第2話 なに……これ……

 「なに……これ……」


 あたしは学校が終わると、いつものように帰路についていた。正確には、よく一緒に帰っていた友人がいないだけで、いつも通りと言える。

 あたしは魔車ましゃを降りたら赤レンガの駅を出て、そこのすぐ近くにある、紺の屋根と白い壁のお店で林檎を買った。

 紙袋に入ったいくつかの林檎を抱えながら、あたしは家のある方面へと向かっていった。

 街灯の光が見えなくなってきたから、小さく術式を呟き指をふる。そうすると、あたしの人差し指の先から、少し眩しいくらいの明かりが出てきた。

 あたしの家は、白樺林の中にあるから、ちゃんとした明かりは無い。真っ暗だから、慣れない頃は結構怖かった。

 林の中の一軒家だから、周りを気にしなくても大丈夫だけど、こういうところは結構不便だ。でも一応ちゃんとした道はある。

 「ん ……?」

暗いけれど見慣れた帰り道の風景に、ふと違和感を感じる。あそこ、なんだか明るいな。何か落ちているのか。そう思いながら、あたしは一本の白樺に近づく。

 「なに……これ……」

 白樺の木の根元付近に、六十~七十センチメートルくらいの穴……?というか、初めて見る訳の分からないものがある。その表現が、正しいかどうかすら分からない。

 そして、その穴の奥に、角ばった鋼の建築物や、大きな橋からちらつく光の映える夜景……が見える部屋の中が覗ける。

 そして見たことのない家具や魔道具が、あたしの目に映る。

 するとなぜか、得体の知れないこの穴に関心が沸いてしまった。普通だったら、こんなものがあったらまず感じるのは、混乱や恐怖かもしれない。

 でもあたしは、この穴に「入りたい」という気持ちが勝ってしまった。


「おぉ、結構いけるもんだね」

少し悩んでしまったが、やっぱり入ってしまった。まず穴に、紙袋に入っていた林檎を投げ入れた。すると普通に入っていって、特に何も起こらなかったから、今度は三角帽子とショルダーバッグを入れた。三角帽子はふわふわと落ちていった。

 それで安心したあたしは、頭を入れて辺りを確認した。誰も居なければ、危なそうなものも無かったから、今度は身体を全て入れた。

 取り敢えず三角帽子を被り直して、ショルダーバッグからカメラを取り出した。

 カメラを使うと、魔力の消費が激しいが、林檎があるので安心して使える。

 あたしは何の迷いもなく、カメラの電源ボタンを押す。……しかしカメラは一向に起動しない。

 もう一度、もう一度と繰り返すが結果は変わらなかったので、仕方なく目に焼き付けることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る