第6話 婦女暴行容疑、現行犯

 オレはティン子の案内で近くの村に向かった。

 なにせもう制限時間の3割を使ってしまっている。まさか異世界にたどり着くだけで400字詰め原稿用紙6枚分以上を使ってしまうとは。

 恐るべし、うなぎパイ。


「違うよね!? もっと無駄使いしてたトコあったよね!? ボクの名前のくだり要らないよね!?」


 歩きながらオレのティン子はいきり立ち、青筋を立ててたけっている。

 暴れるティン子はその口先から雫を垂らし、もう爆発寸前だ。


「なにも垂らしてないし! 誤解を招く表現はやめてよ! 方々ほうぼうから怒られるのはキミだけじゃないんだからネ!」

「分かったって。キャンキャン言うなや。冗談は名前だけにしといてやるよ」

「それもやめて欲しいんですけど!?」


 そうやってティン子をイジりながら歩けば「また変なこと考えてない?」、村まではあっという間にたどり着いた。



※※※



 森の小道を抜けたら、そこは畑が広がる田舎の長閑な景色であった。

 柔らかな風に吹かれて、豊かに繁った作物の葉が揺れる。

 野良仕事をする農夫が辺りに散見された。

 どこか遠くからガキのはしゃぐ声も聞こえる。

 

 のどかな田舎じゃねえか。オレみたいなヤクザ者には似合わねえな。


「おいティン子。さっさと要件を済ますぞ。どこぞの奴を引っ張ってこい」

「キミねぇ。そーゆーことは自分でやんなきゃダメなんだぞっ」

「なんだぁ? 役に立たねぇティン子だな。インポか?」

「ムキーー!」


 怒り狂ってオレの髪の毛を引っ張るティン子を無視して、オレは手近にいる農夫に歩み寄った。

 農夫は身をかがめて、背の低い作物の世話をしているようだ。蔦や葉の茂った立派な作物だ。


「よお、コンチワ。なあアンタ、ちょっと聞きてぇことがあるんだが」

「あい? なんだべか?」


 オレの呼びかけに振り返った農夫は、ピンとした立派なヒゲを貯えたヤツだった。

 尋常じゃなく毛深い。真っ黒だ。

 チョッキのようなものだけを上半身に引っ掛け、なんと下半身は丸裸だ。

 突き出た鼻と口。

 ぼさぼさ頭の上にニョッキリと三角の耳が生えていた。

 クリクリとした目がオレを見つめている。

 それはまさに、


「ネコちゃ~~ん!」


 ネコだ! 二足歩行のネコ! なんて可愛さだ!

 オレは無類のネコ好きである。そんなオレの前にこんなに大きなネコちゃんが現れるとは!

 異世界、感謝ッ……圧倒的、感謝ッ!


 オレは一も二も無くそのネコに飛び掛かり、全身を撫で繰り回した。


「ほーれほれほれ。わしゃわしゃわしゃ! どうじゃ~? ええか~? ええのんか~?」

「なんだアンタ! や、やめるだっ。にゃにゃ!? そんなことしちゃいけねぇべ!」 

「ひゃー! こんな往来でハレンチだヨ!」


 身を捩って逃れようとするネコちゃんをがっちりホールドして、尻尾の付け根辺りをわしゃわしゃし続ける。逃さんぞ!


「おい! アンタ、母さんに何をするだァーッ ゆるさんッ!」


 少し離れたところから、怒声が上がった。

 怒声の主は、目の前のネコちゃんより小ぶりな白ネコちゃん!

 ほおー! ここはネコの宝石箱や~!


「母さんから離れろー! キョエエエエイ!」


 ネコのくせに猿叫を響かせ、鍬を立てて一直線にこちらに走りこんでくる。

 なかなか堂の入った『蜻蛉の構え』である。


 オレはすっかりぐったりしてきた黒ネコちゃんをそっと地面に横たえ、白ネコちゃんを待ち構えた。

 次の瞬間、白ネコちゃんの鍬が振り下ろされた。早い!


