第8話 服装は、その……

 あたしは今、みなみさんとりょうやさんと三人で、他に誰もいないリビングにあるテーブルに座って、向かい合っている。

 「ところで、アリーナちゃん、そうたとはどういう関係なの?」

小さい頃に、リナ子と一緒に悪戯をして、リナ子のお母さんに「アリナちゃんは、新品のシャツに落書きがあったらどう思う?」と言われた時のような、知り合いの保護者特有の声のトーンでりょうやさんが、あたしに質問をする。

 さっきまで無邪気な人だったから、少し怖気づく。

 「友達です……」

この状況で、実はさっき会ったばかりです、なんて言える度胸は持ち合わせていなかった。

 「ねぇ、アリーナちゃん、さっきまで土足だったし、その服装といい、そうたとなにしてたのさ」

 シリアスな空気が漂う。そういえばブーツを履いたままだったから怒られるかも……いや、そんなことは今はどうでもいいのだろう。

 そうた君も、その家族も、あたしの知らない種類の服装をしていた。そしてブーツ……よくよく考えると、みなみさんたちからすると、結構不思議な状況なのかもしれない。というか、あたしだったら変だと思う。

 「靴はその、色々あってそのままで来てました……。服装は、その……」

あたしは声を詰まらした。どう言い訳すればいいのかが、分からないのだ。本当のことを言ったって、きっと信じられないし、変な誤解は招きたくない。

 「ごめんね、僕たちも無理して聞きたいわけじゃないから……そうそう、もう遅いから、お家に帰ろう?送ってあげようか?」

りょうやさんは、小さな子供に言い聞かせるような声色で、あたしにそう勧めた。

 「そうですね、今日は帰ります。大丈夫です、一人で帰れるので」

大丈夫……な訳なかった。帰る方法は分からないし、この世界に帰るところもない。だからと言って、そんなことを口には出せなかった。

 みなみさんたちは、玄関まで見送ってくれた。その先は沢山の扉がある、大きな建物の中だった。どうすれば良いか分からなかったけれど、あたしは、みなみさんたちが見えない、階段の下まで行った。

 外に出ると、慣れない風景と空気で少し気分が悪かった。建物の下まで行くと、あたしは金属の網の壁に座り込んで、空を仰いだ。

 そこには、星の一つもない、ただの暗闇が広がっていた。

 

上を向いているのに、頬を涙が垂れた。

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