第10話 違いが分かる男
カボチャ。
ひとくちにそう言っても、いくつもの種類がある。
そして数あるカボチャの種類を大別するならば、主に三つのグループに分けられるだろう。
一つは西洋カボチャ。
これはスーパーでよく見るヤツだ。大抵の日本人が見たことがあるカボチャはこれなはずだ。
ほくほくとした食感と甘みが特徴。蒸し料理や、濃い味を活かして菓子の材料などにも適している。
栄養価も高い。まさに野菜界のパワーヒッターである。
そしてもう一つは日本カボチャ。
日本カボチャといっても、現代日本ではお目にかかる機会が少ない。
水分量が多くねっとりとした食感と、ややあっさりとした味が特徴だ。
その自己主張控えめな味ゆえに日本料理と相性がよく、高級料亭などで煮物や揚げ物の材料として重宝されているようだ。
こちらは野菜界のいぶし銀と言えよう。
最後のグループは、その他イロモノ勢である。
そのメンバーは、ズッキーニやそうめんカボチャ、果てはアトランティック・ジャイアント(ハロウィンで見かけるデカいカボチャ)などだ。
イロモノ勢は、まあまあ食えたものであるズッキーニでさえ、カボチャ感が全くない。味は総じてウリっぽい。他種は推して知るべし。
ではこいつらの価値とはいったい何なのか。
それはこのイロモノ勢は味以外に活路を見出した異色のカボチャたちなのである。
ズッキーニは油と相性がよくフライや鉄板焼きなどで食されている。煮込み料理『ラタトゥイユ』には欠かせない食材でもある。ただし味はウリ。
そうめんカボチャ、なんとこいつは名前の通り茹でると中身がほぐれて糸状になる。ほぐしたものは和え物・サラダ・麺類の代用品と多様な使い方ができるのだ。
そしてアトランティック・ジャイアント。こいつは、デカァァァイ説明不要ッ!!
※※※
さて、なぜオレがカボチャについてこのような知識があるかと言うと、オレは一時期、生鮮食品の輸入会社を仕切っていたことがあるからだ。
もちろんオレの名前はその会社の資料には一切記載されていない。実質的管理者という立場である。
その会社は東南アジアからカボチャを輸入し、国内に流通させるのが主な業務だった。
副次的な作業として、現地でカボチャの中身をくり抜き白い粉的な何かを封入することもあったが。
そんなオレだから、野菜の中で唯一カボチャの品評にだけは自信がある。ただし品評項目はいかに粉体を封入しやすいかであるが。
それでだ。
改めて目の前の異世界焼きカボチャを確かめてみよう。
大きく切り分けられたカボチャ。
皮は厚めでゴツゴツとしている。これは日本カボチャの特徴だ。
中身の方はどうだろうか。
色が濃く、キレイなオレンジ色をしているな。フォークでつついてみるとホロっと実が崩れた。おや? このホロホロ感は西洋カボチャっぽいな。
どうやらこいつは日本カボチャと西洋カボチャの両方の特徴をもっているようだ。
これで味がイロモノ枠だったらがっかりだが、果たしてどうなんだろうか。
恐る恐る口に運ぶ。
その瞬間、衝撃が脳内を駆け巡った!
「なんだこれはぁぁーーーッ! ンマイなあああッ!!」
あまりの美味さに間抜けな声を出してしまった。
しかし、それは無理もない。このカボチャとんでもないぞ。
口に入れた瞬間はホロホロと実が崩れる。
しかしパサパサするでもなく、噛んでいるうちになぜか妙に口当たりがシットリと変わっていく。日本人好みの水分量で、舌触りも滑らかだ。
匂いも良い。焼いた
そして肝心の味は、甘く、カボチャ本来の味がしっかりとしている。しかし濃厚すぎてクドいという訳でもないので、腹いっぱいに食べられそうだ。
おまけに後味もすっきりしている。カボチャ独特の嫌な後味も残らないのがうれしい。
食べるほどに、もう一口と手を伸ばしたくなるな。やめられない止まらない。
「ゥンまああ〜いっ。ンまい! ンめーじゃあねえかッ! いけるぜッ」
「異邦人はただのカボチャに大げさだな」
「いやー、そったら喜んでくれたらオラ達もがんばって育てた甲斐があるっぺよ」
ネコちゃん達はそう言うが、これはただのカボチャじゃない。食ってみろ、飛ぶぞ。
気づけばあっという間にちゃぶ台の上のカボチャは無くなっていた。ティン子よりもがっついてしまったぜ。
異世界カボチャ恐るべし。
「おなかイッパイだよォ」
そう言ってちゃぶ台の上に寝転ぶティン子の腹は、カボチャを食べ過ぎてマンガみたいにポッコリと膨れていた。
まあ気持ちは分かる。
これはカボチャを超えたカボチャ。
おだやかな香りと食感を持ちながら、激しい味によって目覚めた宇宙最強のカボチャ。
スーパーヤサイ人だ。
「カボチャはまだまだあるでよ。もっと食うけ?」
「いやあ、もう十分だ。ありがとよ。ごちそうさん」
これ以上食ってたら本当に満腹で動けなくなってしまう。
このままのんびりとカボチャを食っていたい誘惑に駆られるが、そうも言ってられない。
あまりの衝撃的美味さに、自分の本来の目的を思い出してしまったのだ。
せめてやることをやってからのんびりしよう。
よっこらせ、と立ち上がり、寝そべるティン子を摘まみ上げた。
「オエッぷっ! ちょっとーっ。やさしくしなきゃダメだよ。漏れちゃうっ!」
「バカなこと言ってないで、案内しろよ。案内役だろ?」
「ええーっ!? もうちょっとゆっくりしようヨ。それに案内しろって、どこへさ?」
「お前、自分の目的を忘れてねえか? オレたちは肉を食いに来てるんだぞ。肉へ案内しなくてどうする? さっき仕留めた暴れウシ鳥のところへ連れてけよ。あいつを食ってみるからさ」
「「にゃんだって!?」」
オレの言葉を聞いたネコちゃん達は驚きのあまり立ち上がった。
そして声を揃えて悲鳴を上げた。
「「それを食べるなんてとんでもにゃい!」」
いやさっき見たよこのパターン。
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【白い粉的な何か】
お砂糖かな? 小麦粉かな? よく分かんないや。
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