メッセージ

暗井 明之晋

メッセージ

 私のところに来る相談は様々なものがある。

 DV、鬱や精神疾患、いじめや虐待などが顕著な例。意外なものだと恋愛に、人によってはオカルトや心霊なんかもある。相談の内容も様々だが、相談内容の状況も様々だ。現在進行形のものや、過去に前述の様なことが起きそれがトラウマとなってる場合などだ。一応ファイリングはしているが、大きくまとめることが難しいことが多い。

 個人的には、頼って来ていただいてる。と思うとどうにかしてあげたくなることもある。

 もちろん、私が解決のために動くこともあるのだが、今回の話、正直に言ったところ。

"関わることなく終わって良かった"

と心底思った話である。

 

 昼と夜の寒暖差が少しずつ近くなり、枝の先に桜の花が散りばめられる春先のこと。

 その日、私は仕事のないオフの日だった。

 なんならその日だけでなく、次の日もその次の日も何も予定がなく、ただただ1日を無駄に過ごしていた。

 日中布団に入りながら

「夕飯は何か外で食べたいなぁ。」

なんて思っていたら、いつのまにか眠りについていた。

 どれぐらい経っただろう。私は体をムクリと起こしスマートホンを持ち上げる。

 時間は午後の8:30を過ぎたくらいだった。布団を退けて立上がり、シャワーを浴びに一階へ。

 家族は仕事か、誰もおらず私1人だ。

 寝る前のことを覚えていたのか、シャワーから上がり、私は外出着に着替え近くの24時間やってるラーメン屋に向かった。

 ラーメン屋に入ると客はおらず、ここでも私1人だった。

「いらっしゃい。」

いや2人だった。

 食券を買い、平日の夜だから人もまぁ来ないだろうといったところで、私は4人掛けのテーブル席に座った。

 注文をし終え、スマートホンを取り出しては色々検索してみる。

 店内では流行りのだろうか。曲がひっきりなしにかかっている。

 しばらくするとラーメンよりも先に別の客が来た。

 客の風体は、いかにもなヤンキー達3人組。彼らは何かを話しながら券を買い、私の横を通った。

 しかしそのうちの1人がピタリと止まり、こっちを見ながらこう言った。

「あ、黒澤さんですよね。カウンセラーの。」

すると後の2人もこっちを見て

「え、誰?」

「カウンセラー?」

と首を傾げる。最初の1人は

「知らないのか?お前の悩み解決できる人だよ。お願いしますこいつの話聞いてやってくださいよ。ホラお前も。」

と言葉を繋いでいる。お前と呼ばれた奴は怪訝な顔をし、いやいやと言いながらも頭を下げている。

 いつのまにか彼ら3人は私の卓に座っていた。まぁ仕事ならと思って私は話を聞くことにしてみた。

 (顔や格好はイマイチ覚えてないためA話しかけて来た男、B相談人、C付き添い人としておく。)

 

「どこから話せばいいのか。そもそも話していいんだよな?」

Aの方に向いたBはしつこく尋ねている。

「だから、色々扱ってる人だから。」

とか

「少しは信用しろよ。」

とAは一点張りだ。

 正直な話、私はもうここで帰りたかった。そもそも失礼極まりない。自ら私の前に座って食事の妨害をしているのにも関わらずそれに詫びることもなく。そこにきて、私を信用できないとあれば私が話を聞く理由など1つもなかった。

 そんな私が飽き飽きとしていると、遂にBが動いた。

「じゃあ、これ見てください。」

彼はそう言ってスマートホンを見せて来た。

 スマートホンに映っていたのはSNSの画面だった。

 内容としては、彼女から来たメッセージといったところだろう。

"今日はデート楽しかったね。

 〇〇動物園には久々だったから、結構動物が入れ替わっていて楽しかったよ。

 その後に行った(某ファミレス)であなたが頼んだメニューの方が私のやつよりも美味しそうだったから一口貰っちゃった。ごめんね。

 でもそのせいで口の中火傷しちゃった。"

とまぁ、ある日のメッセージを見るも、かなり事細かくその日の内容を書いて送って来ている。それだけだ。

 日付けは1ヶ月前から始まっており。1週間に3〜4回ほどメッセージは来ているようで、本当にどのメッセージの内容も細かく。また可愛く絵文字のようなものが使われていた。

 下にスクロールし、日付けを今日に近づけていく。

 特に変わった様子はない感じがしていたが、何か引っかかる。

 そんな中、1つのメッセージが目を引いた。

" 今日もお仕事おつかれさま。

 あなたのミスじゃないのに、あの上司。あんなに怒るなんてどうかしてるわよね。"

