第2話 暴力はすべてを解決する

 ひっくり返ったちゃぶ台。

 割れた茶碗。

 そして暴れるオレ。


「お前がッ 諦めるまで 殴るのをやめないッ!」

「ひいいぃん!」


 神様の上に馬乗りになって左右の拳を連打する。ジジイ、死すべし!

 しかしオレの渾身の拳もジジイの前に張られた謎の障壁に遮られ、あと僅かのところで届いていない。

 しかし、それは些末な事だ。

 殴る。その行為そのものに意義がある!


「ジジイ! 後悔させてやるぞ! 思い知るがいい!」

「ひい! 完全に悪役のセリフ! 哀れな神に向かってなんという恐ろしいことをするのじゃ!」

「黙れ! この汚らしい阿呆がァーー!」

「なにをするだァーーッ!?」


 障壁を殴りすぎて拳に血が滲んでいるが、それは些末な事だ。

 殴る、楽しい! なぐる、たのしい! ナグル、タノシイ!


「ウリイイイイイイイイ!」

「ワシなんか人選まちがえたかもしれーーーん!」



※※※※※※※



 ひとしきり運動したことで、ストレスが発散できた。

 やはり気分転換には暴力に限る。


 額の汗を拭い、晴れ晴れとした気分で見下ろす。白い空間の片隅で神様が結跏趺坐で手を合わせ、半眼で悟りを開いていた。


「ふー。あぶないとこじゃった。弥勒菩薩ちゃんにコレ教わっといてよかったわい。あとでお礼のメールしとこ」


 ちっ。痛み分けというところか(?)。

 冷静さを取り戻したオレは改めて神様を問うた。


「実際のところさぁ神様よぉ。オレにそんな大それたことは出来ないぜ。肉料理は諦めなよ」

「いんや、出来る。いやさ、オヌシにしか出来ぬ。ワシには分かる」


 やたらと推されているが、そこまで信じられる謂れに、オレは全く身に覚えがない。

 ポリポリと鼻をかき、ため息をついた。


「出来るって言われても困るんだが。なにか理由があるのか?」

「理由はない。根拠もない。結果じゃ! この神の世界では理由も根拠もすべて消し飛び結果だけが残るのじゃ! それが神の能力!」


 よく分からない謎能力を説明されてしまった。

 オレの困惑を見て取った神様が諭すように繰り返した。


「結果じゃ。過程はワシにも分からぬ。じゃがワシが権能を使い、オヌシが現れたのじゃから、結果は決まっておる。オヌシは肉料理を作れるとな」

「ふーん……。よく分からんが、とにかく頑張れってことか?」


 オレは小難しいことを考えるのをやめた。なぜなら先程散々とスッキリして今は賢者タイムだからだ。正直ダルイ。


「わかったよ。とりあえず異世界には行ってやるけど、期待すんなよ? あと……」


 言うなり、素早くガシッと神様と肩を組んだ。

 手のひらをヒラヒラと差し出す。


「しっかり出すもん出してもらわないとなあ。世の中タダより高いもんはおまへんのでっせ?」

「なんちゅう不信心者じゃ。神から金をせびろうとはのぉ」

 

 神様は懐をゴソゴソすると、なにやら袋をいくつか取り出した。


「オヌシには初めからこれをくれてやるつもりじゃったわい。ほれ、持って行けい」

「三つの袋……?」


 『堪忍袋』、『巾着(給料)袋』、『お袋』の夫婦円満の秘訣?


「この袋の中にはそれぞれ一つずつワシの『奇跡』が入っておる。それを取り出せばオヌシに奇跡体験が訪れ、アンビリーバボーなことになるじゃろうて」

「なんじゃそりゃ。アンビリーバボーなことってなんだよ」

「そこを深堀りしてはいかん。言葉の綾じゃ。とにかくこの三つの奇跡を使ってワシの世界に肉料理を根付かせてくれ。どんな奇跡を願うかはオヌシ次第じゃが、大抵のことは叶うでの。重々考えて決めるがよい」


 どんな願いでも大抵は叶う……?

 これはとんでもないことなんじゃないのか!? しかも三つも?

 うまくいけば大金がっぽがっぽで美人のチャンネーを侍らして自由気ままな極楽生活なんじゃあ……!


「なにを考えておるか顔を見れば分かるが、あくまで肉料理の為じゃからの。もし万が一、肉料理を生み出すことが出来なんだらオヌシの奇跡はボッシュートじゃからして、欲をかく出ないぞ」

「ぐぬっ」

「じゃがまあ、ワシはお肉が食べられればそれでいい。もし三つの奇跡の一つでも余ればオヌシの好きに使ってよいぞ」


 マジで!?





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


【結跏趺坐】


坊さんが滝に打たれている時の胡坐っぽい座り方のこと。足の裏を上に向けるのがポイント。

いかんせん滝に打たれる坊さん自体が現実にいるかがそもそもの問題である。つまりは非実在坊さんである。





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