蛇足(後日談など)

蛇足1 自室にて


「うう~ん、カズくんむにゃむにゃ」


 自室であぐらをかくカズヒトに、たまきは脇腹からしがみついてむにゃむにゃとつぶやく。


「本当に寝てる人はむにゃむにゃなんて言わないんだけど」


「むにゃむにゃ? む~にゃむにゃむにゃ」


「むにゃむにゃ語で会話しようとすな」


 カズヒトがそういさめると、環は「むにゃむにゃ!」と首をぶるんぶるん振り、おでこを脇腹にこすりつけてきた。


「やめなさい。あの、環さん、しがみつかれてると動けないんですけど。下にお茶とりにいきたいんすけど」


「む?」環はそう言われて、ふいと目をあげる。「そうか? 私をかかえていけばいいじゃないか」


「人ひとり持つのってそんなかんたんじゃないんで……結局お茶持ってこれないし……」


「ふぅ~む、カズくん、ずいぶんなわがままを言うじゃないか。私を持っていくか、お茶を持ってくるか、二律背反に悩まされているといったところだね」


「かっこよさげな単語言いたかっただけなんじゃないのそれ?」


「そんなきみには、これだ!」


 そうさけびながら、環は残像さえ見えそうななめらかスピーディーな動きで、カズヒトのももへ後頭部をのせる。


「ひざ、まくら!」


「なんか発明品でも出すのかなと思ったら、事態がまったく解決してないんですけど。おれののどの乾きがまったく癒やされないままなんですけど」


「やだやだ、私は5年分のビタミンカズくんをとりかえさなきゃいけないんだ! いっときも離れないぞ!」


「必須栄養素みたいな言い方すな。べつに、これからずっといっしょなんだから、そんなもんいくらでもとりかえしていけるだろ」


「ふぇっ」


 環の呼吸がとまったような反応で、なんか、ちょっとプロポーズっぽいことばになってしまったなと気がつくと、カズヒトは突然恥ずかしくなってきた。頭を中心に、体温が瞬間的にあがったような感じがする。環も照れたように目をおよがしてなにも言わない。


 そんな環を見ていると、ふいにいとおしさが湧いてきて、前髪の生え際あたりを指でなぞったあと、おでこに口づけをする。


 これで、真っ赤になってぎゃーとさけんで逃げ出すだろう、というもくろみもあった。が、環は、びっくりしたように目を見ひらいたあと、「へへへ」とうれしそうに笑って自分のおでこをいつくしむようになでた。


 拷問でも受けたかなと思うようなつよさで、胸がぎゅっとしまった。またなでなでを要求されたので、いつまでたってもお茶がとりにいけない。

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きみにくるくる ~ 催眠からはじめる幼なじみとの仲直り ~ 七谷こへ @56and16

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