第15話 冒険者ギルド

 中には予想通りの光景が広がっていた。

 鎧のような防具を着ているものが大半である。

 全体的に大人が多い印象で、残念ながら男ばかりだ。

 少々騒がしいくらいであまり危なっかしい雰囲気ではないのがまだよかった。

 受付らしき所まで行くと荒野に咲く一輪の花のように綺麗な受付嬢がいた。


「ようこそ冒険者ギルドへ! 何かお困りでしょうか?」


「こちらで、魔法適性が分かるかもしれないと聞いて来たのですが……」


「あぁ! 魔法適性ですね。わかりますよ~」


「では――」


「その前に冒険者証はお持ちですか?」


「え。いや、持ってないです」


「申し訳ありません。魔法適性をこちらで調べるには、冒険者として活動する為の証明書――冒険者証が必要になってまして……。どうされますか?」


 冒険者証……そういうものがあるのか。

 何かクエストとか受けたりするのにもきっと必要なんだろう。

 フェルロッドの街へ来たのは生活費を稼ぐためでもある。

 冒険者証なるものを手に入れることは必須だ。


「その冒険者証ってどうすれば――」


「こちらで発行できますのでご安心ください! ではお二人様のご登録でよろしいですか?」


「お、お願いします」


 発行に必要な情報を伝えると奥から二つのカードらしきものを取り出した。


「こちらが冒険者証になります」


 普通のカード型なんだな。異世界だからもっと別の何かかと思ったが。


「ちなみに紛失されても問題ありません。お二人の顔は覚えましたから。私がいる限り、ですけどねっ」


 片目ウインクを飛ばしてきたぞ。

 丁寧で気も利いて愛想もよくてその上ドキドキさせてくれるなんて最高の店員だな。

 白瀬さんがジト目でこちらを見てくるが気にしない。


「私の名前はネリアです。基本毎日いますので仲良くしてくださいね……?」


 ネリアさんとりあえず俺の手を取って上目遣いで言うのやめてもらっていいですか。

 隣の子が勘違いしちゃうので。

 一人の時はウェルカムですけど。


「冒険者証を持っていればどこにいてもギルドが出している依頼を受けることができます。お二人は冒険者としても活動されるご予定ですか?」


「まぁそうですね」


「かしこまりました。では――」


 そう言うとネリアさんは両手をこちらに向けたまま小さな魔法陣を発動させた。

 俺たちが手に持っていたカードの右下に【ランク:F】という文字が刻まれる。


「これは?」


「そちらは冒険者階級になります。冒険者になりたての方は皆様ランクFからになります」


「ランク……」


「ランクが高いとその分たくさんの依頼を受けることができるんです。ランクはギルドの依頼をこなすことで上がります。周りからの評価でも上がりますがそこは曖昧なので基本は依頼でランクが上がると思っていただければ大丈夫です」


 誰でも難しい依頼は受けられないってことか。

 恐らくレベルが高い依頼ほど報酬も大きいのだろう。

 まるでゲームのような世界だがこれはモチベーションが上がりそうだな。


「ランクって最大いくつまであるんですか!?」


 白瀬さんが前のめりになっている。

 やる気満々だな。結構結構。


「最大はAランクとなりますね。A・B・C・D・E・Fと全部で六つの階級に分かれております」


 そんなにあるのか。先はまだまだ長そうだ。

 でもAランクか、どれほど強いのか気になるな。


「実は最近この街にも――」


 そう言うと、後ろで屯していた冒険者たちの騒がしい声が突然静まり返った。

 彼らの視線の先にあるものは今しがたギルドの扉を開けた女性だった。

 彼女はゆっくりと隣の受付嬢の所まで来て話をしている。

 見ている限り特に目立つほどのものは感じない。

 黒色のワンピースというこの場では浮きそうな格好をしているくらいか。

 黒い長髪で身長は160cmほど、儚さのある見た目だからギルドのアイドル的な感じで注目されてるのだろうか。


「来ましたね」


「え?」


「彼女はAランクの冒険者です」


 この子が冒険者で、しかもAランク!?

