第4話 ボクのヒーロー
小学四年生だった私――
当時、私は引っ込み思案な性格で極度の人見知り。
みんなの前で自己紹介をするにも名前すらまともに言えずに黒板で書いたくらいだ。
ただ一点、顔が良いというだけで人は寄ってくる。
転校初日も男女問わず多くの人が席に集まってきた。
私は知っている。
最初はみんなこちらに関心を持ってくれる。
私自身苦手なだけで人に興味を持ってもらえるのは嬉しかった。
でも最後はいつもひとりぼっち。
とある日にクラスの中心格の男の子に声をかけられた。
内容は愛の告白だ。
私はそれを受け入れることにした。
……もうあの時のようになりたくなかったから。
―—しかし私はすぐに孤独になった。
告白された日の放課後女子グループに呼び出されると一人の女子が私に向かって言ってきた。
「あなた人の彼氏取るなんて最低ね!」
告白してきた男の子は既にお付き合いしている女の子がいたのだ。
女の子はグループに守られながら泣いていた。
その結果、私は人の恋人を奪う悪女として瞬く間に噂が広がった。
告白してきた男の子も言い逃れたい為か私を遠ざけていた。
前の学校では告白を受けなかったら調子に乗っていると言われ孤立した。
親も当時はものを言えなかった性格のせいかまともに相手をされなかった。
一人で泣き続けた。
私は一生孤独に生きて孤独に死んでしまう。
運命を呪うことしか自分に出来ることはなかった。
そんな時に彼が現れた。
「お前めっちゃ絵上手いな」
それが倉道くんの第一声だった。
周りではヒソヒソ笑い声がした。
私は彼のことを知っている。
いつも一人で過ごして何かをずっと書き続けている怪しい人。
きっと周りの子たちはひとりぼっち同士が喋っているところを見て笑っているのだろう。
「なあ。どうやったらそんな上手く描けるんだ?」
彼は何も気にしない素振りで私に話しかけてくる。
悪い気はしなかった。
でもどうして彼は私に話しかけたのだろう。
私と関わったら不幸になる。いじめられる。
私のせいで無邪気な彼をそんな目に合わせたくなかった。
「わ、私には……話しかけちゃだめ」
「なんで?」
「……うくから」
「うく? なんだそれ」
彼はまるで何も理解していないようだった。
「あー……お前そんな周りのこと気にしてるの? もったいなくね。もっと有意義なことに時間使おうぜ」
違う。彼は理解しそれを何ともないと思っているのだ。
かっこいいと思った。
今までそんな人は見たことがなかったから。
みんなが周りの目を気にして生きていると思っていたから。
こんな人になりたい。
その日からボクは彼と一緒に遊ぶようになった。
「ユウキー! 昨日の魔法少女のアニメ見たか?」
「へへっ。じゃーん」
「お、おまっ! それ魔法少女リネアじゃん!」
「ボクに書かれば一晩だよっ」
刀也くんと知り合ってから色々な遊びをした。
でも彼も普通の人だった。
同じように周りを気にして、ボクと同じくらい怖がっている。
それでもボクと友達になりたかったみたいで。
ただそれだけが理由で声をかけてくれたらしい。
いつしか彼の前では人見知りをしなくなっていた。
学校以外にもたくさんの楽しいこと、居場所があることも知った。
学校だけが全てじゃない。
その事が知れただけで救われた気がした。
しかし、平和な日々はそう長くは続かなかった。
仲良く話していたからか刀也くんとボクのグループにちょくちょく話しかける人が増えたのだ。
そんな私たちを恨ましく思ったのだろう。
前から目をつけられていた女子グループに声をかけられた。
昼休みの誰もいない、刀也くんが離れている時を狙って。
「白瀬さん、またそんなくだらない絵描いてるの?」
「き、君に関係ない」
「へぇ〜そういう態度なんだ。彼氏を奪った悪女のくせに」
「……」
「正直目障りなの。いつも気持ち悪い話で盛り上がったりして。あの男がいるからって男の子からの人気があるとか思わないでほしいんだけど。 それに倉道くんもあなたのこと見た目でしか見てないしねきっと」