と書いてあり、どうやら仕事場が同じようだ。何か痴情のもつれだろうか。となると面倒だなと考えながら眺めていく。

 その先も今日の夕飯は作っておいたとか。郵便物が溜まってたことを示唆する言葉が書かれていた。

 ある程度見たところで、私はBにスマートホンを向けて

「特に変な感じはないと思いますけど。」

と聞いてみた。すると彼は

「動画は見ましたか?ここ最近は動画でメッセージが来るんですよ。」

と突き返してきた。

 そう言われながら、また私はメッセージを確認することにした。これ以上他人の幸せの記録を見るのは精神的に参りそうだが、仕事と言い聞かせなんとか探る。

 3回くらいサッサっとスクロールすると動画が出て来た。

 動画の内容としては、今日あったことを彼女が報告する。といったことを動画でしてるだけで。中身としては、やれどこへ行った。何を食べた。何を買った。あなたの今日の服装は。とか、彼の仕事振りをただただ話しているだけだった。

 動画を見終わり、彼に改めてスマートホンを返す。

「申し訳ないけど、どういった悩みなのだろうか。メッセージを見ても変わったところは無いんだけども。」

そう言うとBは

「そうですか。」

とたった一言放ち、深く大きくため息をついた。

 私は何が不満なのだろうかと少し憤りを感じ

「何か言いたいことがあるならば言ってもらいたい。ただなんの説明もなく。急に彼女との睦まじいメッセージを見せられる私の事も考えてくれないか。」

と説教を垂れてみた。すると

「違うんです。」

彼はこっちをまっすぐ見ながらそう答える

「何が違うんだい。説明の1つも」

そう言いかけると彼は

「じゃなくて、その女。彼女じゃないんです。」

私は呆気に取られた。

 "彼女じゃ無い"

 今までの記録を見ている私にとって、その言葉はあまりにも深い恐怖を生み出した。

 するとBは最後の動画をタップし私に見せて来ながら言った。

「こいつは、僕の彼女でもなければ、妹や友達でもありません。いつどこで会ったのかすらも分かりません。」

動画の中では女が喋っている。

「職場だってもちろん違います。友達と出かけたりしてもその日の夜中に、どこに行ったね。とか着いて行ってるよ。見てるよっていうような内容が来るんです。」

相変わらず女はその日の出来事を話している。先程の微笑ましさはどこへやら、狂気に満ちている。

「家に帰れば、知らない食べ物がコンロの上や、冷蔵庫の中に入っていたり。冷蔵庫の中の飲んでた物や、部屋の私物がなくなったりもします。」

淡々と語ってはいるが、彼の手は震えている。

「ある日から急にメッセージから動画になったんです。最初は特に気にもしませんでした。何より怖かったんです。でもこの動画の2つ前に意を決して見たんです。そしたら」

改めて見ると動画の違和感に気づいた。

「ここって。」

私が口を開こうとすると。Bは私の言葉を紡いだ

「そうなんです。ここ僕の部屋だったんです。」

私はまたもや言葉を失ってしまった。

 というより、言葉を発するのが怖かった。次私の発言が、失言になりそうで話すのが本当に怖くなった。

 動画が終わるとBは私に画面を見せて来た。

「それで、ここからが相談なんですけどよく見てもらっていいですか?奥なんですけど。」

私は目を細めながら、言われた通りに奥を凝視する。

「あっ」

気づいた私は、言葉が見つからず困ったふりをした。しかし、内心は恐怖でいっぱいだった。

 彼に言われて見た画面の奥には男性が布団に入っていた。

 そうその男性はB。彼だった。

「そうなんですよ。俺が寝てる間に入ってきてるみたいで、このままこの部屋に住んでいいのかどうかって相談なんですよ。Aは引越せって言うし。Cはまぁ大丈夫じゃない?って。どう」

 話を聞き終わる前に私はフラフラと席を立ち、その場から去ってしまった。

 そもそも、そんなこと相談しなくともわかるだろうと思うのだが。

 後ろからは彼らの呼び止める声が聞こえてきたが、私は構わず店を出た。

 車に乗り私は夕食のラーメンを食べることなくその日は家に帰り、またシャワーを浴びて床についた。

 思えば、あの女のメッセージに彼は一言も反応をしていなかった。その時点で察するべきだったし分かっていればまた変わった心持ちだったと1人布団の中で反省会をした。

 その日は家の中が私1人だったせいか、物音に過敏になりながらも、私はいつのまにか寝息をたてていた。


 しばらくたってからもそこのラーメン屋に何度か行ってはいるが、彼らとはそれから1人たりとも会っていない。

 もちろんそこに行けば会えることは必ずでは無いにしろ、地元の奴らだからすれ違うくらいはと思っていたが、本当に見ない。

 まぁ引っ越したなら、それはそれで最善策を取ったのだろうと思い、私はもうそれ以上考えるのをやめた。

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