第13話 家出の準備

●家出の準備


 僕とデレックの反対で、今直ぐ出てくは何とか収めたけれど、


「疲れた。今度は俺らが疲れた。家出の手伝いすることに為っちまったし」


 精神的に参っているデレック。


「でも、ネル様だよ。そうしなければ一人で何も持たず出て行くと思わない?」

「だよなぁ。まだ俺達が関わるだけましだよなぁ」


 嫌と言うほどネル様の気性を知ってるデレックなのに往生際が悪い。

 食料と水。身を護る為の使いこなせる武器。そしてなによりネル様の身分の証。


「お金だって、幾つもの財布に分けなきゃいけないし、下手に金貨なんて持ち歩けないでしょ? 靴・髪の結び目・剣の柄。隠し場所も考えないと。って、どうしたの?」


 ネル様は兎も角デレックまで、なぜか不思議な顔をして見ている。


「なんで沢山財布を持つんだ?」


 デレックが尋ねた。


「えー! ほんとに解らないの?」


 頷くデレックとネル様。


「師匠が居ないんだよ。スリに遭ったり盗まれたり、荷物ごと無くしたりすること考えなきゃ駄目でしょ」


 肩を竦めると。


「スジラドあんた凄いわね」

「お前賢いな」


 とネル様とデレックが関心する。


「あと、薬とかも必要だよ。明かりや暖を取るのに火付け道具が必要だし、雨具の用意だって考えないと。いくら街道だって、夜には野獣も出るんだよ。もしかして、何も考えてなかった?」

「「うん!」」


 気持ち良い位あっさりと頷く二人。


「ああもぅ! ネル様、デレック。背嚢か、無かったら頭陀袋を探しといて。背負って両手を自由にしてたら、いざと言う時直ぐ武器を使ったり、走って逃げる時邪魔に為らずに済むんだから」

「言われてみればそうだよな」


 そんなことも頭になかったデレック。


「ネル様は厨房でお酢とお塩を貰って来て」

「それって何に使うのよ?」


 ネル様が訊ねる。


「お塩が無いと魚を釣っても獣を狩っても、食べられる草を採っても美味しくないよ。水にお酢を垂らしたら、他所の水でも水あたりを防げるし、お酢を使えば毛虫や芋虫の腸から釣り糸を作れるんだ」

「……前々から思ってたけど、スジラドあんた、それどこで覚えたのよ」

「あ……」


 塩が不可欠は兎も角、酢の殺菌力とかスグスもどきとか、教わった事の無い子供の常識じゃなかった。


「そう言えばスジラドったら、師匠に教わる前に急所とか知ってたよな」

「コンニャクとオリザワインを使ったお魚料理もよ。料理番が『お酒が調味料になるって何故知ってる。それよりコンニャクの薄切り一枚でこんなに味が良く成るって知らなかった』ってびっくりしてたわ」


 にじり寄る二人。


「あー。いや、それは……」


 何度目だろう。こんなの常識じゃないと思って口にしたらびっくりされるのは。


 いや、常識な話が多かった。だけど誰も僕に教えてないって言うのが拙かった。ここに来た時の推定年齢が五歳くらい。つまりその時点で当たり前のように知っていたと言うのがどんだけ異常なのかつい忘れてしまってた。

 言葉に詰まっていると、


「スジラドだから仕方ないか」

「そうよね。スジラドだから」


 二人はいつもの結論に達する。


 気を取り直した僕達は必要な物を手分けして調達。必要な物優先で選んだけれど結構嵩張る。


「肌着の着替えに紙束に、ハンカチ・ロウ石・鉛貨十六枚。手ぬぐい三本。バターに包帯に縫い針に絹糸少し。釣り針に五寸釘に火口箱……」


 僕が作ったリストと付け合わせながら背嚢に入れて行く。


「スジラドぉ。このでっかい油紙はなんなんだよ?」


 折り畳みながらデレックが聞いた。


「この結び玉を作った組紐は?」


 首を傾げるネル様。


「油紙は雨具だよ。雨で体冷やすの良くないよ。結び玉の組紐は手で登る縄梯子。組紐を木に渡して毛布に挟んだ油紙を三角屋根にすれば、ちっちゃいけど何度か使える間に合わせテントに為るでしょ? 本物の雨具やテントが欲しいけれど、嵩張ると僕達じゃ持って行けないもん」

「「へー」」

「ちょっと。なんでこんな事感心してるの? 当たり前でしょ?」

「「違う!」」


 二人の声が揃った。

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