第04話 不幸体質?

●不幸体質?


「おっと! ちびちゃんごめんよ」


 また取られた。空いてるテーブルが有っても、大人が先に座ってしまう。

 混んで来たとは言え二人用の席はそこそこ有るけれど、三人以上で座れる席が取れないのだ。


「ぼくぅ~。誰と来たの?」

「一人ってことは無いわよね」


 今の僕の歳ならおばさんと呼んでも許される、少しトウが経ったお姉さん方が声を掛けて来た。

 皮鎧を身に付け、剣帯に警棒を下げている。ここではどう呼ぶのか知らないけれど、ゲームならば冒険者と呼んじゃう姿だ。


「あら、首輪に迷子札……。この子モノビトね」

「それにしては貴族みたいなお洋服。さしずめ貴族様の飼ってるペットちゃんかぁ」

「ペット? そうよね。こんなちっちゃい子だと働かせるお仕事ないし。ねぇぼく。抱っこしちゃっていい?」


 ……ちょっと目の色が怖い。思わずこくりと返事をすると。


「あ~。癒されるわぁ~。わたしもこんな仔欲しい~」


 抱き上げて頬擦りするお姉さん。


「駄目よ。買い取るのは安くても、維持できないでしょ? ちっちゃ過ぎてお金稼がせるなんて絶対無理だし」


 わいわい言ってたお姉さんの一人が、迷子札を検める。


「どれどれ? ミィゾル・カルディコット……。えー! あの男爵家ぇ!」


 え? カルディコット? エッカート家じゃないの?


「スジラド! 何やってんのよ」

「ネル様ぁ」


 もがくと簡単に下に降りれた。


「見た、あの女の子。将来美人になるわよ」

「男の子だから、末は家令か側近かぁ。拙く行っても郎党かお役人」

「「モノビトでも充分勝ち組よねぇ」」


 後ろからそんな声が聞える。


「スージーラードー! もたもたしてるから、席埋まっちゃったじゃない」


 ぷんすか怒ってるネル様が、僕の手を掴んで引っ張った。


「いや。いつ食っても美味ぇなあ」

「なんたって、ミノタウロス肉百パーセントだもんな」


 野太い声が流れる店。客の殆どがいかつい顔の男達だ。

 だけど、ミノタウロスなんてこんなお店で使うほど沢山狩れるものだろうか? いや、百パーセントと謳っているのは魔物の肉ってことだけで、どんな魔物かまでは明記していない。大量消費出来るほど沢山獲れる魔物との合い挽きでも、魔物百パーセントには違いないんだから。

 そんなことを考えながら横を通ると、鋭い目でジロリと睨まれた。このお店、若い女の子も居るけど、おじさん達が怖いのか、隅っこの方で一塊に成って食べている。

 店は混みに混んでいてテーブルに空きがない。どうしようかとキョロキョロ空きそうなテーブルを探していると、


「おちびちゃん達。相席で良かったらこっちに来ないかい?」


 無精髭のおじさんが手招きした。


 板で仕切られた並びの二人席の片方に、一人で座っているおじさん。


「スジラドはあっちね」


 ネル様は空いている右の二人席の奥に腰掛けて、僕はおじさんと相席になった。

 直後、師匠がセットを運んで来てネル様を守る様に通路側に座る。


「これが魔物肉ってやつね。意外と美味しいわね。ほら、モーリも食べなさい」


 ここからは見えないけれど、ネル様がはしゃいでいるのが判る。


「スジラド君」


 隣に顔を向けていると、向かいのおじさんが僕を呼ぶ。優しそうな笑顔を作ってはいるけれど、この人本当は笑っていない。瞳にどこか、値踏みするような光を宿している。


「君は面白いそうをしている。千人に一人、いや百万人に一人かも知れない稀な相だ」

「はい?」

「良く言えば英雄の相。悪く言えば次から次へと厄介ごとを引き付ける不幸体質の相だな」


 いきなり変な事を言われた。


●魔物使い


 唐突な人相診断。胡散気な思いが顔に現れていたんだろうか?


「おいおい。君を騙して私が何か得するのかい?」


 苦笑いしながら言われた。


「ちっちゃい子を騙しても騙し取る金は無いし、拐かしても貴族様のモノビトでは割に合わないよ。それなら貧困窟の孤児に声を掛けた方が良い。

 最悪斬り捨てや縛り首にされるスリ・カッパライや、良家の子女なら口にするのもおぞましい商売をしているよりも、寝床や喰う所の保証のあるモノビトの方がよっぽどマシだからね。

 それに見目好い子供や賢い子供には養子の目もあるし、物心付く前なら最初からその家の子として育てられる場合もある。主人も元を取る為には金を稼げるように仕込むもの。だから納得ずくで身売りしたり、弟や妹を売ったりする子がいるのさ」


「おじさんって人買い?」


 恐る恐る聞いてみると、


「そう言う仕事もすることはあるよ。ただね。どちらかと言うと、私はヒトでは無く魔物を馴らす商売なんだ。ほら!」


 おじさんは右手を耳の高さまで上げると、


「おいで、ミミナ!」


 パチンと指を鳴らした。


「きゅいっ」


 一本立てた人差し指の上に、くすんだあかい毛皮のネズミが一匹。

 大きな愛らしい目でこちらを見ている。


「火ネズミのミミナ。私の下僕しもべの一つだよ」

「きゅいきゅい!」


 まるでナルニア物語のリーピチープのように、二本足で立ちあがって騎士の礼を取るミミナ。


「ミミナです。よろしくね」


 礼に合わせて甲高い声が響く。


「わぁ~」


 凄い凄い。凄過ぎて歓声しか出ない。


「あ……」


 まただ。夥しい知識の記憶が有っても、たとえ大人の駆け引きが出来たとしても僕は子供。心と舌は今の姿に相応しくとても敏感だ。


「くすっ」


 おじさんが笑った。


「外見通りの中身じゃないと思ったんだが、やっぱり君は子供だな」


 目を細めるおじさん。


「えーと」


 今のは多分腹話術。それにあんなに反応したせいか、さっきまでの値踏みするような感じはしない。

 それが良かったのか悪かったのか判らないけれど、少しだけ雰囲気が変わった。


「いやあ。ちょっと懐かしい気がしてね」


 おじさんは声を潜め、真面目な顔してこう言った。


「もし、君は過去の私なんだ。と言ったら、どうするかい?」

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