「――刀也くんはそんな人じゃない」
「名前で呼ぶ関係なの? きもーい……って何これ似顔絵だって」
「返せ!」
ボクと刀也くんがお互いの顔を見て描いた似顔絵が描かれたノート。
それだけは誰にも触れられたくなかった。
しかし勢いで取り返したと思った私の手には血がついていた。
「いった! ……え……何、これ……。ぃゃ……!いやぁああああああ」
彼女の手の甲には私の爪で引っ掻いた後の傷と血が滲んでいた。
「ご、ごめ……なさ…………ごめ」
そこまでするつもりはなかった私は放心していた。
すると隣にいた女子グループの一人が取り返したノートを奪う。
「これのせいで。由美ちゃんが……! 許せない」
その子は似顔絵が描かれたページを破り、破り、破って、似顔絵は原型をとどめることなく床に散り散りに捨てられた。
「この……このっ……この―—このッ!」
他にもアニメで見た刀也くんが好きなキャラのイラストが描いたページ、私が教えながら刀也くんが練習で描き続けて上達しているページ、絵しりとりをしていたページなど私と刀也くんの思い出が全部引き裂かれていく。
ただそれを見ていることしかできなかった。
「ぅ……うそ……やめ―—やめて……」
嫌だ。
やめて。
どうしてそんなことをするの。
―—助けて誰か。
―—助けて刀也くん。
「やめろ」
「うるさいっ!」
「やめろって言ってるのが聞こえないのか?」
「……ひ……」
「今この場で殴られたくなかったら担任を呼べ」
「なんでそんな―—」
「本気だからな?」
女子グループたちは恐ろしいものを見たような目で逃げていった。
「……ひっぐ……う……うぅ。刀也くんごめんわた―—」
「怪我がなくてよかった」
「……で、でも…………女の子……けが……さし、、さしちゃった……」
「後で一緒に謝ろ。 大丈夫――俺がついてるから」
彼はずっと何かに怖がっていて一人で怯えて生きている。
まるで私みたい。
でも大事な人は―—私のことだけはずっと大切にしてくれた。
何がなんでも守ってくれた。
笑顔にしてくれた。
すごくかっこよかった。
倉道刀也くんはボクのヒーローだった。
その日あった出来事から私がいじめにあっていると知った教師と相手グループの親は謝罪した。
親は普段私のことを相手にしないがその時だけは大切にしてくれた。
私はいじめの問題もあってまた遠くへ引越しすることになった。
そうなるだろうと思っていたのでそこまで気落ちはしていない。
ただ一つ―—刀也くんと離れたくはなかった。
さよならの日、刀也くんはいつもと変わらず慣れていない笑顔で私と遊ぶ。
別れ際、彼は一冊の綺麗なノートをくれた。
「いらなくなったからやる。自由に使っていいから」
家族と車で引越し先へ向かう。
子どもながらもこの地で起こったことは一生忘れることはないと思えた。
することがなくて暇になった私は、刀也くんがくれた新品のノートを取り出した。
この思い出の場所が見られるうちに街の景色や彼との思い出を記録するために。
しかし少し開くと何か絵と違うものがついていることに気がついた。
サプライズだろうか?
新品のノートだと思っていた私はわくわくしてそのページを開いた。
そこには、あの日ボロボロにちぎられた私たちの似顔絵がテープで貼られていた。
かろうじて原型がとどめてあるがひどく汚れている。
窓から吹いてくる風であまり止められていない紙片がペラペラめくれている。
「……こんなの…………だめだよ……刀也くん」
溢れ出る涙は大粒で温かかく穏やかに流れた。
次のページをめくると私と刀也くんらしいキャラクターが手を繋いでバンザイしていた。
「ふふ。もうっ……相変わらず下手なんだから」
窓からの風で最後までページがめくられた。
そこには大きく、「またあおうな」と黒い字で書かれていた。
―—うん。
その日まで君の隣にいられるように強くなるから。
―—そして巡り会えたら、そのときは―—。
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