第8話:隔離と監視
「禁止事項があるなら言ってください。こちらから押しかけたわけですし、お気になさらず」
そう言うと、彼女は少し悩んだそぶりを見せてから、息を吸った。
「この建物から庭園へ出ることもできるのですが、実はまだ、家の中でお二人の素性が怪しいという話が出ておりまして。その、えーっと、つまりですね――
「あんまり勝手に出歩くな、ってことでしょ」
言葉を詰まらせたコイトマに変わって、パドマが言った。
「はい、あの、そうですね……」彼女の声が、少しずつ小さくなっていく。「もちろん、街は自由に歩いていただいてかまいません。ただ、屋敷の中を行き来するのは控えめにしていただければと」
「まぁ、それは仕方ないかな。私でもそうすると思うし」意外にも(と言っては失礼かもしれないが)、少女は納得の表情を見せた。「でも、窓さえ開ければ庭園に出られるんでしょ? こっちの意思に頼るのはどうなのかなぁ、セキュリティ的に」
謎の立場からのお言葉である。
少女の少々
「おそらく監視が付くと思います」
耳元でささやいた。
「なるほどね」「なるほど」
二人の声が重なる。
「分かりました。そういうことでしたら、なるべく庭園の方には出ないようにします」
「ご不便をおかけしますが、よろしくお願いします」
頭を下げるコイトマからは、
彼女は部屋の入り口まで戻り、「では、また夕食のときに」と言い残し、申し訳なさそうに出て行った。
扉の閉まる音が室内に響くと、思わず息がもれた。特に意識をしているつもりはなかったけれど、体に力が入っていたらしい。久しぶりに人とあったせいだろうか。
私は首をゆっくりと回してから、寝室に至る扉を開ける。
五メートル四方くらいの部屋には、左手の奥に大きなソファがあり、右手の壁に接するようにベッドが置かれていた。正面の壁は一面ガラス張りで、庭園へ出られるようになっている。シャワールームへの扉は、右手の壁の一番奥だ。
「だいぶ広いね」
パドマは庭の方を眺めながら部屋の奥へ歩いて行き、感心したように声をあげた。
ガラスの壁の向こう、ちょっとした芝生の先には、人工的な小川がずっと向こうまで流れている。そのちょうど中間地点くらいに、大きな噴水。小川の両隣には遊歩道のような小道が走っており、道を縁取るように、細長い針葉樹が点々と並んでいた。
とても美しい光景だ。
そう感じるのがあるべき姿のような気がして、胸の中でつぶやいてみたけれど、しかし体は正直で、視線は真っ白なベッドに吸い寄せられていた。柔らかな場所で寝たことなど、しばらくなかった。
誘惑に従い、倒れ込むようにして体を預けると、マットレスが包み込むように受け止めてくれる。そのままの勢いで、ベッドの上を
「********」
パドマの声が耳に入ってきたけれど、その音が何らかの言葉に変換されることはなかった。横目に見ている庭の木も、すぐに輪郭がぼやけ、視界の中に溶けていく。
私は
しばらく経った後、パドマに話しかけられたような気がしたけれど、もう体を起こす気力は残っていなかった。
ごめんちょっと眠い、と返したのは、夢の中だったかもしれない。
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