第5話 女児に少年と呼ばれるほど

 「痛ぅぅ」

あたしが扉を開こうと、ドアノブに手を伸ばした、その瞬間だった。額に衝撃が走ったのだ。

 あたしは、少し涙を浮かべ、額に両手を重ねながらしゃがんだ。

 「……えっと、君、大丈夫?」

大丈夫な訳あるか。頭が割れたかと思った。

 「いだいに決まってるじゃないがぁ……」

目の前にいる、多分人は、あたしと同じくらいの男子。見るからに魔力が無いけど、何で立っていられるんだか。

 「絆創膏あげようか?」

……ばんそうこう?聞いたことの無いものだ。美味しいのか?

 「よくわがんないけと、要らない」

あたしは、ショルダーバッグの中にあった、白いガラスの正十二面体を手に取った。それから、それを額に近づけると、暖かい光が中心で揺らぎ始めた。

 うん、だいぶ痛みは退いてきたみたいだ。ヘプバンしても大丈夫な気がする。もしものために、回復装置ヒーラーを常備しておいてよかった。

 ところで、あの少年は何故あたしを、まじまじと見ているのだろうか。そんなに魅力的?

 「今のは、いったい……?」

え、分からないの?嘘でしょ。もしくはおバカさん?

 「回復装置ヒーラーだけど、知ってるよね?」

さすがに、見据えた冗談に笑えるほど、あたしは優しくないのだよ。少年よ。

 あたしは、使用済みの回復装置ヒーラーを、ショルダーバッグに戻した。ケチをして、使い捨てを持っていたのだ。

 「そんな、常識だよね、みたいに言われても……」

常識だよね、ではなく常識なのだが。この少年には、常識ではない、ということなのか。もしや、使い捨てタイプを見たことの無いのか。

 「えっと、回復ヒールの術式が、刻印された道具で、魔力を込めると……というか、この部屋には、初めて見る魔道具や書物が多いし、きみの方が詳しそうだけど」

 変なことを聞かれるし、魔法使ったしで疲れたあたしは、林檎を皮ごとかじった。

 「本当に魔女っ子なのか。やっぱり異世界?」

 「いっ異世界……!?今そう言ったの!?」

 もし少年が、あたしに対して「異世界」と言ったのならば、少年はあたしからして、異世界人になるのか?

 「少年!!ここって異世界なのか!?」

少し声を荒くして、少年に問う。……さすがに引かれたか、戸惑っているのか、少年の様子が可笑しい。

 「えっと、女児に少年と呼ばれるほど、子供じゃない自信はあるけど、多分君の話的にそうじゃない?あまり信じ難いけど」

 「やっぱり、そうなるのか。……というかだ、あたしは十六だ!!女児と呼べる歳じゃない!!」

 理不尽にも、少年はあたしを疑いの目で覗いてくる。そんなに変かな、あたしが十六歳なのが。

 あたしは、芯だけになった林檎を、袋に入れてショルダーバッグに突っ込んだ。

 「なあ、君のいる世界はどんな感じなんだ?もしかして、魔法とか、超化学とかあるのか?スキルとか、戦争とかは……?」

 そんなに一変に質問したら、答えずらいだろう。あたしだって、知らないことだらけなのに、こっちの身にもなってほしい。

 「魔法はあるけど、チョンかがくとか、スキルとかは分かんないよ。それに戦争は、昔は大っきいのがあったみたいだけど。」

 なにやら目を輝かせている。期待できるようなことを、口にした覚えなんてないのだが。あたしが言ったのは、魔法があるくらいしか……はっ!?回復装置ヒーラーのこと知らなかったし、もしや、ここには魔法がないのか?

 「魔法ぅ!魔法はないの?」

少年は、さっきまでの勢いを落ち着かせて、少し冷静になった。

 「それは、空想上のものでしかない……少なくともこの世界では」

一応、空想上に存在するということは、概念自体はあるのか。しかし、魔法というものが、そんなにも嬉しいものなのか。

 いや、疲れるし、魔法がない方が楽な気がする。

 「あっ、外!!あれどうなってるの?なんで光ったり、動いたりしてるの?」

 「電気で動いてる」

なるほど、でんきね。

 「ところで、でんきって、何?」 

脳内で思ったことを撤回する。でんきとやらを、あたしは知らない。多分、魔法みたいな類いだろうけど。

 しかし何故少年は、ツルツルした板を、急に触り始めたのか。しかも、驚くべきことに、その板の黒かった面が光って、模様が出てくる。その上、少年の指の動きに合わせて、模様も動くのだ。

 これがでんき……、思っていたより凄いものかもしれない。

 「辞書によると、『電気(でんき、英: electricity)は、電荷の移動や相互作用によって発生するさまざまな物理現象の総称である。これには、雷、静電気といった日常的な現象の他、電磁場や電磁誘導といった電気工学に応用』(Wikipedia: フリー百科事典 引用)……」

 「そうごさよう?ウィキ?全く分からん。でも、雷とか、静電気ならわかるよ。あのドーンとか、パチッとかするやつでしょ」

 どうだ!っと顔で表現した。あたしは、こちらの世界のことが、少しながら分かるのだ。でも少年は、あたしが言う前から、魔法って知ってたな。

 しかし、ただの災害としか思えない電気を、手懐けるとは、この世界の文明は、だいぶ進んでいるんだなー。

 「そういえば、名前聞いてなかった。いつまでも、少年呼びは嫌なんでしょ。軽く自己紹介も聞きたい」

 「濱田 蒼太っていう名前で、歳は君と同じ。君は?」

 「アリーナ・フックスだよ。よろしくね、そうた君」

そうた君は、なにやら真剣な顔付きになった。

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