街へ
「ほら、着いたぞ」
「ふぁ……」
いけないいけない、あまりに心地よい背中すぎてすっかり寝てしまっていた。
あの後追手らしい追手もなく、僕たちは無事にクラーンの街近くまでやってきていた。彼のお陰で日が暮れるまでに街にたどり着く事ができたのだ。
街の見た目は何というか、それこそゲームにでも出てきそうな見た目で、高い壁に覆われ周囲には堀が掘られていた。道の周囲には馬宿のような建物だったり、露店もでていたりする。並んでいる人達も買い物をしていたり、馬車にのって待っていたりと様々だ。それに入り口は、跳ね橋かな? 壁の長さからして規模はそこまで大きくなさそうだけど、堅牢な作りに見える。昔テレビで見たヨーロッパの町に似ている気もするね。
「さて、街に入るにしても門番がいる。お前は新顔だからな、当然目は付けられる。」
背中から下ろされると、スティーグは僕と向き合ってこう言った。
「ま、俺が何とかするから、お前はおとなしくしてりゃ大丈夫だ」
こくこくと頷いてから街の方へ目をやると、入る人の列が動いていくのが見てとれた。それこそ冒険者っぽい見た目の人だったり色々な人が混ざり合っているようだ。そしてその列の先には、彼が言う鎧をきた門番らしき人が並んでいる人に話しかけていた。
「街に入っちまえばこっちのもんよ。後はーー見た目だけどうにかしとけば見つかんねぇだろ」
そうこうしているうちに、少しづつ列が進む。うー、でもやっぱりちょっと不安だな。もし見咎められて僕だけ追い出されるならいいけど、万が一スティーグに迷惑がかかったら嫌だなぁ……
「安心しろ、こういうのはやり方ってのがあんだ」
不安そうな僕を察したのか、そう言いながらスティーグが僕の頭を雑に撫でる。雑に。女の子の頭はもっと優しく丁寧に撫でた方がいいと思うんだけどな、僕は。
「おっ、ちょっとは生意気なツラができるようになってきたじゃねぇか。子供はそんくらいでいいんだよ」
今度は更に雑に頭をボスボスと叩く。雑に。もう、ちょっと、丁寧、に! そんな気持ちを込めて彼の手を両手で掴んで防御するも力の差は歴然、惨敗だった。
「へっ、そうやって子供らしく振る舞ってろ。ほれ、もうすぐ俺らの番だ」
戯れている間に列が進み、門番がこちらに近寄ってくる。きっとスティーグなら何かスマートな方法で切り抜けるんだろう。だけども、なんだかちょっと圧迫感を感じて、子供っぽいかなと思いつつもスティーグの後ろに隠れる。
「んん? スティーグか。こないだぶりじゃねぇか。んで、今日は何しにクラーンへ?」
「よう、ヨルゲン。色々だよ色々。いつも通り仕事と、ちょっとこいつをな」
そう言って僕の頭を引っ掴みぐりぐり撫で回すスティーグ。だから雑! 三度目だよ? これ!
「そいつがーーどうかしたのか?」
門番のヨルゲンの目が少し厳しくなる。それはさっきまでの知り合いに会った目じゃなくて、仕事をする人の目だ。
「俺の妹の、娘でメルタって名なんだがな。シェール村っていえばわかるか?」
まさかの咄嗟の名付け? でもメルタ、メルタかぁ。良い名前だと思う。ちょっとだけ生前の世界のポケットなモンスターを思い出すけど…… 関係ないはずたし
「……シェール村の事は聞いている。殆ど死ぬか離散だと聞いたが」
「そーなんだよ。俺の妹もその旦那もそこでやられてな、こいつだけなんとかなったってわけよ」
「お前にーー妹がいただなんて話は聞いたことがないんだが?」
「
スティーグの左手が腰袋から何かを掴み、ヨルゲンの手に握り込ませる。何とかするってまさかの袖の下!? でもこういう人ってそういうの通用しなさそうに思うんだけど。それに、お金を使わせたってなるとまた申し訳ないなぁ……
「ただの、子供だな?」
確かめるようにヨルゲンがスティーグに問いかける。
「ただの子供さ。それともなんかやらかすように見えるか?」
大丈夫、かな。何かダメなことはやらないように気を付けるし、どうにか通してくれるといいんだけど……
「ふん、お前が此処までするなら構わん、俺からの信用状って事で通してやる入れ。だが問題だけは絶対に起こすなよ」
じろりと僕を睨みつけつつも、彼は道を開けてくれた。賄賂の効果は抜群だったのだろうか。
「ああ、あとーー」
そして通り抜けようとしたスティーグの肩を掴んでそのまま何かをスティーグに手渡す。
「これは俺じゃなくてその子に使うんだな。その見た目じゃお前がろくでなしの人買いだ」
「はっ、ちげえねぇ」
二人とも仲が良いんだろう。お互いに肩を叩き合って笑っている。やー、男の友情っていいね! 二人ともカッコいいことしちゃって! 門を潜って壁を抜ける。そこに広がっていたのは、まさにザ・ファンタジーな街並みだった。石畳の道と石造りに三角屋根の家。おまけに行きかう人々、ところどころに露店が出ているのも見て取れる。こうして改めてみると、異世界にきたんだなぁって思う。
「ほれ、何ぼーっとしてんだ。行くぞ」
あたりを物珍し気に眺めていた僕の背中が軽く叩かれ、声を掛けられる。そして僕は再びスティーグの手を取った。
まぁともかく、こうして僕たちは無事クラーンの街へ入る事ができたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます