第32話 ラピッドソルジャー
「ラピッドソルジャー?」
「はい。二層のいわゆるユニークモンスターですね」
「ユニークモンスター……」
「滅多に出ないレアな魔物ってこと。しかも二層のあいつらはもう超激レアね!」
「何せ奴らが身につけてる武器はミスリル製なのだよ。それだけじゃない。ラピソル自身の毛皮も全て大金になるのだ。覚えておくように、クラミチくん」
とにかくウマい相手が出てきたらしい。というか名前略すこと割とあるんだな。
あと喋り方は当然としてその呼び方はあの真堂を思い出すからやめてくれ。
「じゃあ早速──」
「待って。あいつらは雑魚じゃない。攻撃力は他の魔物と一線を画すレベルなの」
「そうです。それに一度冒険者と対峙すると戦闘が始まって三分で逃げてしまうんです」
攻撃力も高く逃げ足も早いとは、もはやボスなんじゃないだろうか?
目の前でちょこちょこと動いている様子を見るとただの兎にしか見えないが。
三分で逃げるというのはゲームでいう経験値率の高い敵のそれに比べれば良心的に見える、でも実際カップ麺を待っている時の三分なんてのはあってないようなもんだ。
「トウヤ、やれるか?」
さっきのグレムリンの手応えといい、ここの魔物も凡そ手こずるレベルではない気がする。いくら稀少な魔物でもペレッタや俺を負かすことはない、と思う。
何せペレッタが力を隠しているとはいえ三人は一度逃げ切れている。四人になった今臆す理由はどこにもない。
「うん、やってみる」
兎たちがこちらに気づいていないというのも大きい。話を聞くとおそらく防御面はさして耐性がない。そうなれば一撃を確実に与えられるこの状況というのは最高のチャンスだろう。
悪いが一撃で仕留めさせてもらう。
そうして俺はいつも使っている火球──よりも少しレベルの高い
「いけ!」
(……あ)
さっきグレムリンを倒したときと同様、魔力のコントロールがうまくいかず想像以上の大玉転がし並の炎球が二つ放たれた。
「ごめん、ちょっとやりすぎた」
魔法のレベルが高いのは悪いことでは当然ないのだが、小さいうさぎさんたちに当てるような代物には見えない。
しかし。
「……え」
俺の放った魔法は軽々と避けられ追尾することなく壁に吸い込まれた。
それだけではない。
敵はこちらに気づいた途端、その場から消えるように右、左へと高速に移動し始めた。
「くそ! トウヤでも駄目か」
「始まった! 気を引き締めるわよ!」
ラピッドソルジャーは各々がステップを踏むように前後左右に超高速で移動している。距離にしてもまばらで、五メートル近い所へも軽々と行き来していた。
正直肉眼だけでは追いつけないほどの早さだ。
三人が苦戦したというのも頷ける。
「
ペレッタがロケットのような速さで一体の敵に向かう。
「やっぱりあいつ強くなってるじゃねえか! まさか隠してたのか!?」
「フィンくんも行くんですよ!!」
「……あ、あぁそうだな」
シュナに言われ、フィンはもう片方の敵に向かって走っていく。
しかし二人とも相手に追いつくのがやっとで、傷一つすらつけられていない。
「どうしますか? トウヤさん」
「そうだな……」
はっきり言ってよろしくない状況だ。敵側によってフィールドが支配されている。
攻撃が当てられればまだ救いがあるが、追いつけなければ埒が明かない。それは遠距離の俺たちだってそう。現に追尾性能付きの炎球でさえも避けられていた。触れる直前に避けたということもあり追尾型というのもわかっていたのだろうか。
それから、やつらが軽々と高速移動しているのに比べ、フィンとペレッタのスピードが徐々に落ち始めている。疲れはその分隙も増えることになる。
「フィン! ペレッタと共闘して一体を挟め!」
「おいトウヤ! 俺のこと舐めてんのか?」
「舐めてない! そっちの方が俺たちも戦えるしお前も力発揮できるだろ!」
まあ舐めてますが。こう言えばおそらくフィンは動いてくれる。