 人は見かけによらないものだな。

 まあ魔法がある世界だ。見た目以上に強くても驚きはしない。


「最近このフェルロッドの街にやって来たみたいですが、正直Aランクの方が受けるような依頼はほぼないんですよね~……」


 ネリアさんは隣に聞こえないようにぼそっと呟く。

 Aランクとなると街一つの依頼では不十分なのか。だとしたら相当強い気がするが。

 というかタリバンさんも言っていたがフェルロッドは冒険者の中では初心者向きなのかね。


「そんなに強いんですね」


「はい。彼女は恐らく加護持ちですから」


「加護?」


「世界でもまだ数十種しか確認されていないという加護。何の加護かは知りませんが、大鎌だけで戦う姿はそうとしか考えられないです」


 魔法だけじゃなく加護もこの世界にはあるんだな、

 聞いている感じ加護を持っているだけで相当強いんだろう。

 にしても大鎌って……。

 今着ている服的にもまるで――。


「死神――そう一部では言われたり。あの見た目ということもあって襲った者は数知れず……。けれど皆、彼女の前で一瞬で……っていうのは冗談ですっ」


「そういうのいいんで」


「倉道さんも彼女に心を刈り取られないでくださいね?」


「はい?」


 どうしてそうなる。


「倉道くんは間に合ってますので!」


 いやどうしてそうなる。

 間に合ってるってなんですか白瀬さん。

 勢いよく言った割に一瞬こっちを見てそっぽ向いて恥じらうのやめてね……。可愛いけど。

 案の定ネリアさんの顔がにやついている。


「そ、その! 加護っていうのはいつの間にか与えられたりするものなんですか?」


「詳しいことは私にも。持っている方にしかどんなものか分からないようで。……ただ、加護は血の滲むような努力の末獲得された方が多いと聞きます」


「生まれつきの才能とかじゃないんですね」


「加護は魔法と違って本人次第な所があるようです」


「……魔法と……違う」


 加護は未だ未知数だ。ただ努力次第でどうにでもなる可能性がある。

 その上世界で数十種類しか確認されていない強力な能力。

 魔法がうまく発動しない俺にならもしかしたら……。


「持っている本人ならどういうものか分かるって言いましたよね?」


「え? そうですね。何もかも知ってるかは分かりませんがある程度は――」


 俺は注目されていた彼女に歩み寄った。

 それを見ていたのか後ろの冒険者たちがざわつき始める。

 世界でほんの僅かしか見つけられていないものだ。

 俺にどうにかできるものではないかもしれない。

 でも少しでも可能性があるなら、力を際限なく求めるのなら手を伸ばすべきだ。


「あ、あの!」


「…………何?」


「突然話しかけてすみません! 一つお聞きしたいことがあって」


「何?」


「――加護について教えてもらえないでしょうかっ!!」


 いやいや唐突にもほどがある。

 Aランクとか死神ということを聞いてしまったせいで身体が強ばってしまった。

 いくらなんでもそんな聞き方じゃ断られるに――。


「いいよ」


「え?」


 そんなあっさり? 本当にいいのか?

 たぶん食っていけそうなほど貴重な情報だと思うんだけど……。


「ただし、私に勝てたらね」


 そうきたか。

 まだ交換条件があるだけマシだ。少なくとも拒否されるよりは。

 ただ戦闘となると話は別。

 一つの街の依頼でも物足りないAランク冒険者にこの俺が――。


「――私も参加していいですか?」


 それは白瀬さんの声だった。


「別にいいよ。君たちのどちらかが勝てたら……」


 白瀬さんと二人、か。

 俺だけならまだしも転移者の中で最強の彼女となら。


「私――レヴ・フォーリアの加護について教えてあげる」


 レヴと名乗る少女は不敵な笑みを浮かべた。

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