子どもを買って育てる

euReka

子どもを買って育てる

「こいつ、噛みついたりはしないかな」

 俺は、子どもを買うのは初めてだったので、売人にいろいろと質問をした。

「別に、しっぽや角が生えてても普通の子どもと同じですし、おとなしいもんですよ」

 でもこいつ、俺のことをずっと睨んでいるんだが。

「ああ、睨むのはいつものことでして」


 俺は、値段が安かったのでその子どもを買い、首に繋がれた縄を引いて家に連れ帰った。

 家に着いて気づいたのだが、子どもは、俺が話かけてもウーとかアーとかしか言えない。

 これじゃあどうしようもないなと思って、急いで市場に戻ったのだが、すでに売人はどこにもいなかった。

「その子誰なの? すごくかわいいね!」

 声の主は、家の近所に住むメガネをかけた女性で、たまに道端で話したりする程度の人だ。

「ほら、わたしのことをまん丸い目でずっと見てるし、おまけに、かわいいしっぽや角まで……」

 彼女はずっと俺の家まで着いてきて、子どもを抱きしめたり、食事を作って食べさせたりした。


 いったん彼女は帰ったが、次の日も、そのまた次の日も家に来て子どもの世話をした。

 それで、いちいちドアを開けるのも面倒になった俺は、あるとき彼女に家の鍵を渡した。

「もういっそのこと、わたしたちが結婚したら鍵なんて必要ないと思うの」

 しばらくして突然、彼女からそう言われたときはさすがに驚いたが、彼女のことは嫌いじゃないし、別にいいかと思って俺たちは結婚した。


 その後、子どもが学校へ通い始めると、しっぽや角のせいでイジメられるようになった。

 相手の親に法的手段に出る用意があると脅したら、彼らは急に神妙な顔になって、案外上手く事が収まった。

「さすがパパね」

 彼女はそう褒めてくれたが、ただのハッタリだ。

「でも、あなたが子どもを守ろうとする姿に、わたしキュンとしたの」

 そんな無邪気な女性だったけれど、子どもが十四歳になったときに、彼女は交通事故で死んでしまった。


 彼女が死んだあと、子どもと二人きりでいると、まったく会話が続かなくて家に気まずい空気が漂った。

 そして二十四歳になった彼は、恋人を見つけて結婚し、俺の元から離れることになった。

「ママからは、たくさんの愛情をもらいました」

 彼は、結婚式のスピーチでそう言った。

「さらに、今、僕が人間としてここに立っていられるのは、あのときパパが、気まぐれにも僕を買ってくれたおかげで、嫌々ながらでも僕を育ててくれたおかげです」

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