「もらった! 悪漢、死すべし!」

「甘いわ!」


 オレは鍬の刃が当たる直前に白ネコちゃんへと一歩踏み出して、ヒットするポイントをずらした。

 鍬の刃はオレの背中側へ通り過ぎ、鍬の柄のみがオレの肩を強かに打ち据える。

 しかし所詮はネコちゃん。鍬の柄ならばどうということはない。

 

「もらったぞ! ぬううんッ!」


 オレは白ネコちゃんをつかみ上げて地面に転ばせた。

 そして仰向けにした白ネコちゃんの頭上側から乗り被さり、白ネコちゃんの両腕の外側から、抱き着く様に、自分の両腕で制し抑えんだ。


 これぞ上四方固め!

 

 この技の利点ッ、それはッ、伸し掛かったオレの眼前にちょうどネコちゃんのお腹があるということッ!

 モフモフ、顔を埋めずにはいられないッ!


「お腹の毛、最高にモフモフだぜぇー!」

「ひょわーー!? やめろ変態ー!」

「お巡りサン、こっちだヨ!」


 変態ぃ!? 馬鹿な。ネコを愛でる気持ちに不純な動機などない!

 ゆえにこのまま一晩でも二晩でもモフり続けてやるぜ。なにせ、うなぎパイのお陰で今夜はビンビン――


「ぶもおおおおーーー!!」


 突如、ドーーンッという衝突音とともに、獣声が轟いた。

 なんと、村の外縁部、獣除けの柵をぶち破って大型の野獣が暴れているじゃあないか。

 なんだあのケモノは!?


「あれは、暴れウシ鳥だヨ!」

「なに!? 知っているのかティン子!?」

「モチのロンさ! ボクはキミのサポーターだからねっ!」

「しかし、神様のジジイはこの世界の記憶を失っていたはず……。どうやってその知識をお前に与えたんだ……!?」

「ええ? んもー! 細かいことはいいんだヨぉ!」

「だ、だが、それではストーリーの整合性が……!」

「うるしゃい! ボクはこの世界由来だから大丈夫なの! そーゆーことなの!」


 なんというご都合主義。

 オレたちがくだらない漫談をしている間にも、その暴れウシ鳥とやらはノッシノッシと畑に侵入している。


 近づいてきたお陰でその姿がよく見て取れた。

 こいつは一見ウシを思わせるシルエットだが、二足歩行で、前足は短い手羽みたいになっている。それに立派なくちばしを持つ辺りも鳥っぽい。その一方でウシのような角とヒヅメ、しっぽを備えているため野獣にも見える。

 

 どこかで見覚えがあるような……。


「こいつぁ、あばれう〇どりじゃあないのか?」

「そうだよ、暴れウシ鳥だヨ!」

「いや、そうじゃなくて、あばれ〇しどり、だろ?」

「そう。暴れウシ鳥だね。……あいええ? ボク変なこと言ってる?」

「だから、こいつはドラク〇4に出てくるモンスターの【あば〇うしどり】とまったく同じじゃあないかって」

「なっ、なんだっテーーー!?」


 確かドラク〇4でお姫様と従者二人が旅している序盤に出てきた敵って記憶があるぞ。

 こいつがその敵と、もうそっくり。パチモンレベルだ。


「困るよぉ! もう川端康成とティンカー○ルでもお腹一杯なのに、その上ド○クエとかぁ?! 著作権問題に発展したら敗北必至ダヨー!」


 上等だ、かかってこいスクウェア・エニックス! ウォルトディズニーカンパニー!




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


【著作権法違反】

著作権、出版権、著作隣接権の侵害は、10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金、著作者人格権、実演家人格権の侵害などは、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金などが定められてる。

また、企業などの法人による侵害の場合(著作者人格権侵害、実演家人格権侵害を除く)は、3億円以下の罰金と定められている。


またこれとは別に、民事上の請求として著作権の侵害を受けた者は、侵害をした者に対し、損害賠償の請求・不当利得の返還請求等をすることができる。











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る