客観的にフィンの力では今の相手に適いそうにない。それでもパーティーとして動けば十分な戦力だ。それに二人の動きがわかれば遠距離班の俺たちも躊躇せずに魔法をたたき込める。
「仕方ねえな。そう言うなら──」
そうしてフィンは追いかけることを止め、もう片方へ走り出そうと背を向けた。
「危ない!」
ずっと追われていた兎はフィンの大きな隙を見逃さず持っていた剣で斬りかかった。
幸い、奇襲を予測していたフィンはすぐに振り返り盾で攻撃を弾こうとするが、重さに耐えきれなかったのか右肩に攻撃を受けてしまっていた。
「フィンくんっ!!」
「
追い打ちをかけられないよう即座に魔法を放つ。
こちらにも敵がいるとわかり兎は再び逃げるように場を高速で移動し始める。
フィンは肩を痛そうに抑えているが、おそらくそこまで重症ではない。
「シュナ、フィンの回復、あとできれば二人のサポートを頼む」
「は、はい。……でもトウヤさんは──」
「俺は一人でも大丈夫だからさ。だから、よろしく」
「わかりました。気をつけてくださいね」
納得してシュナが離れていく。
彼女も不安だろうに、こちらを心配して小さく微笑みかけ手を振ってくれた。
白瀬さんと同じくシュナは優しい女の子だ。
今はお世辞でも勘違いでもいい。
普段から優しさに慣れていない人間はそんな事でも自然と力が漲ってくる。
「よし。頑張るしかないな」
未だに攻略方法は掴めないが、俺と三人で別れた方が慣れの問題もあって戦いやすいはず。さっきまではフィンとペレッタで一体を囲み、俺とシュナで同じように挟んで倒す戦法だったが、こうなっては仕方ない。
残り時間も大体半分は超えている。ここまできて逃げられたくはない。
今だって俺の攻撃を当てられないようにラピソルは高速で移動している。
しかし妙だ。
三人の相手をしている兎は止まって、攻撃が来そうなときだけ逃げているのに引き換え、こっちは常に逃げている。
俺の攻撃を恐れているのか?
今まで最弱のレッテルを貼られながら現実も異世界も生きてきたから中々そんな発言は口にし難いが、もしそうなら俺の今の攻撃魔法さえ当てられれば倒せるかもしれない。ただ当てようにも俺自身が追い付けていない。
どうしようにも……。
いや、そうか。俺は何で攻撃ばかりに固執している。
大抵のことは想像すれば発動できるというのが想像発動であり魔法だ。
さっきペレッタも似たようなことをしていた。だから出来ないことはないはず。
そうして俺は自身の眼に魔力を注ぎ込む。
「ペレッタ的に言うと、こうかな。
(おおおおおお! すげええ!)
さっきまで瞬間移動していたように見えていたラピソルの動きが手に取るようにわかる。それに追いつけるだけじゃなく、明らかに視力も上がっている。
これなら──いける。
「フレイムボ──」
しかし、魔法を放とうとした瞬間、突如視界がぐにゃりと歪んだ。
(なんだ……今の……?)
眼に魔力を送りすぎたのだろうか。
確かに急に視界が広がり過ぎたせいで若干気持ち悪くなっている所がある。身体も消費が激しいのか熱くなっている気もする。
元々は普通の人間だ。違和感があるのは当然だろう。
それに、この魔法を解除すればまた同じように発動してくれるかは分からない。
今、確実に決めるべきだ。
「いけ!
俺が飛ばした火属性魔法は高速で移動していた兎を飲み込み、そして呆気なく倒れた。
「ほんとに攻撃と素早さが取柄なんだな……」
なんだか肩透かし感が否めないが、無事に一体倒せたのは大きい。
身体強化魔法も最初のうちは色々な問題が生じるだろうが、それも練度の問題だろう。慣れて体内の魔力量も増えていけばきっと大丈夫。
「刀也! こっちもお願い!」
向こうを見ると三人と一匹で鬼ごっこならぬ兎ごっこをしていた。
(何やってんだあいつら……)
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