったように頭を垂れた。
「これはこれはディアン殿下ご機嫌……」
「挨拶はよい。マテルを借りる」
俺の言葉ににやにやと料理長を笑っている。他の料理人たちも噂を知ってか気味悪い笑顔で俺に笑いかける。
「はいはい。お好きにどうぞ」
「マテル、殿下がお呼びだから休憩していいぞ」
「えっ……?」
かわいらしい素振りで振り向く姿はまさに天使そのもだった。なぜここの者たちは女だと気付かないのだろう。
おかしいと不思議に思いつつマテルを厨房から連れ出し、隠れの庭園へと連れ出した。
「殿下、困ります」
「いや……緊急事態だったからだな。そうだ。これを確認してくれ」
俺はマテルに手紙を見せることにした。
「あーやっと兄さん動いたんだ。なら私任務終了ね」
「はっ? 兄さんだと? どういうことだ?」
「殿下、私もうこの仕事やめますね」
「どうしてだ……あれほど愛し合った仲ではないか」
「私が愛するのは世界でお兄様だけなのですよ? お兄様のためなら何でもするの。ごめんね?」
首を傾げながらのその様子は残酷なことを言われているにもかかわらず可愛いく見えてしまう。マテルはやはり俺にとっては天使である。愛って恐ろしい。
「言っている意味が分からない。しかしだな、俺は法改正をしないとお前とのことが公になり、お前も殺されてしまうんだぞ?」
「はぁ? そもそも私って男の設定なんですけど。バレたとしても殿下が男色家の変態王子だったていう話だけなんで私は何も罪には問われないと思いますけど?」
「いや、リリアンが夫である俺が男と不貞を働いていたということを知ったらお前に何をするかわからないぞ」
「大丈夫ですよ。そのへんはお兄様がしっかりとなされると思うのでご心配には及びません。それに私の未来のお姉さまになるので問題ありませんわ」
「今……何と言った?」
「あーめんどくさいな。しつこい男は嫌い」
プイっと頬を膨らませるその姿まるで小動物のように可愛い。
「悪い……許してくれ。俺を一人にしないでくれ、助けてくれ」
「ならさっさと法を改正してきなさいよ。それができたら……あなたのことは考えてあげるわ」
「そうか。わかった。その言葉信じたからな!! 忘れるなよ」
「はいはい。わかったら働く」
「はいっ」
俺はマテルの言葉を信じて慌てて文官たちの元へ向かったのだった。
※※※ マテル視点
ため息をつき、マテルは愛する兄のことを思い浮かべる。
(お兄ちゃん、上手くやってるかな。お兄ちゃんが失敗とかあり得ないけど。なんか悔しいけどあれだけお兄ちゃんが一途に思っている人を嫌うなんてことしたら、妹の私が嫌われそうだもんね)
それに……妃殿下の振る舞いにも感心していたのだ。城で働くすべての者に対してリリアンは挨拶や気遣いを見せていたのだ。以前料理を部屋へと運んだ時に、貴族らしからぬお礼を述べられたのである。
「いつもご苦労様。美味しい食事を今日もありがとう。あなたたちが作ってくださるお料理のおかげでいつも元気でいられるの。大変だろうけど頑張って頂戴ね。はいっ、これ使って」
「……ありがとうございます」
その渡されたものを見て驚いたものだ。料理後に皿洗いをしている自分のことを知っているからこその贈り物。握らされたものを確認すると手荒れに効くハンドクリームであった。こんなに気の利く女性ならきっとお兄様も幸せに違いない。
ディアンを落とすのは簡単だったが、なぜかすぐに女性だとバレてしまった。バレてしまっては仕方がないと隠すこともやめ、側室のような感覚で抱かれるようになっていた。体を重ねれれば情だって沸いてしまう。ましてや、相性抜群だったから余計である。
しかし、情があるからと言って好きかと聞かれればそれは別である。
体と心は別物である。
心はお兄様のものなのである。
私は今後起きることを考え、退官の手続きをしなければいけないと考え厨房へと戻ることにした。
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