第4話 あううっ……

 ……誰?

俺は意を決して開いた扉を、数秒足らずで閉じてしまった。

 いわゆる覚悟を決めて、自分の部屋に入った。そして、事を済ませて、晴れてこの世界からさようなら…………のはずだった。

 見てしまったのだ。小柄の小学生か、中学生くらいの体格で、白い髪のポニーテールに、透き通るような明るい緑の瞳。そして、コスプレでもしているかのような、ローブと三角帽子。

 あの女児は、何なのだろうか。あれが、お迎えなのだろうか。俺の、お迎えのイメージは、白い鳩のような、神々しくも、暖かみと優しさのある翼を持っていて、頭の上に輝かしい光輪を浮かばせる、天使を思い浮かべるのだが。

 まあでも、あの女児はどう見たって、魔女っ子だ。もしくは単なる悪戯か。どちらにしても、覚悟を決めてすぐに、遊びでしたごめんなさいは、許さない。

 というか、もしかして本当に、この世界と、さようならをして俗に言う、異世界転生とかそういうパターンなのだろうか。となると、魔女っ子がお迎えでも、可笑しくない……のか?


 しかし、あの女児のせいで、興奮していた気持ちが下がってきた。冷静になって考えると、それをするほど、つまらない世界でもないかもしれない。

 そう思うと俺は、もう一度扉を開いた。




 知らない雰囲気の部屋に、窓ガラスの奥に見える不思議な建築物。あの鋼の塊の、大きな柱みたいなのは、何のための施設なのか……。さすがに、あそこまで大規模な建築物が、人が住んでいるとは考えられない。

 部屋の窓から見て、左側のには、木でできた机と、その上には、読めない文字で、何かが書いてある本がある。そして、それの隣には、棚があって、人を模した蝋人形が飾られていて、机の上にあるものと、似た本がいくつか置いてある。

 あの穴のことを、あたしはゲートと呼ぶことにしたのだが、そもそもゲートから行けるこの空間に、あたしのような人間がいるのか。

 もしや、超魔法文明を持った、宇宙人の星とか、国の極秘研究施設とか……?もしくは、異世界?…………そんなのが家の近くにある訳ないか。

 「おお!」

 あたしは屈んで、本の隙間をなんとなく見ていると、数札ほど、他とは違う雰囲気の本が隠されていた。

 これは、凄いものかもしれない。そう思いながら、あたしはそっと手前の本を除けた。

 「あううっ……」

これは、ダメだ。見ちゃいけないものだ。なんというか、その、とっても大人の、エッ、絵が描かれている本だ。

 あたしは火照った頭を、手で仰ぎながら、その本をショルダーバッグに入れた。

 それにしても、考えれば考えるほど、分からなくなる。ここはどこなのか。そこが面白いのだけれども。

 「まあいっか。こんな体験、生きてる中で一度きりかもしれないしー」

あたしは、結構薄っぺらい思考の持ち主なのだ。だから、そんなことは、気にしない。兎に角、訳の分からない状況に、純粋な好奇心が引かれたのだ。……自分で思っててなんだが、やべえ奴みたい。

 ん?今、背後から物音がしたような。バンッて、何か叩きつけるような音。それが気になって、少し慎重に振り向いた。

……あたしの視線の先には、特に変わったことはなく、ただ一つの扉だけがあった。

 そういえば、この扉の先は、まだ見ていない。この部屋が、どこにあるかも知りたいから、扉の先には行きたい。

 あたしは立ち上がって、扉の方へ向かった。少し緊張する。ゲートに入るときは、なんとも思わなかったが、一つ越えるとなると、結構勇気が要るものだと感じる。

 でもきっと、この扉を開かなかったら、多分後悔すると思う。そのまま未練たらたらで、お母さんの顔は見たくないし。

 あたしは、意を決して、ドアノブに手を置いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る