第4話:リリアンの恋心
そんな私の様子になぜか悲しそうな目で見つめるユケル様。
「リリーそんな顔で見つめないでくれよ。このまま君を抱いてしまいそうだ。俺の理性が残っている間に温泉へ行ってきなよ」
「オンセンってなに?」
「あーサク、早く連れて行ってあげてくれ」
そう言っている割には今で手を繋がれているので身動きが取れない。
するとサクがこちらにやってきた。
「わかりましたけどその手をまずは離してくださいね。ですが、ユケル様とリリアン様は昔の知り合いだったんですね」
「そうだよ。昔結婚の約束したのは俺が先なんだよ。だから、これはリリーを取り戻すための計画なんだ」
「チン、どういうこと?」
「まだリリーには秘密。一つだけ確認なんだけど王子のことは好きじゃないよね?」
「……当たり前じゃないの。結婚して夜伽も一度もなかったよ」
「それを聞いて、とても安心したよ。まだサラのままなんだね。初々しいリリーを抱くのは俺の役目なんだから。間に合ってよかった」
「ん?」
「リリーは分からなくていいよ。ほら俺の淹れた紅茶をまず飲んで」
ユケルに促されな立ったまま紅茶を飲むことになっていまった。
「懐かしい……」
「でしょ? あの頃の茶葉がもう廃番になってたから大変だったよ。リリーのためにこの地域で栽培してやっと摘んで紅茶にすることができたんだよ」
「なんか、昔からハチャメチャだったけど今もその性格は健在なのね」
「そうだね。リリーへの愛は昔より深いからリリー困っちゃうかもよ?」
ユケルの正体を知って安心したが、昔のようにこんな風に会話することすら本来は許されない。妃殿下としての今の状況を悔やんだ。
でも私はもう妃殿下ですでに既婚者だからもうどうしようもならない。
この気持ちは押しつぶすしかない。
私は心揺らいでいる。昔大好きだったチンに会って心惹かれてしまっているようだ。こままではまずいと改めてユケル様に告げることにした。
「ユケル様がチンだと言うことはわかりました。しかし、これ以上の侮辱はやめていただきませんか。無礼にもほどがあります」
「リリー? だから、もう無理しなくたっていいんだよ?」
「ユケル様、あなた様の立場をお考え下さい。このことを王子に申し上げてもよろしいのですか? 首がとびますわよ」
「ハハハ。どうぞ。その心配はないよ。そんなに心配なら1週間後にもう一度王国に戻ろう。それでいい?」
「……えぇ?」
有無を言わさない空気がこの場を圧倒しており、私はそれ以上ユケル様を脅すことができなかった。
「リリアン様、オンセンへ行って心も体もリフレッシュしましょう。難しいことはユケル様に任せておけばいいですよ」
サクは私の手を取るとオンセンの場所へと向かった。
ユケルはため息をつき独り言ちた。
「はぁ。リリーはやっぱり昔から我慢強い子だったし、頑固だったからすぐには流されてくれないよなー。もっと周りから攻めつつ準備を整えよう」
ユケルは書類2枚を取り出し1枚は王宛、もう1枚はルワンナ商会宛に手紙を書くことにした。従者にそれらを届けるように指示をした。
※※※
リリアンは連れて来られたところを見て圧倒されていた。地面から水が沸き上がり、そこから湯気が出ているのだ。
「ねぇ、サクこれはなんなの?」
「これは、オンセンといって、地中から湯が湧き出した自然のものだそうですよ」
「だから湯気が出ていたのね。それにしても簡易的な小屋になっているとはいえ、外でお風呂に入るなんて恥ずかしいわよ」
「大丈夫です。今の時間はユケル様が貸しきりにしておりますので」
「そう……せっかくだし、入らせてもらうわね」
ゆっくり温泉に入ることにした。
サクはリリアン様の体を流しながら思う。
(温泉の効能があるとしても、つるつるしてすべすべなお肌だわね。それに痩せていらっしゃると思っていたらお胸は立派だし。私なんて……)
サクは自分の胸を眺めていた。それに気づいたリリアンがサクに笑いかける。
「サク大丈夫よ。私もあなたくらいの年頃の時にはそんなものだったから。ちゃんと食べていたら成長するわ」
「そうなんですか。ありがとうございます。頑張ります」
「それにしてもユケル様本当にリリアン様のことがお好きのようですよ?」
「どうして?」
「だって……これは言ってもいいのかわからないですけど……秘密にしてくれます?」
「えぇ? なんか聞くの怖くなってきたのだけど……」
「じゃあやめときましょう」
「いえ、やっぱり聞くわ。お願い」
「はい。ユケル様の私室があるのですが、そこは侍女たちは誰も入ったことがなく、出入り禁止の部屋なのですけどね。私たまたまユケル様が出てくるときに一瞬お部屋の中を見てしまったのですよ。リリアン様の幼少時から今のお姿までの肖像画を飾ってらっしゃいました。毎年絵師に頼んでいたみたいですよ。だって、10枚はありそうでしたから……リリアン様はユケル様の2つ下20歳ですよね?」
「えぇ、そうよ。チンはいつも私の面倒を見てくれてね。わたし今でこそ1人で生きていけますみたいな感じになったけど、昔は寂しがり屋だったし、すごい甘えただったのよ……」
「え? 意外ですね」
私は昔を懐かしむとともに今がいかに苦しく我慢していたことに気づく。いつの間にか自分の気持ちに蓋をして生きていくうちに、それが本音だと思い込むようになっていたようである。
「もう温かくなったし、出ましょう」
「はい」
2人は温泉から出て着替えようとした。簡易なドレスが準備されていた。
「サク、いつの間に準備したの?」
「いえ……あたいは何も……」
外から声が聞こえる。
「リリー気持ちよかったかい? 疲れたが取れただろ。サクがタオルや着替えを忘れて出たことに気づき、準備しておいたから。それに着替えるといい。きっと気に入るぞ」
「……ありがとうございます」
「では、俺は外で待っているからゆっくり着替えろ。さすがに覗きはしないから安心してくれ」
「はい」
パタパタと足音が遠のいた。
「リリアン様すみません。それにしてもユケル様気付くの早くないです?」
「……そうね」
「どうしたのですか? のぼせましたか? 大丈夫ですか」
「大丈夫よ。ありがとう。着替えましょう」
準備されていたドレスを取り、もう気持ちは爆発しそうだった。
そのドレスは幼少期遊んでいた頃、お気に入りだった海のように青いドレスに真珠がついているかわいい遊び着だったからだ。チンが覚えていてくれたことにも嬉しいが痒い所に手が届くほどの気遣いに蓋をしてきた甘えたい、このまま流されてしまいたいという自分の本当の欲望に忠実になりそうになる。
これ以上はダメ。
ちゃんとしないと。
私は妃殿下なのだからと自身を戒めた。
「リリアン様、すごくお似合いです。それにいつもの大人なドレスよりそんな可愛いドレスの方が良く似合いますね」
「……ありがとう」
「先ほどから元気がありませんが、本当にお体大丈夫ですか」
「大丈夫よ。心配しないで。行きましょう」
温泉から出ると緑豊かな森の方面になぜか木の下に敷布が引かれていた。ユケル様は手を振りながら呼んでいる。
「おーい、リリアンこっちへおいで
「はい」
気持ちを切り替えてその木の下へと行くと再び驚かさせれることばかりだった。
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