神様この人選って間違ってません?
もんもさん
第1話 土下座てゅぎゃざー
いまオレの目の前で、神様が土下座をしている。
額を地面に擦りつけ両手の平を上に向けて。
「お願いじゃー! ワシに肉を食わせてくれー!」
必死の懇願である。
神様は白髪白髭でローブを来た爺さんだ。いかにもよくあるタイプ。
ガキっぽいやつが『僕が神だよ』とか言い出しても信じるのに無駄な時間がかかってしまうから、まあ妥当なところだろう。
「頼むー! もうカボチャは飽きたんじゃー! 肉が食ってみたいんじゃー!」
そしてこの真っ白な謎空間。
あーあるある、よくあるよねーこの謎空間。この白い空間とか例のプールとか、いやと言うほど既視感あるわー。
「おぬしだけが頼りなんじゃー! 肉をー! 肉をー!」
神様がにじり寄ってきて、オレの膝に縋り付いてきた。涙ハナミズ垂れ流してオレのズボンを濡らす。
汚いッ!
「やめーい! ジジイいい加減にせーよ! 神様だかなんだか知らんが、なんのこっちゃサッパリ分からん。もっとしっかり説明せんかい!」
オレが神様を突き飛ばすと、神様の見事な白髭がファサッと翻った。無駄に豪奢。
「ひいぃん。この哀れな老人を突き飛ばすとは、なんたる非道ッ」
「哀れな老人て。神様やろがい」
しかしこれだけフザケたジジイでも、なぜか神様だと確信できる不思議。きっと神様的謎パワーがなせる業なんだろう。
そこだけは凄い。そこだけな。
「ふひー、ふひー。ちょっとワシ疲れちゃったわい。休憩じゃ」
言うなり、神様の目の前に粗末なちゃぶ台と歪な椀が二つ現れた。
椀の中には湯気を立てた白湯が入っている。
「ほれ、おぬしも飲め」
「お、おう」
とりあえず言われるままにちゃぶ台の前にドカリと座り込み、椀を持ち上げた。
「変なモン入ってないよな?」
「入っとるかそんなもん。神様からの下賜じゃぞ。ありがたく飲まんかい」
まあいいか。神様だし毒は入れまい。
ゴクリと飲み干す。無味無臭。特になにもない。
「で?」
「『で?』?」
「【『で?』?】じゃねえよ。なんか分かりにくくなっちゃったじゃねえか。なんでオレは神様に呼び出されてるわけ?」
「ええっ!? さっき散々言ったじゃろ、肉が食いたいって」
「はぁ……?」
何言ってるんだこのボケ神様は。肉が食いたきゃ食えばいいじゃないか。
オレは飲み干した椀をちゃぶ台にドンと降ろし、神様を
「ああん? 肉が食いたきゃ、この椀みたいに出せばいいじゃねえか」
「そう簡単に出せたら苦労せんわい! ……ダメなのじゃ。ワシが出せるのはワシの世界にあるものだけなんじゃ。ワシの世界には肉が無いんじゃよ。正確には『肉料理』が!!」
この世の終わりのように神様が叫んだ。
神様がこの世の終わり感を出したら本当にこの世が終わっちゃうから、よした方がいいぞ。
しかし肉料理が無い世界? この神様の世界には肉料理が無いってことか?
オレは嫌な予感に頭が痛くなってきた。思わず眉間を揉む。
「つまり神様。アンタは神様だけど、オレの世界の神様じゃなくて、肉料理が無い別の世界の神様ってことか?」
「そうじゃそうじゃ、今ごろ分かったのか。おぬしニブチンじゃな」
ますます頭痛がひどくなってきた。頭痛が痛い。眉間モミモミも倍加した。
「で? 別の世界の神様がオレに何の用なのか、ニブチンなオレにもう一回はっきりと言ってもらっていいかな?」
「じゃからー、おぬしの力でワシの世界で肉料理を作ってほしいんじゃよー。そしたらワシのちゃぶ台にも肉料理が出てくるじゃろー? そういうことじゃ」
「ほーん。じゃあオレはアンタの世界に行って肉じゃがでも作ってくればいいのか?」
「それじゃあ駄目じゃ。もっと文化的に根付いて、誰もが知る家庭料理レベルにまでせぬと、ここには出てこぬ」
この神様、さらっと恐ろしいことを言ってないか? ぶんかてきにねづいて? 言葉が脳に受け取り拒否されている。
「ち、ちなみにだが、いま出せる家庭料理ってのはどんなんなんだ?」
「ふむ? こんなモンじゃが?」
神様が椀をちゃぶ台に置くと、その中に何やら湯気の立つものが現れた。
これは、カボチャ?
「ワシの世界ではすべてがコレじゃ。これオンリー。焼きカボチャのみ。ノーボイルノーフライ、ただただカボチャを焼くだけじゃ! じゃからオヌシは、この不毛なカボチャ世界に華麗な肉文化を生み出すのじゃ!」
「……で」
「で?」
「……で」
「で?」
「できるかそんなモンーー!!」
オレは目の前のちゃぶ台を盛大にひっくり返した。
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【真っ白な謎空間】
神様と出会うことができる不思議な空間。トラックに轢かれたり、重度の過労で倒れたりすると行ける空間。
最近ではゲーム中に眠ってしまうと行けたりするのがトレンド。
『例のプール』・『マジックミラー号』と並び、男の子の憧れの地であることは語るまでもないだろう。
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